〈5〉駄神とドジっ子属性と
〈5〉
── はぁ!?
駅の階段踏み外して、お尻丸出しで階段を尻スキーで滑り降りたんですって!?!?
『はい、そしてそのあまりの恥ずかしさで直後に心臓発作で──』
私は全力で床(?)に突っ伏しました! ここが部屋なのか知らないけど! しかしナニよ、その残念な死に方?!?!? そんな人様に笑われる死に方したとかありえない!
しかもお尻丸出しだなんてオンナなのに?! 決してボンッキュッボンの美人ではございませんでしたけど、流石に酷くない?!
床に転がり悶絶している私を見ながら、神様は申し訳なさそうに『だから聞いて欲しくなかったのに……』と肩を震わせていました── が、良く見ると噴き出すのを堪えているだけでした!
こ、この神様わァ── !?! まぁ正確には女神様なんだけど!
── そこ! 笑わない!!
『ご、ごめんなさい。つい……』
そう涙目で謝る神様………… ホントにもう、これじゃ10年前に亡くなったお婆ちゃんに顔向け出来ないじゃない!!
『こほん。それでは宜しいかな?』
── 切り替えがえらく早いわね、ホントに!
『いつまでも笑っていたら流石に失礼じゃない?』
── はァ……… で、何かしら? わざわざ私をおちょくりたいから、境界に呼び止めた訳でもないでしょうし………… 。
私はジト目で神様に尋ねます。無論肉体はありませんけど!
『勿論、ちゃんと重要な要件があったから。枢木朋乃さん、あなたは亡くなる直前にある男性に失恋しましたよね?』
── うぐ! また痛いところを突いてきますが?! まぁそうですが……… それが何か?
そうなのです。私、枢木朋乃27歳。人生初の恋愛が文字通り泡と消えたばかりなのでした! しかも初めて告られて舞い上がった挙句、実は二股掛けられていたと言うおまけ付きで!! お陰で物の見事に階段を踏み外しました!
『私は主に「恋愛」を司る者、実はあの男の浮気癖に辟易していたの。あなたがあの男に声を掛けられる時も視ていたんだけど──私達神は基本、現世に干渉してはならない事になっているので、あなたの失恋を防ぐ手立ても打てず── 正直悶々としていました』
── 神様には神様のルールがあるのね……確かにそれじゃあ仕方ないかしら………… まぁあまりホイホイ助けられても困りますけど……………… 。
そんな風にひとり納得していると
『でも、あなたが期せずして亡くなられたので急いでこの境界に呼び止めたと言う訳』
…… 何となくだけど、この神様が私をわざと死なせた気がするのは………… 気の所為? まさか…… そんな事はありませんよね? ね?
── それで? 何でわざわざこんな所に? 慰めてくれる為だけにしては、少々大袈裟だと思うんですけどねぇ?
『本来ならあなたの魂は、輪廻の輪の流れに乗り、緩やかに次の転生を待つのが普通です。しかし、今回私はあなたの希望を叶えたいと思うの。但しそうすると輪廻の輪から外れてしまうんだけど……… どうしますか?』
── それって、結構重要な事ですよね? 輪廻転生出来なくなるなんて…… 。
『あ、でもちゃんと人間には転生出来ますよ? あなたの魂の徳は高いから。それに一度だけ私の権限で特定の世界に転生出来ます。そのあとはその世界の輪廻の輪に組み込まれるので』
── つまり、私が希望を叶えてもデメリットが少ない、と言う事ですか……… 。
『どうします? 勿論あなたが望めば元の世界の輪廻に戻す事も出来るけど?』
改めて聞き直される私。何だかハメられてる気がするけど、そんな事は構いません………今の私が未練に感じ、そして熱望する事はたったのひとつ!!
──── 愛を……… 。
『はい?』
── 「真実の愛」を! 私が望むのはそれだけです!!!!
『おおぅ?! そ、それだけで良いのかな?』
思わずたじろぐ神様。だけどそんな事は構ってられません!
── あとは幸せで裕福な家庭に生まれれば言う事ナッシング! 先ずは私に真実の愛をプリーズ!!
折角生まれ変わっても貧乏で、その場でバッドエンドとか有り得ませんしね!
『何か微妙に台詞が死語っぽい……それに要望が増えてるし………』
神様のジト目のツッコミも気にしてられません!
── 仕方ないんです、そう言う世代なんで!
『こほん── 兎に角わかりました。今回限りの出血大サービスと言う事で』
──神様もそれ死語じゃね?
思わず突っ込んでしまう私。
『では───【No sacrifice to get true love】【Get a happy and wealthy family】─── はい、これで加護が与えられました』
── まさかのスルー?! それにしても凄くあっさりしていますね、加護……… 。
『コホン。では…… そろそろ留め置ける時間も無い事ですし、あなたの魂を新しい輪廻の流れに組み込みますね』
神様はわざとらしい咳払いをすると、そう私に告げるのでした。
── ああ…… うん。神様、色々とありがとうございました。
『これからの新しい生で、あなたの行く先に幸あらん事を── 私はあなたを見守っています。たぶん…… (ボソッ)』
── 今サラッと、責任放棄しなかった?! ねぇ?!
私の抗議をスルーする神様。瞬く間に私の魂体が光に包まれ、あっという間に神様の顔が遠ざかっていく?!
『ではお元気で〜』
── ちょっと待った〜〜〜〜〜!!
