手がかりはオカルトに①
25日の17時30分頃、小鳥遊は帝国ホテル東京の前に来ていた。少しして、羽川も到着した。
「あ、羽川さん」
小鳥遊は手を振った。
「やぁ、連絡ありがとう」
もしかしたら有力な情報が手に入るかもしれないということで、羽川も同席することになったいた。二人はロビーの椅子に座った。そして18時になる5分前には夜凪も到着した。
「よぅ」
夜凪はそう言って軽く挨拶した。
「もうすぐ時間だね」
羽川が腕時計を確認してそう言った。
「さて、いくとしますか。オカルト同好会突入編!」
小鳥遊はそう言って元気よくエレベーターへと向かった。
三人は、プレミアルームの前へと到着した。呼び鈴を鳴らすと、中から若い男性が出てきた。細目で白い髪をし、細身の体型をしている。
「オカルト同好会の会員様ですね。どうぞ中へ」
その男性はそう言って三人を招き入れた。中はとても広い部屋であり、大きなテーブルの周りでは五人ほどの人物が既に席に座り談笑している。
「さぁ、お座りください」
男性はそう言って、大きなテーブルの周りに座るよう促した。
「ありがとうございますー」
小鳥遊はそう言って席に座った。そして、夜凪と羽川も席についた。
その男性は小鳥遊の方をじっと見た後、口を開いた。
「私、オカルト同好会の代表で、この集まりの主催である真弓と申します。あなた方はもしや、深怪究明団の皆様でしょうか?」
「あぁ、そうだ」
夜凪は素直にそう答えた。
「おっ、どうやら私たちも有名になったみたいですなぁ」
小鳥遊がそう言うと、真弓は頷いて答えた。
「えぇ、こちらの界隈では有名ですよ、数々の怪事件を解決してきたと。そういえば、聞いていたよりも人数が少ないようですが?」
「あー、今一人用事で」
小鳥遊はそう答えた。真弓は恐らく秋山のことを言っているのだろう。
「そうでしたか」
そんな話をしていると、テーブルの周りに座っている他の会員のおじさんが話しかけてきた。
「良ければ、今までの冒険譚をお聞かせ願えませんか?」
「そんなに聞きたいのか?」
夜凪がそう尋ねると、おじさんは笑顔で大きく頷いた。
「そのための集まりですからね」
どうやら、この集まりはこんな感じに互いのオカルトにまつわる情報を交換したりする場であるのだろう。
「いいでしょう! 私たちの輝かしいエピソード、お聞かせしましょう!」
「おぉー」
「それは楽しみだなぁ」
小鳥遊が自信満々にそう言うと、おじさんだけでなく他の会員の者達も食いついてきた。
「そうですね、これは京都であった話で……」
小鳥遊はそう言って話し出した。小鳥遊の話を他の会員が熱心に聞いている中、夜凪は羽川に話しかけた。
「なぁ、羽川」
「ん?」
「何か違和感を感じたんだが、羽川は気が付かなかったか?」
「特に何も」
「そうか」
夜凪はそうとだけ言って口を閉ざした。小鳥遊はその間も喋り続けていた。
「……でその後、幻の神器を使ってなんとか封印できたんです」
「それはすごい」
「最後までやりきるとは、さすが深怪究明団の皆さんだ」
「いやいや、そんなことないですよー」
どうやら、小鳥遊の話は会員の人達にウケが良かったようだ。場が盛り上がっているのを感じられる。
「私達からも何かお話しできたらいいんですけどねー」
「深怪究明団の皆様なら大抵のことは知っているだろうし」
会員の人達はそのようなことを口にした。
「えー、そんなことありませんよ。私たちも知らないことはまだまだあります」
小鳥遊がそう言うと、会員達はうーん、と悩んだ様子を見せた。
「じゃあ、何か聞きたいこととかは?」
会員の一人がそう尋ねた。
「うーん、そうですねぇ」
小鳥遊は少し考えた。やはり今手に入れたい情報は行方不明時間に関することだ。
