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〈11〉蒼と青とお姫様と

〈11〉



「うう~ん♡」


 青い空! 白い雲! 目の前に拡がるのは風光明媚(ふうこうめいび)な湖の景色! 思わずグッと伸びをしましたが、誰も気付いてないみたいです。


 今日はお父様にお断りして、領内の湖まで3泊4日の旅行にやってまいりました。メンバーは私とお母様とジョゼリン先生と、エミリオ君とルイシア達メイド’S とお母様の使用人’S 、そしてレヴィ様と4名の従士の方々です。


 お父様はお仕事が忙しくて、今回は泣く泣く辞退です── 本当に滂沱(ぼうだ)の涙を流す様さまには、流石に少し引きましたが……… 。


 それにしても本当に綺麗…… 今まで転生した世界でも色々な場所に行きましたが、これは別格だと思います!


「どうディナ? このサクレ湖畔は我がオシェル王国でも屈指と言われている景勝地であり保養地なのよ。見て、湖面の(あお)と空の青がひとつに溶け合う(さま)を」


 いつの間にかお母様が横に見えられて、説明してくれますが…… ()()()()()()()()景勝地って言い方をするのですね、などと変な感心をする私でございます。


 でも本当に広い湖です! どのくらいあるんでしょう? 猪苗代湖ぐらい? まさか琵琶湖ぐらいあるのかも知れません。


 兎に角ただひたすら広い湖面の水平線と、真青(まっさお)な空が溶け合うみたいに見えて神秘的です。


「本当に……素敵です」


 本当に美しい風景には余計な台詞はいりませんね……… 。


「本当に── お父様も来れれば良かったのに、残念だわ……」


 お母様は心底残念そうです。そうして2人で(しばら)く神秘的な情景に目を奪われていると


「奥様、ディナ様。昼食の準備が整いました」


 エミリオ君が呼びに来てくれました。


「お母様、まいりましょう」


 と、私はお母様の手を引いて歩き始めました。


「あらあら♡」


 嬉しそうなお母様の声を後ろで聞きながら、私とお母様は宿泊するコテージへと向かうのでした。



  * * * * *



 昼食のあと、お母様は少しお疲れになられたみたいで、コテージの寝室でお休みされています。なのでひとりで、少しコテージの周りを散策しようと思ったのですが…… 何故か後ろから若干2名が付いてまいります。言わずと知れたレヴィ様とエミリオ君です。


「「私はディナ様の従士(従者)ですので」」


 ── ああ、左様でございますか。


 しかし、見事にハモりましたね………… 。まぁ、とりあえず2人の事は空気だと思う事に致します。


 私はなるべく2人を意識しない様にしながら、湖がより綺麗に見える場所を探そうと歩き出し、少し歩いて辺りを見回しますと、コテージ裏に小高い丘があるのに気付きました──あそこなら見晴らしが良さそうですね。私は向かう事にしました。


 丘に近付くにつれて、頂上付近に人影が見えました── どうやら先客さんがおいでの様子です。


 近付くと人影はひとりの女の子と1人の騎士様みたいでした。


 そう言えば隣のコテージに、我が家のと見劣りしない豪奢(ごうしゃ)な馬車が止まっていましたね…… 何処(どこ)かの有力貴族の方なのでしょう。


 遠目で見た女の子は私と同じかひとつ年下くらいの年頃でしょうか? 肩ぐらいのミディアムボブのストロベリーブロンドで可憐なドレスを身に(まと)い、座り込みながら盛んに隣りに居る騎士様に話し掛けている様子が見て取れます。


 更に近付くと、向こうもこちらに気付いたみたいで、立ち上がって出迎えてくれました。


「初めまして。こちら、よろしいでしょうか?」


 私はにこやかに話し掛けます。すると向こうも


「初めまして。ここは良くサクレ湖が一望出来ますわ」


 と丁寧な対応を返して来ました。その所作と言い、まるでお姫様みたいです。私は軽くカーテシーをして、エミリオ君にその子の隣りに敷物(ラグ)を敷いてもらおうとすると


「折角ですし、一緒にこちらに座りませんか? このラグはひとりでは広過ぎて……」


 とのお誘い。勿論私は構いませんが……… 私は彼女の後ろに控える騎士様の顔をチラッと見ると、笑顔で胸に手を当て軽く会釈されました。その仕草ひとつでも、彼女がとても大切にされているのがわかります── それは一国の姫君と守護騎士みたいに。


 うん、これからは彼女を『丘の上の姫君』と呼ばせていただく事に致しましょう。


「よろしくて?」


「はい! どうぞ」


 姫君はそそくさと横にずれて、場所を空けてくれます。私は軽く会釈しながら左隣に腰を降ろすと、彼女から話し掛けて来ました。


「こちらには保養でお越しでしょうか?」


「いいえ、お母様と旅行ですわ。あなたは?」


「私も……旅行ですわ」


「そう……」


 そう言うとお互いに黙って、この美しい情景を眺めていました。姫君の方を見ると私のお母様と同じ様な灰色(グレー)の瞳をキラキラさせています。


 その様子を見てふと、地球(元の世界)のギリシャの女神アテナは「海のグレー」の色の瞳を持っていると言われていたのを思い出しました。


 それにしても…… 姫君には何処と無くお母様に似た面影がありますね。


 一方レヴィ様は、私の後ろに騎士様と並んで立ちながら何やら話しており、エミリオ君は持ってきていた大きなバスケットを拡げ、中からサンドウィッチとグラスと()()()()の水筒を取り出し、手早くラグの上にセットしていきます。


 水筒から冷たい果実水をグラスに注ぎ、女の子と私に手渡してくれます── が、エミリオ君と手が触れ合うとジョゼリン先生が言っていた言葉を思い出して、思わず頬が熱くなってしまいますが、当の本人であるエミリオ君は涼しい顔です。


 その様子が何となく憎たらしく感じます。私は必要以上に意識してしまっているのに…… 。


 ふと視線を感じ振り返ると、後ろに控えているレヴィ様は渋い顔をしていました。


 はて、何か気に(さわ)る事があったのかしら?