遠ざかる私に手を振る神様に向かい、私の文字通りの魂の叫びは届く事は無くて、私がそれまで待っていた意識はプッツリ切れたのでした──── 。
* * * * *
「……… 今改めて思い出したんだけど」
『な、何かな?』
───── ツカツカツカツカ
── ボガッ!!
『痛い! 二度も殴った?! しかもグーで!』
「うるさい! あんた、最後に責任放棄していたじゃない!?!」
『そ、それは………』
「言い訳禁止!!!!!」
『はい………』
シュンとしょぼくれる神様─── 何か繰返している? 私は激昂した神経を落ち着かせる為に、大きく3回深呼吸します。もっともココって空気あるのでしょうか? まぁ今更ですけど!
若干ハイテンションのまま神様に向き直ると、神様が頭を抱えてうずくまっていた──どしたの?
『殴られたの…… 殴られたの…… 二回も殴られたの…………』
涙目でブツブツ言っている神様── 女神様だけあって正直ちょっと可愛いかも♡
「あの~そろそろ戻ってきて欲しいんですけど〜?」
『ぐすんぐすん……… もう殴らない…… ?』
「う、うん、殴らないから」
何とか宥めると、ようやく神様は立ち直り
『…… もうッ! 今度殴ったりしたらミジンコに転生させますからね!』
と、ひと言涙目で宣言されました。うえっ、それだけは勘弁して欲しいです! 残りの人生、ミジンコなんて嫌過ぎます!?!
『それで…… どうしますか?』
「何が?」
『あなたの眼を魔眼にする件ですよ』
うーんと頭を悩ます私。まぁメリットデメリット考えればメリットの方が勝る、かしら…………… うん。
「じゃあ、よろしくお願いします」
そう言って頭をぺこりと下げると、やたら上機嫌になる神様──何となく不憫さを感じるのは私だけでしょうか?
『よし! なんなら何かサービスしますけど?』
本当にこの神様は立ち直りが早過ぎます!
「サービスって?」
『いわゆるチート能力ってヤツですねぇ』
良いのかな、そんなにあっさりチート能力を与えてちゃっても?!?
「そんなチート能力なんて良いですから! 今でも充分知識チートだし……」
そうなんですよね~。前世の記憶と知識はそのまま転生して、新しい事を経験してその経験と知識を持ったまま、更に転生して…… を繰り返したので私の頭の中には、地球を含む転生9回分の記憶と知識が収まっているんですよ! 私、昔から記憶力だけは人より何倍も優れていたから、これくらい造作でもないんですよね~。フッフッフ~。まぁお陰で余計な知恵ばかりつきましたけど!
「そんな事より神啓を授けてくれないかしら?」
『神啓? あぁ、魔法と技能の適正ね!』
神様は手をポンと打つ。
『じゃあ、どの魔法の適正が良いのかな?』
「そんな軽いノリで良いの?!」
『構いません、サービスです!』
神様ェ……………
「ま、まぁ有れば便利だし、魔法…… でも流石に全属性持ちとかは──」
無理でしょうと言おうとすると、神様は人差し指をくるりと回しながらひと言
『── はい! 全属性使用可…… と!』
── って、うぉい!?!?
「!?! ちょ、ちょっと待って! そんなあっさり持たせないで!?!」
『えっ? あっ?!』
神様が慌てふためく…… ま、まさか。
『ごめんなさい。登録しちゃいました♡』
てへぺろ♡と謝る神様── この神様はまたやらかしましたよ!
『だ、大丈夫よ! 誰にも言わなければ!!』
今度は神様が落ち込む私を慰めますが…… ちっともありがたくない!!
『じゃ、じゃあ、技能でカバーしましょう! 【隠蔽】と言う技能があれば誰にもわからなくなるから! ね?!』
「は、はい……」
私は茫然自失としながら、ぼんやり頷きます。
拝啓、お父様お母様── 私はいよいよ本当にチート持ちになってしまいました…… どうしましょ?
『そ、それじゃあ、そろそろ時間みたい! スキルとか魔法に関しては後で連絡します!』
神様はワタワタしながら、時間切れを告げて来ます── えっ! もう?! と言うか、どうやって連絡するの?! スマホにメールするのとは訳が違うんですが?!
『では転生10回目、今度こそ「真実の愛」が見つかります様に── 私は今度こそ見守っていますから! 絶対に!!』
神様がそう言うと、私の視界はぼんやり霞んできました。そして周りを眩い光に包まれると私は意識を手放したのです。
* * * * *
「──── ディナ様、アルムディナ様?!」
誰か私の名を呼ぶ声で意識が不意に覚醒すると、床に突っ伏している私と、その私の肩を優しく揺するマルシオ大司教の姿に気が付きました。後ろの席では今にも駆け寄りそうなお父様と、心配で青ざめた顔のお母様がいました。
ああ、そうか…… 私、神様に会って………… 。
「大丈夫です、大しきょうさま。ご心配おかけいたしました」
私はゆっくり身体を起こしマルシオ大司教様に謝罪します。
「一体何が── ! ア、アルムディナ様── もしやあなたは神にお会いになられたのでしょうか?!?」
大司教様は何か確信めいた面持ちで、興奮気味に問い掛けて来ます。流石は教会のトップだけの事はありますね、私の些細な異変に気付いたみたいです。
私はにっこりとマルシオ大司教様に微笑むと
「はい── 神さまとお会いいたしましたわ」
と、ひと言答えたのでした。しまった! 思わずテンパってて余計な事を口走ってしまいました!
─── えっと……… 流石に不味いわよね?
本日はあともう一話投稿してあります。そちらも続けてお読み下さい。