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黒幕を追う①


 5月26日の夜。


 紙に書かれていた路地裏に着く頃には、日が落ちて辺りは暗くなっていた。路地裏は人の気配もなく、周りからも見えにくい場所に位置していた。そして、そこにはマンホールがあった。


「確かここだよね」


 小鳥遊がマンホールを調べると、それは開いた。ライトで照らしてみると底は見えるもののかなり深い。20mほどだろうか。


 羽川を先頭に夜凪、小鳥遊と続き、梯子をつたって降りていった。


 底につくと、そこには少しのスペースがあるだけであった。紙に書かれた内容によると、隠し扉を開くためのボタンがあるらしい。


「これかな?」


 小鳥遊がハシゴの裏にあった出っ張りを押すと、壁にタッチパネルが表示された。


「ええと、44528と」


 小鳥遊がそう打ち込むと、壁の一部がスライドし、扉が現れた。羽川と夜凪は銃を取り出して構えた。


 そして羽川は扉に耳を当てた。少しして、羽川は小鳥遊と夜凪に音を立てないよう合図をし、扉をゆっくりと開けた。


 扉の先は長い通路となっており、奥の方にもう一つ扉がある。


 羽川は慎重に通路を進み、罠がないことを確認すると、小鳥遊と夜凪にも来るように合図を送った。


 小鳥遊も音を立てないようにゆっくりと進んだ。


 そして、通路の奥の扉に三人が集まった。


 羽川は再び扉に耳を当てた。そして、指を一本立てた。どうやら、中に人が一人いるそうだ。


 羽川がこちらをみると、小鳥遊と夜凪は頷いた。そして、羽川はカウンドダウンを始めた。3……2……1…


 羽川は勢いよく扉を開けて、羽川は右に、小鳥遊と夜凪は左に展開した。そして、夜凪と羽川は中にいる男に銃を向けた。


 そこにいた男は、以前に見たボスの写真の男と一致していた。鍛え上げられた体をしており、上裸に青のジャケットを羽織っており、髪は肩につくくらいの長さをしている。ボスで間違いないだろう。


 部屋はまあまあ広く、壁も床もコンクリートが剥き出しである。家具はそんなに置かれておらず、簡素なテーブルにベッド、後は棚があるくらいである。あとは、廃棄物であるドラム缶などが無造作に置かれているくらいだ。


 ボスは両手を上げて立ち上がった。そして、小鳥遊達の方を見て口を開いた。


「一度は助かった命を、こうも粗末にするとは。まあいい、今回は全員殺してやる」


 そう言うと、突如男の前方に二つの魔法陣が現れ、そこから二体の化け物が飛び出した。


 その化け物は半魚人のような見た目をしており、体長は2.5mくらいだ。見た目はほぼ魚であるが、人形をしており両手に鋭い爪を持っている。


 そして、それはそれぞれ小鳥遊達と、羽川に襲いかかった。


 羽川はなんとか転んで爪を避けた。夜凪は短剣を取り出し、爪を受け止めた。


「小鳥遊、おまえは下がっとけ」


 夜凪は後ろにいる小鳥遊にそう言った。小鳥遊は頷いて後ろへ下がろうとした。しかし、小鳥遊が下がり、化け物の後ろ側が見えたとき、小鳥遊の目には、銃をこちらに向けるボスの姿が映った。


 ボスはニヤリとし、引き金を引こうとした。その瞬間、ボスの拳銃は左後方へと弾き飛んだ。小鳥遊が右を見ると、そこには銃を構える羽川の姿があった。


「チッ」


 ボスは舌打ちすると、弾き飛んだ銃を拾いながら、ドラム缶の裏へと身を隠した。


「やるなぁ、羽川」


「ありがとう」


「射撃は得意だからね。それよりもこいつらを」


 こう話している間にも、二体の化け物は夜凪と羽川に襲いかかっていた。化け物と戦ってる間にボスに再び狙撃されたらそれこそまずいと小鳥遊は思った。

  

