三話 森の穴
森には入ると劇的に何かが変わるようなことはもちろんなかった。
昔の……みんなで楽しく遊んで走り回った光景が蘇るような、そんな森のままだった。
この森は私が住んでる国、『ヤマチ王国』の南西部に位置する、比較的大きな森林地帯だ。
国が保護している森で、大規模な伐採や動植物の乱獲が禁止されてるほど王国にとって価値が高い。
数千年前からほとんどその姿を変えていないため、一部の学者からは『太古の記憶』と呼ばれるほどである。
俺たちのような近くの村や町であれば特別に許可された日常で使う薬草や獣を狩ることは許可されてる。
だからこうして今も昔も薬草とりに出かけることができるのだ。
「さて、あの木はどこかな……?」
しかし、もうすでに俺の目的は血止めの薬草採りではなく『ひみつの木』探しに変更されている。
母さんの小言の嵐は甘んじて受けよう……。
正確なその場所は、幼い自分の記憶だよりなのでおほろげで正直もの探しをするにはあまりにも絶望的だ。
でも俺は、場所探しに確かな自信はもっている。
――見れば分かる。
ただそれだけだが、あれはそんな木だった。
そうこうしていると、俺は森の少し奥まで足を踏み入れていた。変わらず俺は周りの景色に目を凝らす。
「……? 光って、る?」
足元のすぐ先に、かすかに光る場所をみつけた。
しかし、このあたりには光を放つきキノコや動物はいない……。ましてや『ひみつの木』なるものも見当たらない。
――道標だ。
なにかの確証ではなく、思いつきに近い感覚だがはっきりと感じる。
あの木は俺に見つけてもらいたいと思ってる。俺に。
そうに違いない。
俺は少しの高揚感をこの身にひしひしと感じている。
少年の頃、秘密基地をみんなで作ってつたない部屋でいかがわしい本を見ている感覚だ。
――そんなことがあの時、あったら良かったのに
俺がそう思いを巡らせていると、その先……またその先にも同じようかすかに光る場所があることに気づいた。
「冒険って、いいなぁ……」
自分でもわかるくらいニタニタしながら、俺はその道標をたどった。
たどればたどるほどに、その光は強く、はっきりとしたものに変わっていった。
※※※
そうしてたどった先に、少し開けた『森の穴』を俺はついに見つけた。