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ちからいっぱい現実逃避① 孤独の果て

作者: 凱

      『孤独の果て』



地べたに縫い止められることに飽きたので

ある朝、鳥になって空を飛んでみた。


風は心地よく、上から見る田畑や森は美しかった。

しかし、昼になると腹が減った。

木の実を手当たり次第に丸呑みしたが

味はしなかった。

ただ腹が膨れただけだった。

夕方、川向かいでウグイスが鳴き始めた。

何を言っているのか分からなかった。

楽しげなその声に無性に腹が立った。

鳥になどなるまい。


くだらない言い争いに嫌気が差したので

ある夜、魚になって池を泳いでみた。


水を介して聴こえる音は全てが優しく心地よかった。

しかし、真夜中になると寒くなってきた。

動けば少しは温かくなるかと思ったが、その逆だった。

温かそうな水草の中にもぐり込んでやっと深呼吸をしたら

孵りたてのメダカの子を吸い込んで殺してしまった。

誰も責めなかったが後味が悪かった。

魚になどなるまい。


代わり映えのしない世界にも自分にも辟易したので

ある日の真っ昼間、虫になって地面の中に潜ってみた。


土の中は涼しく、また温かく、

ただ真っ暗で静かで平和だった。

多くのものが朽ちてゆき、また多くのものが育っていた。

なぜか涙が出た。

自分もこのまま眠りたい。

朽ちてもいい。育ってもいい。

それはきっとどちらも同じことだから。


土は歌った。

「ねんねんよう おころりよう」


ふと、胸が温かくなった。

錆び付いてずっと閉じたままだった

重い心の扉から光が漏れ出ている。


外にあるとばかり思って探していた

温もりは、光は、

自分の中にこそあったのか。

わたしが気付くこの日を

ひたすら待っていてくれたのか。


地べたに縫い止められている事実は変わらない。

くだらない言い争いも相変わらず聞こえるし、

世界も全く代わり映えしない。


それでもわたしは、歩き出せる。

わたしはもう自由なのだ。

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