 小鳥遊は持ってきていた短剣を手にし、羽川の方に注意がいき、こちらに背を向けている化け物の方へと走り出した。そして、化け物の背中へと勢いよく短剣を振り下ろした。


 すると、ぎゃぁぁぁ、という鳴き声をあげて化け物が苦しみ出した。でかい背中に短剣を刺しただけなのにもかかわらずである。


「あれ、もしかしてめっちゃ効いてる?」


 小鳥遊は不思議そうにしていた。


「でかした。羽川、こっちを使え」


 夜凪はそう言って、拳銃を羽川に投げた。その拳銃はムラービトのところで買った拳銃だ。羽川はそれを受け取り、再び起き上がろうとする化け物に数発撃ち込んだ。


 すると化け物は倒れて動かなくなり、塵となった消えた。


 夜凪の方を見ると、夜凪は化け物の攻撃を楽々と避けながら、短剣で次々と斬りつけていた。


 そして、化け物の動きが鈍くなってきたところに、思い切り蹴りを入れ、ダウンさせ、そこに追い討ちをかけるように胸に短剣を深々と突き刺した。


 そして、最後の化け物も塵となって消えた。


 あんな巨大な化け物を蹴飛ばせるなんて、やっぱり夜凪は凄いなぁ、と小鳥遊は思った。


「おっと、そういえばボスは」


 小鳥遊はドラム缶の方を見た。


 しかしそこにボスの姿はなく、既にボスは羽川の方にダッシュで殴りかかっていた。


 羽川は何とか拳を受け止めようとするも、勢いを殺しきれず、押し倒された。


 ボスが間髪いれず拳銃を取り出すも、ボスの顔目掛けて短剣が飛んできていた。


 夜凪が短剣を投げていたのだ。ボスはそれを避けて、向かってくる夜凪に向かって発砲するも、夜凪はそれを避けながら接近し、拳銃を蹴り飛ばした。


 ボスは夜凪に殴りかかるも、夜凪は冷静に攻撃をいなし、ついにボスのみぞおちに膝蹴りを入れた。


「ぐっ……」


 ボスは声にならない声をあげ、壁に持たれるように倒れ込んだ。


「終わったな」


 夜凪はそう言って、ボスの元へと近寄る。羽川も銃を構えた。


「質問に答えてもらおう。秋山をどこにやった?」


「……知らんな」


 夜凪の問いかけに、ボスは息切れしながらそう答える。


「どうせ捕まるんだ。今なうちに吐いといた方が楽だと思うぜ」


「そうだな……一泡吹かせてやりたかったんだがな」


「どういうことだ?」


 少し間をおいてボスは口を開いた。


「そうか、やはり覚えていないんだな」


「そういえば、一度は助かった命をとか言ってたかど、私達と会ったことないよね?」


 小鳥遊はそう尋ねた。今思えばボスの最初の発言は不自然だったからだ。まるで、一度会ったことがあるかのような発言だった。


「いや、お前達はフィリピンの俺のアジトに乗り込んできている」


「え……」


 小鳥遊はそんな記憶はなかった。フィリピンにグール使いを探しに行きはしたが、結局何もなく単なる旅行で終わっていたはずだ。


 小鳥遊は夜凪の方を見た。夜凪は首を振った。


「あ、そうだ。魔術商人脅してたのもあなた?」


「何のことだ」


「脅されてるから、ボスを倒して欲しいってここの場所教えられたけど」


 小鳥遊がそう言うと、ボスは急に笑い出した。


「はーはっはっは……そうか、奴の仕業か」


「奴って?」


「お前達は奴のことを、フルミと呼んでいたな」


 何なんだ、さっきから全く身に覚えのない話ばかりがでてくる。ボスは嘘をついたいるのだろうか、にしてもそんなデタラメをいう理由もないはず。小鳥遊は一度考えるのをやめた。


「あ、万物を溶かす薬買い占めたのってあなただったりする?」


 気持ちを切り替えるために小鳥遊はとりあえず質問をした。


「いや、俺は買えなかった。あの化け物に対抗できると思っていたが、先手をうたれていたのか……既に買い占められていた」


「化け物?」


「奴はそいつを使ってアジトを壊滅させた。奴のせいで組織が崩壊した。奴のせいで全てが狂った」


 ボスは怒りに声を振るわせながらそう答えた。


「そのフルミってのは、俺たちとどういう関係なんだ?」


「さぁな、興味もない」


 夜凪は再び考え込む様子を見せた。


「犯罪組織のものが不審死したり、行方不明になったりしている。そらは、お前の仕業か?」


「いいや、奴だろうな」


 羽川の問いかけにも、やはりフルミという人物の仕業ただとボスは答えた。


「不審な行方不明事件については何も知らないのか?」


「知らんな」


そんな問いかけがされている中、小鳥遊は一度落ち着いて情報をまとめた。とりあえず、ボスは行方不明事件とは関係がない。ボスの言うことが正しければ、フルミという人物が黒幕だ。そして、小鳥遊達はどうやらフルミのことを知っているらしい。


 段々と考えがまとまってきていたときだった。


「ゴフッ」


 ボスが突然血を吐いた。


「なっ、どうした」


 羽川が慌てて近寄る。


「奥歯に仕込んでいた毒を飲んだ……認めよう、完全に俺の負けだ」


 ボスはそう言って最後に机の方を指差し、息を引き取った。これが、強大な犯罪組織のボスの最期であった。


「ボスの処理は私の部下に任せよう。行方不明事件はどうやらまだ解決していないみたいだからね」


 羽川はそう言って、スマホを操作していた。


 小鳥遊はボスが最後に指差した机の方を見た。そこには、紙が置かれており、住所が書かれている。


「また住所?」


 紙には東京都の詳しい住所が記載されていた。


「何の住所だろう」


「もしかしたら、フルミってやつのかもな」


 小鳥遊の呟きに夜凪はそう答えた。ボスが最後に指差すということは、そうなのかもしれない。


「さて、とりあえずこれからどうする?」


 スマホを操作し終えた羽川が尋ねた。


「フルミという人物について調べてみようと思う」


 小鳥遊がそう答えると、夜凪も頷いた。


「わかった。ところで、ボスは君たちがすでにフルミのことを知っているかのように言ってたけど、何か情報はないのかい?」


「ボスの言う通りなら、私たちはその人物を知っているはずなんだけど…… 今日初めてきいた名前だし、それがなんでかは私たちにもわからないの」


「死ぬ前に嘘をつくとも思えないしな」


 夜凪の言う通り、小鳥遊にもボスが嘘をついているようには思えなかった。それに、何か変な感覚がある。言葉では説明できないけれど、今は調べるしかない。


「奴のせいで組織が滅んだか.......」


 羽川は独り言のようにそう呟いた。そして、少し考え込む様子を見せた後、指示を出した。


「私は部下とともにボスの後処理を行うから、先に調べておいてくれ。私も手が空き次第すぐに協力する」


 小鳥遊と夜凪は、アジトを後にした。







 



 





 




 


 





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