赤い鞄
三題噺もどきーにじゅうに。
赤い鞄の話。
お題:春休み・赤い鞄・制服
高校生、最後の日。
私は、母に赤い鞄を買ってもらった。
卒業祝い、という名目で。
以前から欲しかった鞄で、売られていないか、よく見に行っていた。
その鞄は、中古ではあったが、どこか惹かれるものがあったのだ。
ホントに中古品なのかと疑うぐらい、きれいなエナメル質の鞄。
長い紐がついており、手に持つもよし、肩にかけるもよし、というそれなりに使い勝手のいいものだった。
鞄を買ってもらい、初めて使ったその日は、初めて制服を着た時みたいに不釣り合いで、少し恥ずかしかった。
丁度春休みでもあったので、その鞄をもって、たくさんのところに出かけた。
友達や、親戚には、とても似あっていると言われ、嬉しかったのを覚えている。
それから一年。
私は、事故にあった。
それは丁度、私が鞄を買ってもらった日と同じだった。
幸い一命は取り留めたものの、下半身が動かなくなり、車椅子生活を余儀なくされた。
入院生活が始まり、色々と落ち着いた時に、私は赤い鞄が無くなっている事に気づいた。
「お母さん、私の赤い鞄は?」
この期に及んでとも思うが、どうもあの鞄が、気になってしまう。
なんでかなんて、私にも分からない。
母は、気まずそうに目をそらした。
「あ、あの鞄は、捨てちゃったわ。」
「何で!?」
思ったより、声を張ってしまった。
お気に入りの鞄だったので、かなりショックが大きかった。
「あのね、あの鞄の事なんだけど……」
鞄を捨てたことを後ろめたく思っているのか口篭る。
(だったら、捨てなきゃ良かったのに……)
捨てられたことに苛立ちを覚える。
「あなたが、事故にあった時、その鞄の紐があなたの足に絡まっていたのよ。普通、そんなこと有り得ないでしょう?それで、気味悪くって。」
―代わりに新しい鞄を買ったから、
なんていう、母の言葉が遠い。
どういう事だろう。
鞄の紐が絡まっていた?
普通にあり得ないだろう。
(いやー)
そう言えば、あの日、私は赤い鞄では無く、近くに出かけるだけだったので小さな手提げバックを持って言っていた。
赤い鞄が、あるはずなど無い。
その後聞いた話によると、あの鞄を以前使っていた女性がいたそうだ。
その女性は、人身事故により下半身を失ってしまったのだと。
それ以降、あの鞄を持った女性は事故などにより、下半身が動かなくなったり、最悪、失うこともあるそうだ。
退院し、家に帰った日。
私の部屋に一つの鞄が置かれていた。
母が言っていた、新しい鞄だろうか。
その鞄は―