表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

〈13〉 新年と謀略と

〈13〉



 年が明け王国歴498年1月、いま私は車上の人となり、私を乗せた馬車はひたすら街道を王都シュターデンに向かっています。


 ミュリエル王女の朋友(ほうゆう)となってからの恒例になった登城(とじょう)ではありますが、他にも王族の方々への新年の御挨拶も兼ねております。因みにお父様とお母様は(すで)に御挨拶を済まされたそうなので今回は同行しておりません。


 もう何だか親戚の家に遊びに行く感覚でございます── 実際国王陛下は私の叔父様でございますが。


 そう言えばお年玉とか貰えないのでしょうか?



  * * * * *



「ようこそおいでくださりました、アルムディナ様」


 王宮に着くと1人の男性が出迎えてくれました── あら? 何時(いつ)もなら近衛騎士団の何方(どなた)かに案内していただくのですが?


「申し遅れました。わたくし侍従長を務めさせていただいてますエヴァンスと申します。本日国王陛下におかれましては閣僚の方々との会議が押しており、また近衛騎士団は新年の閲兵式(えっぺいしき)に備え、皆様訓練の為に出払っております。ですのでアルムディナ様を応接間まで御案内する様に(おお)せつかって参りました」


 長い口上を一気に言い切るエヴァンス侍従長── ご苦労様です。


 本来いつもならこのままミュリエル王女の部屋に直行なのですが、今回は国王陛下方への新年の御挨拶を済ませてからでないといけませんからね。私はエヴァンス侍従長に付いて行く事にしました。



  * * * * *



 王宮の長い廊下を歩いていると、王宮勤めの貴族の方との遭遇率が必然的に高くなります。何人かは見知った方達も居られるのですが、そうした方達は私を目にすると(うやうや)しく礼を()ります。そうした方達は私がクルザート公爵令嬢であり、ミュリエル王女と()()()()()である事を知っている方達ばかりです。


 そんな風に挨拶を交わしながら進んで謁見の間まで延びる大廊下に差し掛かった時、向こうの方から2人の貴族の方がひとつの部屋に入るのが見えました。ここには様々な貴族や閣僚の方々が待機したり、王様と非公式な謁見(えっけん)をする為に幾つかの応接間が並んでいます。恐らく私の前か後に王様に用事のある方々なのでしょう。


 そんな事をつらつらと考えていたらエヴァンス侍従長は、私を先のお2人が入られた隣りの応接間に案内したのでした。


「ではアルムディナ様はこちらにてお待ちいただければ幸いです。今、侍女にお茶を運ばせますので(しば)しお待ちを」


 侍従長はそう言ってお辞儀をして部屋を出ていきました。さて……と。お茶が来るまで少し手持ち無沙汰ですね。()()()()()スマホを(いじ)っていれば済む事なんですが、ここも含め()()()()()()()()()では大した娯楽がありませんしね。


 なので私は退屈しのぎに両隣りの部屋の話を盗み聞きする事にしました。ちょっとお転婆心が(うず)きます♡ちょっと聞き耳を立てるだけですのです問題などありません! 多分ですが。


 早速「魔法大全エンカントメント・マジカ」に書かれていたマジア(魔法)聞き耳(オービンシス)】を発動させてお隣りの声を………… うん、聞こえませんね! どうやらこちらの部屋はお留守みたいでした。


 気を取り直して反対側に向かいマジア(魔法)を発動させると話し声が聴こえて来ました。先程部屋に入る所を見たのですから当然と言えば当然ですね── さてさて、何をお話しているんでしょうか?


『──それで?』


『はい、本日登城だとの話です。恐らく(すで)に到着しているかも知れません』


『ならばよろしい。あとは手筈(てはず)通りに事を進めるのみだな』


『ミュリエル王女殿下お付きの侍女は既に抱き込み、()()()()()()()()()は渡しております』


『あとは事の成り行きを見定め、国王陛下と女王陛下に取り入る事さえ出来れば……』


『閣下の思惑通りになるかと』


 ………… 何やらきな臭い話を聴いてしまいました。この続きをと思ったのですがメイドさんがお茶を持って来られたので聴きそびれてしまいました。でも聞き捨てならない言葉(ワード)が── ミュリエル王女の事と、お茶に仕込む薬?! これってまさかミュリエル王女に毒を盛る計画── ?!? いやいや国王陛下なら兎も角──叔父様には失礼ですが──どうしてミュリエル王女が狙われないといけないのでしょうか?!


 大体ミュリエル王女を毒殺しても何のメリットも無いハズ…… 他に狙いがあると考えるのが自然ですよね………… (など)と考えを巡らせているとエヴァンス侍従長が迎えに見えられました。仕方がありません、陛下にこの事を話すにしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まず誰が話していたのかを突き止めないといけません。侍従長に尋ねれば教えて貰えるのでしょうか?


