8
異世界恋愛 日間ランキング45位になってましたΣ ゜Д゜≡( /)/エェッ!
ありがとうございます!
「あの……大丈夫ですか?」
これはどうしたらいいのかしら。
目の前には、派手に転んだカトリーナ様がうつ伏せの状態で倒れていらっしゃいます。
以前からよく転倒なさる方だとハラハラしていたのですが、最近は特に、わたくしと出会い頭に必ず転んでしまわれるのです。
どこかお具合でも悪いのかしら。それとも、何か足に疾患でもお持ちなのかしら。
どちらにしても徒事ではありません。転んだ拍子に怪我などされていたらなおのこと一大事です。
「お怪我はされていませんか? よろしければお手をお取りください」
どうやら嫌われてしまっていると、さすがに理解しているわたくしですが、派手に転倒なさったご令嬢を無視してよい理由にはなりません。
すると、がばりと起き上がったカトリーナ様が差し出したわたくしの手をはたき、自力で立ち上がりました。
よかった。怪我はされていないご様子ですわね。
「ちょっと! いったい何なの! ちゃんと仕事しなさいよ!」
「え?」
仕事とは?
カトリーナ様の淑女教育をお任せ頂けなかったわたくしですが、いつの間に、何かお役目を頂戴していたのかしら。
由々しき問題ですわ。殿下に深く陳謝申し上げ、お任せ頂けた仕事の内容を今一度確認しなければ!
「申し訳ございません。把握しておらず、ご迷惑をお掛け致しました。殿下に詳細を伺って参りますので、暫し猶予を頂けたらと存じます」
「は!? ユリエル様に確認取るとか、余計なことしないで!」
「ですが……」
「あんたが悪役令嬢の役割を放棄してるからいけないんでしょ!? あんたのせいであんたの取り巻きも役目を果たしてないし、個別ルートのイベント起こしても何でか好感度上がんないし! スチル回収は出来てるのに、何でユリエル様があんたにヤンデレ起こしてるわけ!? 意味わかんないんだけど! リセット機能はどこにあんのよ!」
まあ、どうしましょう……カトリーナ様が何を仰っているのかひとつも理解できませんでしたわ。
取り敢えずわかっていることは、わたくしが与えられた役目を全う出来ていないから、結果的にそれがカトリーナ様の逆鱗に触れてしまっているということね。申し訳ないですわ……でも、そのお役目とやらを詳しくご教示頂かねばずっと分からないままです。
「カトリーナ様。そのお役目とやら、どのようなものなのかお教え頂けませんか?」
「は?」
「きっとわたくしが無知なのです。先ほどカトリーナ様が仰ったことの何一つ理解できませんでしたの。カトリーナ様が何に苛立ちを感じていらっしゃるのかも、恥ずかしながら思い至れないのです。ご教示頂ければ、鋭意努力してご期待に沿ってご覧に入れますわ」
「は!? いや、努力して悪役令嬢を演じるとか、意味わかんないし。……ホントなんなの? あんた本当に王太子の婚約者のエメライン・エラ・アークライト?」
「? はい、わたくしがエメライン・エラ・アークライトで間違いございませんが……? ハッ! もしや同姓同名の方がおられますの……!?」
「いやそういう話はしてないから。何これ、どうなってんの? バグ? 悪役令嬢が存在しなきゃ、ヒロインはどうなるの? ちょっと運営、バグくらい直してから販売しなさいよね!」
ああ、また意味不明なことを仰っているわ。同姓同名の方はいらっしゃらないということだけは理解できました。運営とは、帰属なさっている教会のことかしら。教会で、何かお辛いことでもおありなの……?
「リセット出来ないなら、このままじゃどう頑張っても大団円エンドしか目指せない……? 本命は王太子だけど、サディアスとエゼキエルの好感度も高くないと断罪イベント起きないし。でも王太子、ヤンデレルート入ってるよね。それも私にじゃなく、エメラインに。もう意味わかんない。ヤンデレ拗らせてるとか、王太子バッドエンドまっしぐらじゃない。なんでよ」
「カトリーナ様? どうされました?」
何やらぶつぶつと呟いておられますが、大丈夫でしょうか。まさか先ほど転倒した時に、頭を打ったりしていらっしゃいませんわよね?
急に心配になった刹那、カトリーナ様がぎろりとわたくしを睨まれました。
「……なんかバグってるし、王太子ヤンデレだし、リセットも出来そうにないから一応親切心で忠告しといてあげる」
「? 何でございましょう?」
「卒業パーティーでユリエル様に乞われたら、必ず受け入れること! じゃないとあんた、生涯監禁コースに強制執行されるからね」
「はい?」
「監禁するようなヤンデレ王子興味ないし、私は大団円エンドに逃げるから。忠告したからね!」
「え? あっ、カトリーナ様!?」
行ってしまわれましたわ。それにしても、ヤンデレとはどういう意味なのかしら? 監禁って……え、殿下が? わたくしを? 何故?
やはりカトリーナ様の仰ることはわたくしには難解過ぎますわね……。
ええと、卒業パーティーで殿下に乞われたら受け入れる、でしたわね。何のご忠告なのかさっぱり分かりませんけれど、カトリーナ様のお言葉ですもの。しっかりと覚えておかなくては。
けれど、殿下はわたくしに何を乞われるのかしら? 殿下がわたくしに願うなど――あっ! そうなのね! ついにカトリーナ様に想いを伝える決意をされましたのね!? では殿下がわたくしに願われますのは、婚約解消、ですわね!
ええ、ええ! 勿論快諾致しますとも!
寂しいと感じてしまうのは仕方ありませんわ。ずっとお側に居ましたし、この方の伴侶として恥ずかしくないレディにならなくてはと、日々努力を重ねて参りましたもの。公私共にお支え出来たらよかったのですけれど、殿下には幸せになってほしいのです。それがわたくしではなかっただけのこと。
そう、わたくしの感情など些末なことですわ。
決意を胸に、カトリーナ様が去って行かれた先を見つめました。
本来のカトリーナ様とようやく視線が合ったような、不思議な気が致します。カトリーナ様はわたくしをお嫌いかもしれませんが、わたくしは好きですわ、あの方。
ご自身の想いに忠実で、真っ直ぐ過ぎるご気性ですが、わたくしには無いものをお持ちでいらっしゃいます。それがほんの少しだけ、眩しく見えてしまうのです。ちょっぴり羨ましいなんて、こっそり思うだけなら許されますわよね。
さあ。準備をしなければなりませんね。
輝かしい殿下の未来へ、せめてもの手向けとなるよう、精一杯最後のお務めに励みますわ!
◆◆◆
「やっばいわ……王太子ヤンデレルートだけはヤバい。まあその対象が私じゃないなら何でもいいけど。エメライン、現時点では高確率で監禁されるね。まあそれも他人事だから面白いけど、な~んか憎めないんだよねぇ、こっちのエメライン。忠告、ちゃんと覚えてるといいけど」
リセット出来ないとか聞いてないんだけど!と、空に向かって叫ぶも、どこからも返答は得られなかった。




