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〈6〉嘘と秘密と

〈6〉



「はぁ…………」


 屋敷(うち)の自室のベッドの上で、溜め息をつく私。迂闊(うかつ)にも神様と()()()()()を、マルシオ大司教様にポロリと言ってしまったのが原因なんですけど…………まさに『口は災いの元』ですね。


 あの後マルシオ大司教様からは「あなた様は神の御子です!」とか「聖女様!」とか言われ、お父様と大司教様の私を巡るバトル勃発で散々な目に会いました。まぁ大司教様としては何としても、教会本部に私を引き取りたかったみたいだし……勿論お父様は大反対だったけど。お母様の鶴の一声が無ければ、延々と言い争いを続けていたと思います……流石はお母様です、はい。


 もっとも私の溜め息の原因はそれだけじゃないんですけど……ね。


 それはお父様とお母様に、神様から「神啓」で授かった魔法と技能(スキル)の事を話さなくてはならないからなのです!

 あのあと気が付いたら魔法や技能(スキル)についての知識が、何故か頭の中に入っていたので困らないんですけど……これをどう()()()説明すれば良いのでしょうか? と言うか人の頭をスマホ扱いしていません、あの神様?!


「う~~~」


 頭を抱えながらベッドの上でしばらく悶絶していたけど、いつまでもこんな事していても(らち)が明かないですし……結局なる様にしかならないですよね………よーし!


 私はベッドから飛び起きるとドアの向こうで待機しているエミリオ君に声を掛け、お父様達が待つ大広間へと向かう事にしました。



  * * * * *



「旦那様、ディナ様がお見えになられました」


 ドアの前に控えるメイドさんがそう告げて、大広間の大きなドアが開けられ、私はおずおずと中に入ります。中にはティーテーブルと椅子が何セットが据え付けられていて、その中の窓際の日が良く当たる場所で、一際目立つ大きな椅子に座るお父様とお母様が。


 お父様は私の姿を見ると手招きし、私はお2人の(そば)に向かいカーテシーをしながら「お父様、お母様。ご心配をおかけいたしました」と謝罪を口にしました。


「ディナ、もう具合は大丈夫かな?」


 お父様は心配そうな顔で私の具合を気にします。お母様も心配そうです。


「はい。少しベッドで横になっていたので楽になりました」


「そうか──それは何よりだ」


「本当に心配したのよ」


「申し訳ございませんでした」


 ……… 2人とも本当に心配してくれていたみたい。本当に私には過ぎた両親です……… 。そう思いながら私は、2人の前に置かれている椅子に座りました。


「それではディナよ。平復(へいふく)したてで悪いが、私達にお前が受けた神啓を教えてもらえまいか?」


 ── つ、遂に来ました!


 私は心の動揺を抑える為に軽くひとつ深呼吸すると、意を決して()()()()()()()()を話し始めます。


「はい。私が神さまから授かったマジア(魔法)は【光】と【風】です」


「ほほう?! 二属性も授かったのか?」


 お父様は驚いた声を上げましたが、その顔は喜色に満ちていました。


「それで、技能(スキル)の方は?」


 お母様が待ちきれないみたいに聞いて来ました。


「はい。【隠秘(カヴァート)】と言ってました」


「【隠秘(カヴァート)】?」


「はい。見ていてください」


 私は椅子から立ち上がると、座っていた椅子に手を掛けて()()()()()()()()()()すると椅子がフッと()()()のです! これは私が神様からもらった【隠蔽(ハイド)】の能力の一端に過ぎませんが、真実を誤魔化す為に()()()()()()()()()()()()()


 案の定お父様とお母様は、目を見開いて固まってしまいました。いつもはダンディーな執事のレイエスも、驚愕が顔に張り付いています。


「ディ、ディナ、これは椅子を消してしまったのか…… ?」


 お父様が(かす)れた声で聞いてきます。


「いいえ、見えなくなっているだけですよ」


 そう言って()()()()()()()()()()()()()()()()()それを見て更に目を剥くお父様── 目が落ちそうです。


 お父様とお母様が見えなくなっている椅子に近付き、()()()()()()()()を確認すると、今度は恐る恐る座ってみます。目には見えなくとも確かにそこに存在する椅子に、今度は喜々(きき)として代わる代わる座る二人なのでした。


「うむ! ディナよ! これは凄いな!!」


「本当に! 奇蹟の様だわ」


 一頻(ひとしき)り興奮している2人を見て、ちょっと珍しいのを見た感じがします。


 やがてそれも落ち着くと、お父様が神妙な顔で語りかけてきました。


「ディナよ。お前がフレイヤ神から素晴らしい力を授かった事はわかった。良くぞ嘘偽り無く話してくれた」


 …… ごめんなさい、お父様。(すで)に嘘を付いています…………… 。


「だが、この技能(スキル)は決して口外してはならない。お前自身を(まも)る意味でも、だ。もし、悪しき心を持つ者にこの技能(スキル)が知れれば、悪事に利用されかねない。例えお前に協力する気が無くても、お前の最愛の者達が人質にでも取られていた場合はどうする? 心優しきお前の事、自らの意思すら曲げかねん。なのでこの技能(スキル)は、その名の通り隠秘する様に──良いね?」