  * * * * *



 (しば)しの歓談の後『丘の上の姫君』と別れてコテージに戻ると、お母様が起きて来ていてジョゼリン先生と小さなお茶会を(もよお)しておりました。


「お母様、先生、ただ今戻りました」


「お帰りなさい、ディナ」


「お帰りなさいませ、ディナ様」


 私はお2人に挨拶すると空いている席に座ります。すぐさま出された温かい紅茶をひと口飲んで「もうお加減はよろしいのですか?」とお母様にお(たず)ねします。


「ええ、久しぶりに遠出したので疲れたみたいだけど、少し寝たらもうすっかり」


 お母様はにこやかな顔で答えます。その顔にはもう疲れは見えませんでした。


「それを聞いて安堵致しました」


 私は満面の笑みで悦びを表します。お母様は前回のぶっ飛んだ発言は兎に角、私の目指すべき女性像のひとつなのですよね。もう1人は勿論ジョゼリン先生でございます、はい。


「それで、外はどうでしたか? 何か面白い事でもありました?」


「あっ、はい! 実は───」


 私は二人に『丘の上の姫君』の話をしました。ジョゼリン先生はニコニコ顔で聞いてくださり、お母様は何か思い当たる様でしたが、特に何か言う事も無く「それは良かったわね」と優しくお話になられるだけでした。


 思えばお互いに名乗らなかった事は失礼だったと思いますけど、何となく彼女にはまた会える、そんな気がします── まぁ、私の単なる勘ですから当てにはなりませんけど!


「それで──」


 お母様が扇を口元に添えて私に小声で話し掛けて来ました── 何でしょう?


『あなたは()()()()()()()()、どちらにするのかしら?』


 ズコーーーーーン!


 私は思わず腰掛けていた椅子から盛大にズッコケました!! エミリオ君と部屋付きメイドさんがその様子を見て目を白黒させていますが、そんな事構っていられません!


 お母様…… なんと言う()ストレートな聞き方をなさるんですか?!


 そのまま椅子からずり落ちる所でしたが辛うじて立ち直り


『ま、まだどちらと決めていませんし── ! そ、そもそもエミリオ君は兎も角、レヴィ様はお母様から紹介されて、ひ、ひと月しか経っておりませんし! そ、それに(いく)ら何でも性急過ぎます!!』


 私は若干(ども)りながらも何とか小声で抗議しました。するとお母様は声のトーンを戻しながら不思議そうな顔で


「あらあら、それは違いますよ。付き合った年数よりも直感(インスピレーション)が重要な時もあるのだから。それに決して急ぎ過ぎると言う事は無いのよ」


 と言って、ころころ笑います。その横のジョゼリン先生は笑顔のままですが…… 表情を凍りつかせたまま完全に静止(フリーズ)していました。


 お父様……… お母様は本当に自由(フリーダム)過ぎます………… 昔からこの様な方だったのか、一度お父様を問い(ただ)す必要があるみたいですね。


 そもそもですが、お父様とお母様の馴れ初めってどうだったのか──正直()()気になります。


「私の事よりも、お母様とお父様はどのような出逢いをなされたのですか? 後学(こうがく)の為、お聞かせくださいませんか?」


 私に向いた矛先を()らす意味も込めて、逆にお母様に質問します。お母様は「良くぞ聞いてくれました」とばかりに


「わたくしの場合は、お父様に見初められてお付き合いを始めました。でもわたくしもお父様に一目惚れして── つまり相思相愛ね。わたくしはわたくしの兄上オーウェン・ベネット・ウィンバリー陛下、つまり国王陛下に懇願して降嫁(こうか)してもらい、お父様と結婚出来たのよ♡」


 意外や意外、お父様とお母様は大恋愛なのでした! しかもお母様はさり気なく、御自身が国王陛下の妹君だった事をカミングアウトしたのです! 娘になって12年……全くの初耳でございます、はい。


 それにしてもお父様…… よく陛下の妹君と結婚出来ましたねぇ………… 。これも愛がなせる技……なんでしょうか?


 ………… ん? ちょっと待ってください、すると私は国王陛下の姪と言う事に?!? 何でこんな重要な事はお母様は言わなかったのでしょうか? 痛む頭を押さえながらお母様に問い質すと


「確かにあなたは国王陛下の血筋に当たりますが、王位継承権は低いし15歳の陛下への謁見の時で良いかな……と」


 と、またもやテヘペロ♡と(おど)けます。その台詞を聞いて私は、魂がスゥーッと身体から抜ける気がしました。


 果たして私は、お母様を目指すべき女性像にして良いんでしょうか? 今から目標変更しておくべきかも…… 。



 ………ええっと、お母様? もうカミングアウトはございませんよね?

本日はあともう一話投稿してあります。そちらも続けてお読み下さい。

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