「そういえば知ってます? 最近パソコンを残して行方不明になってるあれ……」
小鳥遊は少しぼかしながら尋ねた。色々大事な情報もあるため、相手が知っているかどうかを見定めたからの方が良いと判断したのだ。
「パソコンを残して行方不明……どういった内容でしょう?」
会員はパソコンを残して行方不明という事象については心当たりがないようだ。
小鳥遊はもう少し踏み込むことにした。
「どうやらオンラインゲームサイトとチェスが関係してるらしいんですけど……」
すると、会員の一人が反応を示した。
「ああ、あれかい? ある操作をしたら魔法使いになれるとか、消えるとか、お金持ちになれるとかいうやつですね」
お金持ちになるかどうかはわからないが、何か知っているようだ。
「それかもしれません。よかったらその話、きかせてくれませんか?」
小鳥遊がそう言うと、おじさんが尋ねた。
「もしや、本当に行方不明になるのですかな?」
「いや、私も聞いた話なんで本当に行方不明になるかはわからないですけど……」
小鳥遊は少しドキッとしながらそう答えた。
すると、他の会員の人が話に入った。
「コンピュータの前から消えるということは、コンピュータの中に引き摺り込まれたか、どこかに転移されたかだろうねー」
やはり、オカルト的な視点で見てもその二択になるのだろう。しかし、結局詳しいことは誰も知らない様子だ。
「怖いですねーそんな神隠し的な現象が起こるなんて」
小鳥遊はそう言って他人事のようにして話を終えようとした。そのとき、羽川が口を開いた。
「最近、強大な犯罪組織が強盗などを指示していた事件がありましたよね。それに関する情報とかはないでしょうか?」
この事件に関することは機密情報が多いはずである、これに関する質問は羽川に任したほうが良さそうだと小鳥遊は考えた。
羽川の質問に対し、会員の一人が答えた。
「最近、実行犯が不審死したって聞いたけどねー」
「詳しくお願いします」
羽川がそう言うと、会員は次のように説明した。
2023年2月20日に、2022年5月2日の強盗事件の実行犯の二人の変死体が都内の路地裏で発見された。死因は現代科学では説明できない原因不明の毒だったそうだ。ボスがクリーチャーを使って口封じに殺したんだろうと会員は語った。
「え、クリーチャー?」
羽川は驚いた様子でそう聞き返した。
「ああ。あの強盗組織のボスはこっちの界隈ではアンドリューって呼ばれてるんだが、魔術商人と取引をしクリーチャーを駆使するらしいってことで有名だよ」
小鳥遊も驚いた様子でそれを聞いていた。まさか、犯罪組織のボス自体がオカルトに関係していたとは思っていなかった。もしかしたらこの線で調査すれば、秋山の行方が捕まるかもしれない。だとすれば、今調べることは……
「魔術商人……」
小鳥遊が考え込んだ様子でそう呟いた。すると、それを見たおじさんが声をかけてきた。
「興味あるのかい? わし、知っとるよ。魔術商人の連絡先……いる?」
急な提案に一瞬驚いたものの、小鳥遊はすぐに答えた。
「え、いいんですか? ありがとうございます!」
小鳥遊がとても喜んだ様子でその連絡先を受け取っていると、他の会員も話しかけてきた。
「そういうのでいいのなら、ムラービトの連絡先をあげよう。彼はね、対魔術や対クリーチャーに関する道具を売ってるんだよ。この界隈にいるなら、知ってて損はないよ」
そう言って、その会員も連絡先を渡してきた。
「わー、ありがとうございます!」
小鳥遊は同時に二つの連絡先を手に入れた。とんとん拍子にことが進み、小鳥遊のテンションは上がっていた。
すると、おじさんがまた口を開いた。
「あ、魔術商人ね、今日本にいるんだけど……最近連絡したとき、わしには商品を売ってくれなかったんだよね」
