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〈19〉罪過と別離と進展と

〈19〉



 新しい年が巡り、私も15歳になりました。身長157センチ、体重秘密の見目麗(みめうるわ)しい女性でございます──()()()では少女ですが、此方(こちら)では成年と見なされていますからね。

 容姿もお母様に瓜二つ──この前なんて後ろからお父様が「フィリア♡」と抱きつく程でした。勿論その後、お母様にこってり(しぼ)られておりましたが…… 。


 本当にお父様とお母様は、いつまでも仲がお(よろ)しい事です、はい。


 それはともかく──目下の最重要案件の「成人の儀」と大舞踏会ですが、メレディス先生から聞いた話では12月30日に「成人の儀」が、大舞踏会が12月31日──つまり大晦日に執り行われる筈です。道理で毎年、年末にはお父様とお母様のお2人とも屋敷にいらっしゃら無かった訳です。


 兎にも角にも今年は私も「成人の儀」を受けますので、私の運命の人(パートナー)選びも王宮に家族で向かう日──12月25日までに決めないといけないと言う事です! つまりはいわゆる元の世界でのクリスマスまでにと言う偶然でございます!


 あと3ヶ月で()()()()を射止めないといけませんね……!



  * * * * *



 さてさて、一大決意したのは宜しいんですがどうやって「解」を得るかが問題です。とりあえず正攻法だけでは無く奇策も取り混ぜまる事に致しましょうか── 。


 実は9月の誕生日をお祝いしたあとから、ソレに対する()()()をして来ましたので早速試してみたいと思います。因みにエミリオ君は、執事の勉強の為にお父上であるレイエスの元で修行中なので好都合でした。

 私はルイシア達メイド’Sに頼み2人を部屋に呼びました。ほどなくしてドアがノックされ


「「ディナ様、レヴィ(エミリオ)です」」


 ……何でこの2人はこうも見事にタイミングが合うのでしょうか? 尋ねる声すらもハモっています。


「はい、お入りくださいませ」


「「失礼致します」」


 見事なハモりをしたままドアを開けて入って来るレヴィ様とエミリオ君。エミリオ君もですが実はレヴィ様とも1ヶ月半お会いしてませんでした。それもこれも全ては今日と言う日の為の仕込みです。


「「ディナ様、お久しぶりでございます」」


 ……だから、あなた達は何故にそこまでハモるの? わざとやってません??


 私の素の突っ込みに気付く事なく、礼を解いて私を見た2人はピキッと固まりました。何故かって? だって2人の目の前には少しぽっちゃり系に変身した私が居るんですから!

 この日の為に暴飲暴食に不摂生、食っちゃ寝して溜めた脂肪でございます、はい!


「「で、ディナ様……? 随分とお変りになりましたね」」


 ここまでハモると最早(もはや)才能の領域ですね。


「……そんなに変わりましたか?」


 私はわざと気にするみたいなフリをします。


 エミリオ→「はい……私が不在の時に運動摂生は成されなかったのですか?」


 レヴィ→「はい、少しふくよかに成られた様に見えますが……それも健康的だと思います」


 成程……エミリオ君とレヴィ様だと随分受け取り方や見方が違うのですね。特にエミリオ君は外見重視の傾向があるみたいです。


 では次に行ってみましょうか?


 私は急にモジモジし始めます。勿論わざとですが──そしてひと言


「ごめんなさい……お話しの途中ですが、御不浄(ごふじょう)に行ってきていいかしら」


 エミリオ→「来客前に済ませておかなくてどうします……ディナ様の品位が問われます」


 レヴィ→「これは気付きませんでした、申し訳ございません。どうぞごゆるりと」


 ここでエミリオ君は従者にあるまじき言動を発し、レヴィ様は大人の対応です。


 どうやら少しずつ見えて来ましたね……と私はおトイレ(御不浄)の洋式便座さんに腰掛けながら、その結果にひとりウンウンと頷くのでした。もちろん用は足してませんよ?


 その後は他愛もない話しをして、2人にはお帰りいただきましたのは言うまでもありません。



  * * * * *



 またたっぷりと1ヶ月半、時間を空けてから2人を再度部屋に呼びました。


「「ディナ様、エミリオ(レヴィ)です」」


 もういちいち驚きません──はァ。


 部屋に入り挨拶の礼をした2人が顔を上げると、私を見て再び固まりました。そこには1ヶ月半前とは打って変わって、すっかり元の体型(スタイル)と美貌を取り戻した私が居たからです。いえ、違いますね……今日は少し化粧にも力を入れていつもより輝いている私がそこに居たのでございます!


「どうでしょう? 前月の反省を踏まえ頑張ってみましたけど──」


 エミリオ→「それでこそ私の知るディナ様でございます。大変お美しゅうございます」


 レヴィ→「ディナ様、ご無理はなされませんでしたでしょうか? 健康を害しては元も子もありませんので」


 なるほど……エミリオ君が私に求める物とレヴィ様が求める物は全く非なる物なのですね……今回で良くわかりました。この1ヶ月半、文字通り死にものぐるいでダイエットしただけの事はありましたわ。


 それに2人を魔眼で見比べてはっきりわかった事があります。共に青白い輝きを放つ二人ですが、話していて時々輝きの中に()()()()が見えるエミリオ君に対し、時々白金(プラチナ)の輝きを放つレヴィ様。こんなにも差があるんですね…… 。