 私は混乱する思考を切り替えて、先ずは国王陛下方にお会いする事にしました。



  * * * * *



 控えの応接間を出ると丁度、お隣りの部屋から中に居た2人が出てくる所に出会わせました。


 改めて良く見ると1人には見覚えはありませんでしたが、もう1人には見覚えが…… 。中肉中背の体つきに焦茶色(ブルネット)の整えられた髪、目はいわゆる糸目と呼べるほど細く、パッと見、なにを考えているのか判断に迷う様な印象のある人物── ロンズデール伯爵です。先程の物騒な話をしていた1人がこの人なのですね…… 。


「おお、これはアルムディナ様。お久しぶりです」


 ロンズデール伯爵は一緒に退室したもう1人と話していたみたいでしたが、私と目が逢うと糸目顔に笑みを浮かべながら会釈します。


「これはロンズデール伯爵、先日の一瞥(いちべつ)以来でございます」


 私はカーテシーを()り答礼します。伯爵とはミュリエル王女に逢う為に初登城した時に、国王陛下(おじさま)から主要貴族を集めて紹介された時以来なのです。


「今日もミュリエル王女殿下のお相手ですかな?」


「はい。それもございますが、あと国王陛下と王族の方々への新年の御挨拶に(うかが)いましたの」


 とりあえず当たり障りの無い話をしていると、右目がチリッと(うず)きました── これは?!


 私はすぐさま魔眼を発動させ、その目に映った伯爵の()を見てハッとしました。その色は暗い赤色── どうやら伯爵は私に対して悪意を持っているみたいです。


 もっとも大体の方は私に対して、多かれ少なかれそんな感情を持たれているのは薄々感じていますが。


「それは重畳(ちょうじょう)。申し遅れましたが新年おめでとうございます」


 そう言いながら右手を胸に当てて会釈するロンズデール伯爵。私もカーテシーを執りながら


「これは失礼しました。新年おめでとうございます」


 と改めて答礼します。一々(いちいち)本当に貴族って面倒くさいものでございます…… 。


「そう言えば紹介が遅れました。これに控えるはブルーデ子爵です。ブルーデ子爵、この方がクルザート公爵令嬢で在らせられるアルムディナ殿下であらせられる」


「お初にお目にかかります、アルムディナ殿下。ルロワ・ボリュー・ブルーデ子爵と申します」


 紹介された優男のブルーデ子爵も魔眼を通して見ましたが、こちらも見事に暗い赤色でした。ロンズデール伯爵は兎も角、初対面の子爵からも悪意を向けられるとは思いもよらない事です。


 しかしこの2人が先程の()()()()()()()()()()()()()()…… 。


「こちらこそよろしくお願いします。ブルーデ子爵」


 またもや当たり障りの無い返事を返す私。


「それにしても……」


 何かを思い出した様に話すロンズデール伯爵。


「本当ならミュリエル王女殿下には、我が12歳の娘を朋友(ほうゆう)にと思っていたのですが…… アルムディナ様に先を越されてしまいましたな」


 そう言いながら(あご)に手を当て困った素振りをします。だけど私の目には、その細い目に一瞬剣呑(けんのん)な光が── そして魔眼には暗い赤色が一瞬さらに暗さを増したのが()()()()()()


 自分の娘をミュリエル王女の朋友に出来なかったのは私の所為だと言わんばかりですが、そんな事に根に持たないで欲しいものです。それに今からでもミュリエル王女とは朋友になるのは出来ると思うのですが?


 (いず)れにしてもそれが私に悪意を持つ理由なら、はっきり言って逆恨みも良いところです。


 でも…… そうすると先程の話はミュリエル王女では無く私の事を話していたのでしょうか? もちろん自意識過剰だと言われればそれまでですが…… 。それに先程「本日登城」と言ってましたが、今日登城している王女の関係者は私だけですし…… 。これは陛下に話すべきなのでしょうか?


「どうされましたかな?」


 ふと気が付くと伯爵が怪訝(けげん)そうな顔で私に話し掛けて来ました。どうやら自分の考えに没頭していたみたいです。


「あ……いえ、何でもありませんの」


 私は取り(つくろ)う様に笑顔で返事を返すと


「私はただ、ミュリエル王女殿下の従姉妹(いとこ)と言う間柄でしかありません。それに王女殿下は御自身と御友人となられたい方は常に歓迎されていますわ」


 と少し(へりくだ)ってみます。すると伯爵は細い目を更に細めながら私に(たず)ねて来ます。


「ほほぅ、ではアルムディナ様から王女殿下に取り成していただけないでしょうか? 娘からも懇願され、父親として何とかしてやりたいのですが……」


「わかりました。では今日にでも王女殿下には具申しておきますわ」


 私がそう告げると難しそうな顔から一転


「おお! 左様ですか! 是非とも良しなに!」


 と顔面に喜色を(にじ)ませながら大袈裟に礼を執ります。でも相変わらず魔眼に映る色は暗い赤── これは何処まで本気なのか判断に迷いますね…… 。


「ではこれにて失礼しますぞ。早速屋敷に戻り妻と娘に報告せねばいけませんからな!」


 そう言いながら再び大袈裟に礼を執ると、足早に廊下を歩いて行くロンズデール伯爵。ブルーデ子爵は私に会釈すると、直ぐその後ろに付いて行きました。


「ふぅ……侍従長、お待たせして申し訳ございませんでした」


 私は2人の背を見送ると、私達の話の間ずっと待っていてくれた侍従長に軽く謝罪します。


「いえいえ、構いません。わたくしに対して謝罪なども不要です」


 エヴァンス侍従長はニコリと笑顔を返してくださりました。


 国王陛下(おじさま)をあまりお待たせするのも失礼でしょうし、私は侍従長にエスコートされ謁見の間へと急ぐ事に致しました。



 さて── どの様に話を切り出しましょう?

本日はあともう一話投稿してあります。そちらも続けてお読み下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