「そうなんですか。私たちになら売ってくれるかなー」
小鳥遊は新たな情報を得られたことに満足していた。そんな賑やかな様子の中、真弓が口を開いた。
「皆様、そろそろお開きの時間です。今回は大変有意義なものでしたね。また次回もよろしくお願いいたします」
真弓がそう言うと、皆荷物をまとめ帰る用意を始めた。そんな中、夜凪が真弓に話しかけていた。
「なぁ、少しいいか?」
「どうされましたか?」
「どうして俺たちが深怪究明団ってわかったんだ?」
耳を傾けていた小鳥遊は確かにと思った。深怪究明団の情報はネットには上がっていないし、真弓とは会ったこともない。
その質問に対して、真弓は普通に答えた。
「他の方に、そこの女性の方の写真を見せていただいたことがありまして、それでわかったのですよ」
撮ったことあったっけ? それを聞いた小鳥遊はそう思った。
「その写真に写ってたのははアイツだけか」
「深怪究明団の人達の中ではそうですね」
「そうか。良かったら連絡先を交換しておかないか?」
「ええ、喜んで」
他の人達が身支度を整えて帰る中、夜凪は真弓の連絡を手に入れたようだ。
「さ、帰ろ!」
小鳥遊がそう言うと、夜凪と羽川も頷いた。
「またお話しできることを楽しみにしております」
真弓はそう言って、三人を見送った。
三人はとりあえずスイートルームへと戻った。
「はぁー、疲れたー」
小鳥遊はそう言ってソファに座った。
夜凪は言うまでもなく既に座っている。今日は色々収穫があった一日であたった。疲れるのも無理がないだろう。
「二人とも、お疲れ様」
羽川はそう言ってコップに飲み物を入れて持ってきた。
「ありがとうございます」
小鳥遊はそれを受け取るなり一気に飲み干した。
「はぁ、生き返ったー」
小鳥遊はコップをカチャンと机に置いた。羽川もソファに座り、飲み物を一口飲んだ後、口を開いた。
「とりあえず、今日出た情報をまとめておこうか」
「そうね、今日は色々な方があったもんね」
小鳥遊はそう言って紙を取り出した。そして、手に入った情報を口に出しながら書き出していった。
「ええと、魔術商人の連絡先に、ムラービトの連絡先……それに、ボスはクリーチャー使いと」
小鳥遊が一つ一つ書き出していくのを、夜凪は横で黙って見ていた。少し時間が経ち……
「こんな感じかな」
そう言って、小鳥遊はペンを置いた。書いてある内容は大体口に出していたことそのままだ、
「そうだね。明日はこれらを中心に調べようか」
書かれたものを見て、羽川はそう言った。
小鳥遊は頷いた。
「俺も異論はない」
夜凪はそう言うと、ソファの空いている場所に横になった。
「俺はもう休ませてもらう」
そう言って、夜凪は目を閉じた。時間を確認すると、もうすぐ日付が変わる頃であった。
「もう夜も遅いしね、私も一度帰ることにしよう」
羽川もそう言って席をたった。
「じゃあ、また明日ー」
小鳥遊がそう言うと、羽川は軽く手を振って部屋を出た。
情報もある程度まとまったし今日はもう休もうということで、小鳥遊はスイートルームのベッドで眠りについた。
眠りについた小鳥遊は、今日も夢を見ていた。
「まさか吸血鬼が実在したなんてー」
小鳥遊は仲間に向かってそう言った。
「燃やせば倒せるとは思ってなかったが」
夜凪はそう答えた。
「俺たち、初めての活動で吸血鬼を倒して事件解決したんだ。結構すごいんじゃないか?」
秋山がそう言った。
「折角だし、記念に写真撮っとこー」
小鳥遊はそう言った。そこで、小鳥遊は気がついた。これは、実際に吸血鬼を皆で倒した後の出来事だと。
「そうだね、深怪究明団の初めての実績だもんね」
ここまでで会話をしたところで、小鳥遊は目を覚ました。