 そんな事を思いながらまた他愛もない話しで、私はお茶を(にご)しました。それから1週間後────── 。



  * * * * *



「エミリオ君──いいえ、エミリオ・キャンベル。あなたは私の従者から外れてもらいます。(すで)にお父様とお母様には許可を受けています。私の言葉はすなわち、お父様であるクルザート公爵閣下のお言葉と知りなさい」


 私の(りん)とした声が部屋に響きます。私の前には、突如の展開に表情を強ばらせたエミリオ君が立っていて、私の後ろにはレヴィ様が警護に就いています。


「何か言いたい事はおありかしら?」


 私がそう()くとエミリオ君は少し震えた声で


「……何故私を従者から外すのですか? せめてその理由をお聞かせください」


 まぁ当然の疑問ですね。ここは奇策では無く正攻法で──── 。


「あなたが私に()()()()()を持ち合わせている事はお母様から聴いています。勿論後ろに控えるレヴィ卿の事も含めてですが」


 前と後ろで2人がビクッとしたのがわかりますが、私は構わず言葉を続けます。


「その上で私はこの数ヶ月、2人の事を私なりに()()()()()()()()()()()()


 更に2人がビクッとしています。


「──エミリオ君、あなたが愛しているのは着飾られた()()()()()()なのだと言う事を知りました。上辺(うわべ)の美しい人形のような私に自身の理想を押し付けているだけの愛情です。いえ、それは愛情とも呼べないものです」


 私は()()()語気を強めます。


「残念ながら、私はあなたの愛に応えられません──いえ、応えたくもありません。何故ならそこには私が求むべき愛が無いからです。私は着飾らない()の私を──例え醜く老いさらばえ様とも、ありのままのアルムディナと言う女性を愛してくれる人ならば、幾らでも応えようと心に決めていますから」


 そして一呼吸置いて──私は決定的な台詞を口にします。それは私の我儘(わがまま)罪咎(ざいきゅう)として。


「あなたは幼い頃から共に歩んで来たのに、私の()()()()()()を愛していたのが本当に残念でなりません。そしてその様な感情を持っている人を、私の(かたわ)らにいつまでも置いておく訳にはいきません。なので──お別れです。今まで尽くしてくれた事には感謝します。今後はお父上であるレイエスの元で、一人前の執事になれるよう頑張ってください。それではご機嫌よう──」


 出来る限り冷たい表情と言葉を投げ掛けると、私はプイと背を向け二度と目を合わせる事はしませんでした。


 (しばら)くしたのち──背後で布擦(ぬのす)れの音がすると


「アルムディナ様──この10年間、本当にお世話になりました……これにて失礼致します」


 悲しそうな声が響き、靴音と共にドアを開ける音が響き──静寂が訪れました。


「ディナ様……」


 レヴィ様が心配そうに声を掛けて来ます……そう言えば私の真後ろにはレヴィ様が控えていたのをすっかり忘れていました…… 。


「お泣きになられているのですか……?」


「……泣いては……いけませんか?」


 そう……私はエミリオ君に背を向けたのは、むしろこの泣き顔を見せたくなかったからです…………だってエミリオ君に決別の言葉を告げる時には、胸が張り裂ける程痛かったから…… 。これは私自身が自分に与える罪だと割り切っていても、やっぱり辛いものは辛いんです……私は10回繰り返した人生の中で、初めて自分の我儘で人を振りました…… 。


 そして一頻(ひとしき)り泣きじゃくると、私は泣き腫らした顔をゆっくりレヴィ様の方に向けると、涙声のまま話し掛けます。


「これが私です……エミリオ君の気持ちを知った上で自分の我儘を通そうとする──我儘で最低な女です。でもその我儘は全てあなたの──」


 ──あなたの愛を得たいが為と言う私の台詞は、レヴィ様の熱い抱擁(ほうよう)に止められました。


「それでも──」


 レヴィ様の声が耳元で響きます。


「それでも私はディナ様を好きでいられます。それさえも貴女(あなた)なのですから。独りよがりの我儘ならばあなたが涙を流す必要など何処にもない筈、なのにあなたは涙を流された。その涙はあなた本来の優しさで溢れるのだと私は知っております。それに──」


 レヴィ様は私から体を離すと


元来(がんらい)愛すると言う事は我儘なのでは無いでしょうか? 好意とはすなわち相手に対する我儘だと私は思います」


 そう言って優しく微笑みます。その笑顔に痛く苦しかった胸が今度はキュンと(うず)きます。


「──本当に私でよろしいのでしょうか?」


「あなたで無ければ困ります」


 キッパリ言い切るレヴィ様。私を肩を抱く手に力がこめられます──あんな事の後で軽率で身勝手だと思いますが、男前に見えます──だから、もう少し我儘になっても良いですよ……ね?


「お願いです……続きの言葉は大舞踏会に…… 。私、お待ちしておりますので」


 まだ少し涙が輝く目で上目遣いにお願いしてみます。するとレヴィ様は満面の笑みで


「わかりました。成人の儀の後の舞踏会で私の思いを伝えさせていただきます」


 と(おっしゃ)ってくださりました。これでもう後顧(こうこ)(うれ)いはございません。思えば今日は12月24日、クリスマスイヴ──どうやら一念天に通じたみたいです。聞き届けたのが()()神様なのかはわかりませんですが…… 。



 あとは全て、大舞踏会の夜に── 。

本日はあともう一話投稿してあります。そちらも続けてお読み下さい。

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