出発
やっと屋敷から出ました。
ー帝経学院。
私立中高一貫校で毎年多数の医学部や難関大学合格者を輩出する県内屈指の名門校である。学院には最新鋭の設備が整っており、学ぶにはこれ以上ない恵まれた環境で生徒は学ぶことができる。その反面授業料はそれ相応にする。そのため学院の生徒には経済界において多大な力を持つ企業の子息といった富裕層の子供が多く集まる。
そんな帝経学院に俺と沙羅、彩乃は通っている。去年まではみんな仲良く中等部だったのだが、今年からはおれと沙羅は高等部へ進学。よって彩乃とは今年から校舎は別だ。
俺は高等部の校舎に諸事情あってまあまあの頻度で出入りしていたので、これと言って新しさはなかったりする。沙羅も同じ理由で俺と似たようなことを思っているだろう。
「ほら時間よ。さっさとしたくしなさい。いつまで待たせる気よ」
どうやら長いこと時間が過ぎていたようだ。ほんとに時が過ぎるのは早いな。しみじみと感じていると、
「主人をどれだけ待たせる気よ!」
少しいら立ちを含んだ声が聞こえる。急がなくては。
「はい、ただいま」
うちのお嬢様が待っておいでだ。階段を駆け下りて素早く玄関へ向かう。玄関では仁王立ちで腕を組んだ沙羅と、壁に寄り掛かった彩乃がいた。
沙羅は紺のブレザーにチェックのスカート。胸元には1年生であることを表す明るめの青のリボンが結ばれている。聖光学院高等部の制服に身を包んだ沙羅は少し恥じらいながら言ってきた。
「どう?どこか変なところがあるなら指摘してほしいのだけれど。人前で恥をかくのは嫌だし」
俺は何も言えず少し間が立った。
「ちょ!?な、なんかいいなさいよ!」
「あっ、はい。とくにおかしな点はございませんよ、お嬢様」
「そっ。ならよかったわ」
と沙羅は素っ気ない一言。どうやら求められていた回答とは違ったらしい。沙羅はそばに置いておいたスクールバッグを手に取る。心なしかバッグを握る手に力が入っているように見える。完全にむすーとしてしまった。
「私の制服はどうですか、お兄様?」
彩乃がひょっこり飛び出してきた。
中等部の制服はワンピースタイプで、黒を基調とした清楚なデザインになっている。スカートはロングで膝下丈。左胸の胸ポケットにワンポイントの校章が刺繍されている。
「うーん、今までも見てきたからあまり新鮮さは感じないな。でもかわいいと思うぞ」
「ありがとうございます!では具体的にどこがですか?」
「」
「具体的にどこがですか?」
「」
「具体的にどこがですか?」
「」
「明日また聞きますね!」
聞かなくてよろしい。
「そろそろ行くわよ。お偉い様方に挨拶とか、いろいろやらなきゃだから」
俺たちは屋敷の門をくぐり学校を目指した。