黒幕を追う②
アジトを出た小鳥遊と夜凪は、まずフルミの情報についてまとめていた。
全てボスから得た情報にはなるものの、次のようになる。
・フルミはフィリピンのアジトを化け物を使って壊滅させており、そこには小鳥遊や夜凪もいた
・小鳥遊や夜凪はフルミと呼んでいた
・行方不明になった幹部などはフルミに消された
・魔術商人を脅し、ボスを倒すように誘導していたのはフルミ
・万物を溶かす薬はフルミに買い占められたかも
この情報から調べるべきことはわかる。まずは、フルミと小鳥遊達の関係性、そしてフルミとボスや魔術商人との関連性である。
「幹部がフルミに殺されたとボスが断言していた以上、フルミが行方不明事件について大きく関わっていると見ていいな」
「じゃあ、私は地道に私達とフルミの関係を調べてみるね」
「あぁ。俺は、一度この住所に何があるか見てくる。何かわかったら連絡する」
そう言って、小鳥遊と夜凪はわかれた。
小鳥遊は深怪究明団の拠点に戻ってきていた。
「フィリピン行ったときの記録とか残ってないかなー」
本棚の本などを順番に見ていくも、そのときのことを記録したものなどは出てこなかった。それどころか、今までの活動に関するものが一切ない。
「え、そんな記録残してないことある?」
再び探してみるも、過去の活動に関するものが出てこない。唯一あるのは、一番最近の5月23日の儀式のための通り魔事件を解決したときに撮った、夜凪と小鳥遊の映っている写真だけだ。
確かに、最近の活動だとこの写真くらいしか残ってないけれど、それより前に関するものが一切残っていないなんてことがあるのだろうか。
今までに得た情報の中に何か手がかりがないかと、小鳥遊はしばらく考えた。
「……そういえば、真弓さんって、私達が深怪究明団ってわかってたよね……あ、でも私だけが写った写真を見たことがあるからか……」
そこまで口にしたときだった。
「……あ! じゃあ、あれって!」
小鳥遊は急いでスマホを取り出した。夜凪が真弓と連絡先を交換しておいてくれたおかげで、小鳥遊も真弓の連絡先がわかる。
小鳥遊は、真弓に電話をかけた。すると、真弓はすぐに電話に出た。
「あの、夜分にすみません。深怪究明団の小鳥遊です!」
「あぁ、先日はありがとうございました。どうかされましたか」
「あの……真弓さん会ったとき確か、『そういえば、聞いていたよりも人数が少ないようですが?』と言ってましたよね。何で私のことしか知らないのに人数が少ないとわかったんですか?」
小鳥遊はあのときの真弓のセリフを思い出していたのだった。もし、小鳥遊のことだけしか知らないなら、小鳥遊、夜凪、羽川の三人で足りているはずだ。そうでなければ、羽川が深怪究明団のメンバーじゃないことを予め知っていなければ、その発言は出ないはずだ。
それを確かめるために小鳥遊は真弓に電話をかけたのだった。
小鳥遊の問いかけに、真弓はごく普通に答えた。
「深怪究明団は四人組ですよね?」
「え……どういうことですか?」
「……私は四人組だと他の方から聞いていたのですが」
「私以外のメンバーについての詳細について聞いたりしてませんか!」
「いえ、今のところ聞いておりません」
「そうですか……」
「……また何からありましたら、気軽に連絡してください」
「あ、夜中にありがとうございました」
そうして、小鳥遊は電話を切った。
やはり、ボスだけじゃない。私達と周りで何か記憶にくい違いが起きている。そして、それについて考えれば考えるほど、何故か胸が締め付けられるような感覚に襲われた。それでも、小鳥遊は深く考え込んだ。
一方、夜凪は紙に描かれていた住所の場所へと向かっていた。東京都内といということもあり、そんなに遠くない場所であった。
その住所の辺りに来てみると、そこは普通の住宅街だった。そして、紙に描かれていた場所はごく普通の一軒家があった。
見た目は黒を中心とし、直方体型をしている。どうやら二階建てのようだ。表札には海道と書かれている。
「海道……苗字だけじゃ、わかんねぇな」
訪ねるにしてはもう遅い時間だである。何があるかわかっただけでも収穫だた夜凪は判断した。
そして帰ろうと歩き出したしたとき、ふと思い出した。
「……魔術商人の野郎にも聞いてみるか」
夜凪は歩きながら、魔術商人へと電話した。
「……はい」
「安心しろ、アンドリューは倒した」
「その声は、さっきの……それで、た、倒したのは、本当ですか?」
「あぁ」
「そうか、そうか……ふぅ」
電話越しにも、明らかに安堵している様子が伝わってくる。
「それで、一つ質問なんだが」
「なんでしょう」
「フルミって奴は知ってるか?」
「いや、知りませんね」
「……そうだ。お前、なんであんなにアンドリューを倒したがってたんだ?」
「そう伝えろと言われただけだ、私は何も知らない!」
魔術商人は突如慌てた様子で、捲し立てるようにそう言い捨てた。
「落ち着け。俺の推測なんだが、お前を脅していた奴がフルミなんじゃないのか?」
「え、どういうことです?」
