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はじめての作業依頼の回

アルメリアは割と調子のいい奴です。

「だいたいねえ」


ハンサムなオーナー(暫定)の、湾田に対して対人魔法を使ったアルメリアへの説教がまだ続くかと思ったそのとき、ドアベルが鳴った。来客のようだ。

ハンサムは湾田とアルメリアに奥に引っ込んでいるように言って、自分は客を出迎えに行った。


「ところで、アルメリアが言ってた俺に手伝わせたいことって何?」


二階にある作業部屋に戻ってきた湾田は言った。アルメリアがポンと手を叩く。


「そうそう、それですよ」


アルメリアは袖から小瓶を取り出した。手のひらに収まるサイズだ。


「こいつは魔道具の一種でね」


アルメリアは蓋を外す。


「このように使う」


アルメリアは蓋を外した瓶に向かって「赤ん坊を泣き止ませるより百人の魔法使いを火刑に処すほうが簡単だ」と言った。

なんだそれは、というか何故瓶に向かって話しかける。

アルメリアはじっと瓶を見つめていたが、瓶にもその周りにも何も起きない。


「本来はこの瓶に一旦封じた音声が瓶から聞こえるはずなんだ」

「あー、つまり録音再生ってこと?」

「録音再生っていうのは?」


アルメリアは不思議そうな顔をした。なるほど、こういう言葉が通じないのか。


「録音っていうのは音声を保存すること。再生っていうのは保存した音声をもう一度聞くこと」

「まさにそれだ。ところがこいつはどうしたわけか、声を吸い込んだまま吐き出してくれないんだ」


アルメリアは杖の先で瓶のふちをこつんと叩いた。


「壊れてるってことだな」

「そう。ねえ君これ修理できる?」

「は?」

「やってみてよ」

「……手伝ってほしいことって、それ?」

「そう!」


アルメリアは、ぱあっと嬉しそうに笑った。


「いや無理だろ」

「どうして?」


本当に不思議そうな顔でアルメリアがそう訊くものだから、湾田はしかめっ面になってしまう。


「魔道具だろ? 魔法使いじゃない、どころかこの世界の人間じゃない俺が、」

「うーん、それはどうだろう」

「というと?」

「だって、この世界に住んでる魔法使いの私にはこれが直せないんだよ」

「……だから?」

「関係なくない? 魔法使いかそうでないかとか、どこの世界とか」

「それは、いや、」

「大事なのは『本来どうありたいのか』が分かってることだよ。それ以外は些末なことさ」


アルメリアは静かに言った。


――今の、魔道具を修理する話だよな?


「アルメリアにも分かってることじゃないの? その魔道具が本来どうあるべきかは。吹き込んだ声が聞こえたら正解なんだろ?」

「道具としてはね。私が分からないのは、これに仕込まれている呪文のほうさ」


そう言うとアルメリアは作業机の片隅にあった小さなガラス鉢に小瓶をぶん投げた。

割れる、と思うより早くちゃぷんと音がした。

小瓶を投げ入れた先はいつの間にか透明な液体で満たされている。そうなると、小瓶を浮かべたガラス鉢は水槽のようにも見えた。

アルメリアはガラス鉢の前に立つ。そして作業部屋に無造作に放られていたキャンバスを杖でまっすぐ指した。


開示せよ(リムレット)


アルメリアの囁くような声で、ガラス鉢の中身は青みがかった色に変わる。

そしてチカチカと光りはじめたかと思うと、突如強い光がキャンバスを照らした。


「……なんだこれ」


古びた大きなイーゼルに固定されていた、バカでかいキャンバスは黄みがかってこそいたものの、何も書かれていなかったはずだ。

それが、いつの間にか文字で埋め尽くされている。

ガラス鉢から放たれていた強い光は文字と入れ替わるようにすうっと消えた。


「魔道具に組み込まれている呪文を書き出したんだ。私にできるのはここまで」

「ここまで、って、今のは自分で作ったの?」

「……私がやったのはそこのカンバスに書き出すようにしたところだけ」


アルメリアが杖でキャンバスを示したのはきっとそういうことだろう。


「まだ分からないんだけど」


湾田は遠慮がちに言った。


「魔法使いは魔道具を作ったり直したりできないのか?」

「できるよ。でも限られてる」

「どうして」

「君も見た通り、私のような魔法使いは杖をぶんぶん振りながら口頭呪文で魔法を使うだろう? まあ杖を使わない人もいれば無詠唱の人もいるけれど、原則は杖を使って、呪文を読み上げる。でも魔道具はそうじゃない」

「つまり、“同じ魔法”ではないってこと?」

「そうだね。まあ完全に別物ってわけでもないけど、とにかく魔法使いが魔道具を作るためには、より専門的な勉強が必要だ」


ふうん、なんとなく雰囲気が掴めてきた。


「で、どうして魔法使いでも専門的な勉強が必要な魔道具修繕が俺ならできると?」

「えっ」

「え?」

「君ならできるなんて言ってないよ」

「は?」


なんだそれは。

じゃあなんで俺に手伝ってほしいなんて声をかけるんだ。何かしら俺にポテンシャルを見出してるということじゃないのか、と湾田は喉元まで出かかった言葉を飲んだ。

自分でそれを言うには恥じらいのほうが勝つ程度には湾田は社会的であった。


「手伝ってほしいって言ったんだよ。ダメもとで」

「ダメもと」

「だって君がタダで置いてもらうのは居心地悪いみたいなことを言ったから」

「はあ」

「本当は家事とか肉体労働とか頼もうかと思ったけど、でも君貧弱みたいだし」

「貧弱」

「だから君がここで過ごすことを負担に思わないように……その、何か……あの、ごめん」


アルメリアがしょんぼりした顔でがっくりと肩を落とした。そんな振る舞いをされてしまうと、こちらも親切に対応せざるを得ない。


「まあまあ傷ついたけど、君が謝ることではないかな。気を遣わせたみたいだし」

「そう! あのね、どうすればいいかわからなくてとっても思いやる必要があったの!」

「そういうとこだよ、思いやりは有難いけど」


アルメリアが「ん?」と訊き返したのが、すっとぼけているのか本当に分かっていないのかは、湾田にも判断がつかずそのままスルーした。

湾田はため息をついてから、大きく伸びをして言った。


「まあ、経緯は分かった」

「うん」

「やってみるよ、とりあえず」

「ほんと?」

「嘘ついてどうすんの。暇だし。なんか浄化魔法? 使ってもらったおかげかちょっと元気だし。言っておくけど、できない前提だからな」

「それでいい! それでいいからちょっとやってみて!」

「わかったからそんなに大きな声を出すなよ」


湾田はキャンバスの前に椅子を引きずっていった。


「で、これどうなれば正解なんだ?」

「分からない! 一応魔術教本はここにあるから使って!」

「そんなのいきなり渡されたって……あれ、読める……?」


それはアルファベットの体は為しているものの、決して湾田の見慣れている言語ではなかった。それにもかかわらず湾田には何故かその文字が“読める”という感覚があった。


「他にもここにある本は自由に読んでいいし、道具も自由に使っていい。使い方が分からなかったら私に訊いて」


がんばって! とアルメリアは拳を作った。


「できない前提って言っただろ」

「……でもきっと、君はできると思うよ。ワンダ・フルタロー」


そう言い残してアルメリアは作業部屋を出ていった。


……俺、あいつにフルネーム教えたっけ?


やっと魔道具修繕の話に入りはじめました!わーい!


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