0話 世界創造
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その木はまだ世界に国という概念や存在が生まれる、遥かずっと昔にこの大地に根を下ろし始めた。
その木にはまだはっきりとした名称はなかった。
せいぜい、『あの木』とか『そこら辺の木』などと呼ばれる程度である。
つまりは、人々の印象に残りづらい平凡な木であった。
おそらくは甘い果実や、美味しい木の実をつけることがなかったことが大きな原因だろう。
人々はその木を目にするのは、近くを通りすぎるか、あるいはその木陰で夏の容赦ない陽の光を遮るためだけに、その木に寄り添う程度でしかなかった。
しかし、その平凡な木にはその他の草木とは根本的に違う決定的な違いが、たった一つだけあった。
神から永遠の命の恩恵を授かった木なのである。
その神木に神々から与えられた使命はただひとつ。それは、人間界の行く末を、手も口も出さずにただ、見つめるだけ。
しかし、なぜなんの変哲もない木に祝福が与えられたのか……。それは世界が創造された頃にさかのぼる。
神々のうちの一柱であるカメイリアスは、世界が創造されたとき地上に四足の猿を創り出した。
カメイリアスはその猿に他の生命より飛び抜けた知能と、様々なものを器用に工作する力を持たせた。
カメイリアスは思った。知性ある生物が世界に降り立ったとき、どのようにして猿たちが自分たちが創った世界に関与していくのかを……。
そして、その行く末を眺めるためには自分達の天上からの視点からではなく、同じ地上で生きてく者の目線で見ていくほうが面白い!
カメイリアスはこう思い、そして偶然目に止まったなんの変哲のない木にその使命とそれを果たすために必要な永遠の祝福を与えることを他の神々に提案した。
提案は他の神々にも了承され、すぐさま平凡な木は一夜にして神木へとなり得たのだ。
神々いわく。
――口も手も持ってないお前だからこそ、その使命を課したのだ。この世界のどんな生命より、お前こそが世界の観測者としてふさわしいのだから……。
こうして天上の神々は、人間を観測する生命としてその木に永遠の祝福を与えたのだ。
※※※
それからその神木が祝福を得て、さらなる時が人間界に流れた。
膨大な月日が巨岩を削り砂になる頃、人々は村や族といった中小ループを作り始め徐々に繁栄していった。
知性は愛と慈しみを生み、その器用な手は他の生命を手助けすることに大いに活用された。
しかし、そこから神々が予想しえなかったことが起き始めた。
人々が殺し、憎しみあい始めたのだ。
世界に生まれた魂が何巡もするうちに、当初の無垢な輝きは削れ始め、砂やほこりのようになり、そしてその魂が徐々に汚され、負のエネルギーが生まれたのだ。
愛や慈しみの心は憎悪を生み、心の豊かさは次第に他人への渇望へと変容していった。すべての人々が変わったわけではないものの、そういったものは次第に増えていった。
カメイリアスは考えた。
どうすれば、この負の巡りを止めれるのかを……。深く、長い時間をかけ、彼はある一つの答えを見つけた。
――正しい方向に導く力を正しい者に授ければ……
と。
その考えは他の神々にも同意を得ることができ、カメイリアスは観測者たる神木に六つの祝福を預けた。その六つとは、この世界を構築する上で最も必要不可欠な精霊の力に他ならない。
一つは炎、二つは水、三つは風、四つは大地、五つは活力。
最後に最も不可欠な死を。
カメイリアスはその六つの祝福を神木に預け、新たなる使命を与えた。
――然るべき者を見定め、その者にいずれかの祝福を与えよ。そして、今一度世界を観測せよ……
と。
それから神木はその使命に忠実に従い、然るべき六人の若者を自らの元へと導き、見定め、祝福をそれぞれに分け与えた。
そうしてその六人は村や部族をその祝福と知性、心でまとめ導き、それぞれの王国を後に築いた。
そうした然るべき若者の先導により、人々のすさんだ心は次第に癒えはじめ、世界には安寧が少しずつ訪れるようになった。
※※※
それから時間はたゆまず進み、王国の繁栄と滅亡、混沌と安寧を繰り返しながら幾千年か過ぎた頃になっても、その神木は世界をじっと、同じ場所で観測し続けている。
そして現在、ある王国の中ほどの農村にて小さな命が息吹を上げた。名はサナ、性はない。
今はまだ新しく、弱々しい生命であるこの女の子が、世界の新しい局面に関わろうとは、まだ誰も知る由もないはない。
これはそうした未来の物語である。