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34 カトリーナ side

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▶▶▶

『番外編 カトリーナ・ダニングの奮闘 6』との矛盾に今更ながらに気づいてしまいましたので、加筆修正しました。

 



「座ってくれ。まずはダニング嬢の希望を形にしたい」


 王太子殿下に促され、私はエメライン様と、隣に腰掛けた王太子殿下と対面に位置するソファに座った。


「アーミテイジ卿。貴殿も座れ」

「いえ、私は」

「込み入った話になるのだから、座ってくれ。そもそも貴殿が提案したことだろう。ダニング嬢に思いつくことではないと私は認識しているが?」

「――は。承知しました」


 僅かに葛藤を見せたレイフ様が、主命とあっては断りきれず恐縮しながら一人掛けソファに座った。

 私の隣が空いてますよ!とばかりにポンポンと座面を叩いてみたけど、案の定レイフ様は見向きもせず迷いなく一人掛けソファを選んだ。

 分かってたけど、ちょっとだけ寂しい。ほんの少しでいいから、ちらりと視線を寄越すくらいはしてほしかった。そんな期待感ゼロを貫き通す容赦ないレイフ様も大好きだけど!


 あと王太子殿下。わざわざ「用意周到で堅実的な手段など、絞り出せるような頭の持ち合わせはない」と解釈できる言い方をしなくてもいいじゃないですか。それも本人の目の前で堂々と。

 その通りですけど、なんか釈然としない。


「ユリエル様。そのような物言いでは誤解を生みます。カトリーナ様に失礼ですわ」


 いつも御心の優しいユリエル様らしくありません――続けてそう言ったエメライン様に、王太子殿下は「そうだね、配慮に欠けていた」と殊勝な面持ちで返してるけど……エメライン様。卒業前に取り引きして以来、この方ずっとこんな感じですよ。騙されないで!


「エメライン宛に偽装するだけじゃなく、逓信院(ていしんいん)を通すとはよく考えついた。さすがアーミテイジ卿だ。これでダニング男爵とハウリンド公爵の裏をかける」

「恐れ入ります。ダニング男爵とその夫人は見たままの小物ですが、ハウリンド公爵家の手の者が紛れ込んでおりましたので、このような形を取らせていただきました」

「ああ、報告にあった下男か」


 配慮に欠けたって言いながら、私に謝罪することなく話を進めるんですね。

 配慮って、エメライン様の御心への配慮ってことですよね。いや別にいいんですけど。

 今更学園の頃のような爽やか王子仕様で対応されても気色悪いだけですし。

 いや〜、あの頃の私って、よくこの方の腕に抱きついたりうっとりと甘えたり、先回りして偶然を装って会いに行ったりなんて恐ろしい真似が出来たわねぇ……。無知と無謀ってある意味無敵なんじゃないの。聖女の肩書きに救われただけだろうけど、すっごい綱渡りだったんだなって今ならよくわかる。

 身分と権力もだけど、性格的にも腹黒いこのカメレオン王子は、絶対敵に回しちゃいけない要注意人物で間違いないわね。


 それよりも、ハウリンド公爵家の手の者って何の話? 下男、ってあのいけ好かない糸目の男?


「身分不相応な物言いはさて置き、雑輩(ざっぱい)だと思わせる、意識の端にもかからないような風貌の男なのですが、それこそが不自然極まりないのだとより注視しておりましたところ、雇用主であるはずのダニング男爵とは別の、定期的に報告している先がございました」

「それがハウリンド公爵家だったという訳だな」

「は。現在六人体制で下男とハウリンド公爵家を常時見張らせております」

「暫く泳がせろ。ハウリンド公爵の他にも繋がっている者がいるかもしれない」

「御意」


 ……え。何この会話。ハウリンド公爵家って、まったく知らされてないんだけど。ハウリンド公爵家って、何の公爵家? 系譜とか派閥とか知らないから何の話かさっぱりだわ。

 まさか孤児院から私を呼び戻したあの一件は、そのハウリンド公爵家が関係してるわけ? 糸目陰険男が手引きして? たかが男爵家に、王家の目を掻い潜ってまで? 何のために???


 駄目だ、全っっっ然わかんない。


「ダニング嬢。貴女はまだ知らされていないかもしれないが、現在王太子妃候補にダニング嬢の名が上がっている」

「はあ!? なっ、何で!?」

「我が国にとって聖女とは、それだけ無視できない存在だと言うことだ。娘のいないハウリンド公爵家は聖女である貴女を養女として迎え、王太子妃候補に捩じ込む腹積もりらしい」

「いやいやいやいや! 前提がおかしいです! 元平民の最下級貴族の娘がそれだけの理由で王太子妃候補って何ですかその暴挙! 前にも言いましたけど、聖女の肩書きも擬い物なんですって!」

「だが予見力があったことは事実だ」

「いやそれも予見とかじゃなくて、単なる予備知識っていうか……うう、ああもう何か色々と腹括らなきゃ駄目な気がしてきた。例の手帳の件に関わることなので、後で改めてお話ししますので今は割愛しますけど、本当に! 私先読みなんてできないし聖女じゃないんで!」


 王太子妃とか冗談じゃない!