 いつになく真剣な面持ちで話すお父様。なるほど、お父様もこの技能(スキル)の危険性に気が付いたみたいです。


 確かに()()()()()()()()()()()を使えれば、()()()()()は暗殺や犯罪をし放題になりますからね。()()()見えなくすると言う事はとどのつまり、そう言う事なのです。

 私は神妙な顔でお父様に「はい、決して口外いたしません」と誓うと、お父様は大変満足した様に大きく頷きました。


 私は見えない椅子に手をやり、技能(スキル)を解除します。元の見える状態に戻った椅子を見て


「でもディナ、あなたは本当に凄い力を授かったのね……」


 お母様がポツリと(つぶや)きました。お母様ごめんなさい、全て話せない娘を許してください……… 。


 それにしても…… 神様の名前、フレイヤって言うんですね……… 。確か北欧神話の女神の名前だった記憶があるんですけど………… 気の所為(せい)じゃない…… ですよね?



  * * * * *



 嘘の告白と共に多くの秘密を抱えながら、私は10歳になりました。お陰様で身長も伸び140センチに、髪は腰まで伸ばし、体重はおよそ…… えへん、秘密です♡ 身体は女性特有の丸みを帯び始め、胸も…… 少し膨ふくらみ始めました、はい。


「…… ん……… ふあぁ~」


 今朝も目覚めはバッチリですねぇ~。そう言えば地球ではスマホのアラームで目覚めていたのに、転生していたらそんなの無くてもちゃんと起きれる様になりました! 本当に慣れって怖いです…… 。


「お早うございます、ディナ様」


「はい、おはようエミリオ君」


 当然ながらいつもの(ごと)く、部屋の外にはエミリオ君が待機しており、私の目覚めに合わせて入室してきます。お父上のレイエスは執事(バトラー)から家令(スチュワード)に昇格しまして、エミリオ君も私の従者から執事見習いに昇格し、最近益々レイエスに似てきている、当年11歳のエミリオ君なのでございます。


「今日の予定はどうなっていますか?」


 私はエミリオ君が揃えてくれた部屋履きに足を通しながら(たず)ねます。


「本日は午後からジョゼリン先生の授業のみでございます」


「そう──」


「あと、奥様から言付(ことづ)かった事があります」


「お母様から?」


 ── はて、なんでしょう?


「明日の午前、宮廷作法を教える為に新しい先生が見えられるとの事です」


「そうですか…… わかりました。あと他にはありませんか?」


「特にはございません」


 私はホッと息を吐くと、エミリオ君に礼を言います。これでエミリオ君は一旦退室します。何故かって? 私が着替えるからに決まっています! 私に他の殿方に肌を(さら)せと?


「お嬢様、お召し物です」


「ありがとう、ルイシア」


 私はメイドのルイシアから着替えを受け取り、着替えを済ませて寝間着(ネグリジェ)をサッと畳むと鏡台に向かいます。後ろでルイシアが、私の脱いだネグリジェを片付けてくれています。鏡台ではもう一人のメイドのセルフィナが待っています。


「お嬢様、御髪(おぐし)(セット)お手伝い致します」


「ありがとう、セルフィナ」


 私は自分で髪をブラシで()かし、セルフィナは髪型を纏めるのを手伝うのみです。私は立場上公爵令嬢ですが、服を着替えたり髪を纏めるのは自分自身でやる様に(しつけ)られていますし、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()あまり慣れてません。こればかりは転生を9回繰り返しても抵抗があるんです良し、元日本人としては! なので、今の両親の躾の方針は、ほぼほぼ違和感無く受け入れられました。


 やっぱり「三つ子の魂百まで」でしょうか? 通算年齢は軽く100を超えてますけど!


「さてと……これで良いかしら」


 髪をセットし終えて、姿見鏡で服装や髪型に変な所が無いかチェックします。まぁルイシア達に聞けば直ぐなんでしょうけど……こういうのは自分の目で確認するのが重要なんですよね。

 因みに私が1歳の頃からのメイドさんであるルイシアとセルフィナの2人も、子守(ナースメイド)から私付きの侍女(レディースメイド)へと昇格しました。皆んな私の成長と共に、変わって行くんですねぇ…… まぁ皆んなも成長していると言う事なのですね、うん!


 そんな事を鏡の前で考えていたら、エミリオ君が来て朝食の支度が整った事を伝えてくれます。


「では、参りましょうか」


「「行ってらっしゃいませ、お嬢様」」


 ルイシアとセルフィナに見送られて、大食堂(ダイニング)に向かいます。いつもの事ながらエミリオ君は私の数歩後ろにピタリと付いてきます。


 途中の廊下には、大きな窓から差し込む朝の光がキラキラ乱舞しています。



 ── うん、今日も良い一日になる様ですね!

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