「アンドリューは死ぬ間際にフルミに組織をめちゃくちゃにされたと言っていた」
「組織を……」
「それで、俺達はフルミについて調べているんだが」
「やめるんだ、それ以上踏み込まない方が良い」
魔術商人は真剣な声でそう言った。
「何か知ってるのか?」
「あいつは恐ろしい」
「恐ろしい?」
「最初は普通の魔道書を買って行った普通の客だったんだ......それが、次に買いに来たとき、石と蘇生の書を買っていったんだ」
「それがどうかしたのか」
「実は、本物かどうかわからない物も高い値段で売っていたんだ。石についてはやばい化け物が封印されてると言われているし、蘇生の書は大魔術師ルインが書いたとされている」
ルインの書……俺たちが解決した事件にも関係していたな。夜凪はそのまま黙って聞いていた。
「本当だとしたら使いこなせるはずもないし、売れたときは儲かったと思っていた......」
「そしたら、次に会ったとき、石に封印されていた化け物を目の前で解き放って……あれを思い出すだけで……ひぃ、ひゃー」
そう言って、電話が切れた。
石に封印された化け物というものは思い出すだけで発狂させるほどの、とんでもないやつだったのだろう。
そして話を聞く限り、魔術商人を脅していたのもフルミであり、その化け物を使っている。
フルミに関する情報が得られた夜凪は、小鳥遊にそのことについて連絡した。
そして、深怪究明団の拠点では、真弓に電話を終えた小鳥遊が考え込んでいた。丁度その時、夜凪から連絡が入った。それは紙に書かれていた住所の情報と、魔術商人から得たフルミの情報についてであった。
小鳥遊は、真弓から得た情報を夜凪に共有した。夜凪からは、わかったとだけ返信があった。
小鳥遊は紙を取り出し、夜凪から得た情報を含め、フルミに関する情報を紙に書き出した。
これらの情報を元に考えたとき、フルミに関する仮説がいくつか考えられた。しかし、小鳥遊にはわからないことがあった。その仮説が正しいとした場合、フルミはいったい何のためにこんなことをしているのか、それに何を思って行動しているのか……
そのとき、羽川からメッセージが届いた。どうやら、ボスについての方はひと段落ついたようだ。
そのとき、小鳥遊は思い付いた。そして、羽川にメッセージを返した。
『お疲れ様! お願がいがあるんだけど、連続強盗事件の被害を受けた場所や被害者それで死傷者がでたのか、細かい個人情報まで調べてくれない?』
そのメッセージに対して、羽川からは『任せて』と返信しがあった。
返信を確認した小鳥遊は、スイートルームに戻るため、荷物をまとめた。そして電気を消す前、改めて拠点を見回した。夜も遅く、誰もいない静かな部屋。
「はやく、本来の姿に戻れると良いなぁ」
そう呟いて、拠点を後にした。
小鳥遊はスイートルームに戻った。そして、そのままソファに座ると、何考えずにボーッとしていた。
朝から動きっぱなしで、ボスとの戦闘もあったことから、体は思った以上に疲れていた。考えられことも考えたことだし、今日はもう休んだほうが良いかもしれないと、小鳥遊は思っていた。
そうしていると、夜凪がスイートルームに戻ってきた。
「あ、お帰り」
「あぁ」
そう言って、夜凪はソファに深々と座った。
「そういえば、怪我はしてないか?」
夜凪は小鳥遊にそう声をかけた。
「大丈夫、ありがとう。夜凪は大丈夫なの?」
「あの程度の奴なら余裕だ」
そう話していると、羽川からメッセージが入った。小鳥遊が頼んでいた犯罪組織による連続強盗事件に関するデータが送られてきたようだ。
そこには、初めて起きた事件から幹部が逮捕されるまでに起きた事件の、日時や場所、実行犯や被害者の個人情報まで詳しく書かれていた。
2022年の5月2日から、2023年の1月の末までの間で広範囲で事件が起きている。被害者は怪我を負っていることが多く、死亡している物もある。実行犯はだいたい二ヶ月後には逮捕されているようだ。
それを見ていた小鳥遊は、ある部分に目が止まった。
もしかして、これでは……
小鳥遊は食い付くようにスマホの画面を見た。頭の中でまばらであったものが、今まさに線で繋がろうとしていた。
『羽川さん、この日の事件の被害者についてもっと調べて』
小鳥遊は素早く画面をタップし、そうメッセージを送った。
そして少しすると、羽川からそのことについての詳細が返って来た。
それを見て小鳥遊は確信した、フルミがどういう人物なのか、そして何のために行動しているのか。
小鳥遊は現在得られた情報をまとめたものをメッセージとして送信した。更に付け加えて、
『こういうわけだから、明日の朝10時に住所の場所に集合でも良い?』
とメッセージを送った。
羽川からもそれに同意する返信がすぐに来た。
そうして、やっとスマホの画面から顔をあげ、隣にいる夜凪を見た。
夜凪も黙ったまま頷いた。
明日、やっと全てが解決できるかもしれない。でもそれは、そのときになってみないとわからない。
小鳥遊達は明日に備え、今日はもう寝ることにした。