 ダニング男爵家の突貫淑女教育でさえ吐きそうだったのに、妃教育とか無理!

 何より王太子殿下が無理!

 私にはレイフ様がいますから! 拒絶されてますけど! 絶対諦めないし!


「手帳……なるほど。貴女にはまだ秘密があるようだな。では予見と聖女については一旦置いておこう」


 見逃しはしないと言外に匂わせて、王太子殿下は微笑んだ。だから尋問怖いってば!


「書面で希望は聞いているが、改めてダニング嬢に問う。男爵令嬢の身分を捨てる覚悟はあるか」

「あります」

「貴女はすでに成人しているから、親の承諾なしに父親の貴族籍を抜け、姓と身分を捨てることが出来る。平民に戻ることになるが、それも承諾するか」

「願ったり叶ったりです」

「よろしい。ではその後の話をしようか」


 その後とは、平民に戻ったあとの、ダニング男爵家と恐らく関与してくるだろうハウリンド公爵家対策についてということだろう。

 公爵家に入るつもりは毛頭ないし、王太子妃候補なんて以ての外だから、ここからが私にとって最も重要な話だ。


「連れ戻しの強制と脅迫を封じるため、後宮に籍を移す」

「えっ、こ、後宮?」


 後宮に籍を移すってどういう意味?

 側妃とか、心底お断りしたいんですけど!?


「後宮の主に生涯仕えるため、その籍を後宮預かりとする、ということだ。仕える主の持ち物として登録されるから、後宮に籍を置いた者に主以外の者が命じる権限はない。この場合の〝主〟とはエメラインになる。ここまではいいだろうか?」


 ああ、なるほど。王太子妃に封じられることが内示しているエメライン様の〝持ち物〟として後宮に登録されるから、実父や上位貴族であっても手出し不可になるってことですね。〝()()()〟って表現にちょっと思うところがあるけど、毒親と縁が切れるなら構わない。

 たぶん立場はメイドだよね? ダニング男爵家でもメイドの世話になったことがないからメイド喫茶のイメージしかないけど、絶対それじゃないことだけはわかる。

 上手くやれるか自信ないけど、エメライン様の側に居られるならそれはそれで楽しそう。見ていて飽きないっていうか。


 ――それに気になることもあるし、側にいる大義名分を貰えるなら渡りに船ってやつよね。


「一度後宮に籍を移すと生家には二度と戻れないことを、決断する前に念頭に置いてもらいたい。取り消しは出来ない」

「構いません。愛着の欠片もないダニング家や知らない貴族家の駒にされるくらいなら、私は私のままでいられる道を選びます。それに何より、平民上がりを王太子妃候補になんて大それた野心を抱く身の程知らずな者達にとって、王太子妃に内示されているエメライン様付きのメイドとして私が後宮預りとなることは、最っっ高に皮肉が効いてると思いません?」


 どうやら私の返答がお気に召したようで、王太子殿下の口角が上がった。

 うっわぁ〜……めちゃくちゃ悪い顔してるわぁ……。

 隣にエメライン様がいるけど、その顔は見せてもいい顔なの。


「いいね。気骨(きこつ)稜稜(りょうりょう)としていて実に後宮使用人向きだ。歓迎するよ、ダニング嬢。エメライン、貴女も異論はないだろうか?」


 それまでずっと口を挟まず耳を傾けていたエメライン様が、まるで心の奥底まで覗き込むような澄んだ瞳でじっと私を見つめてきた。


「カトリーナ様。一つだけ、お尋ね致します」

「は、はい」

「その道を選ぶことで、あなたは幸せになれますか」

「……っ!」


 驚いた。完全に想定外の質問だ。

 学園で嫌な態度ばかり取っていた私の幸せなんて、エメライン様には何の関係もないはずなのに。


「カトリーナ様の想いを遂げる妨げにはなりませんか」


 想いを遂げる……それは、レイフ様への恋心ってこと……よね?

 質問は一つじゃなかったのとか、でも意図は同じかとか、そんなことが頭を過ぎったけど、ついちらりとレイフ様に視線を向けそうになって、(すんで)の所で思い留まった。

 あ、危ない……! 一度孤児院で気持ちを伝えたけど、魔物騒動やら氷魔法の発現やらで有耶無耶になったままだったから、あれ以来何となくぐいぐいいけなくなったというか、レイフ様自身がその話題を避けてるっていうか、拒絶反応が凄いというか……。

 とにかく、築かれた壁を無遠慮に破壊して好き好き攻撃を繰り返していたら、きっと今以上に距離を置かれてしまう。それだけは嫌!


「可能性は、あると思いたいです。少なくとも今よりは、猶予と環境を手にできると期待しています」

「……そうですか。カトリーナ様が手元にあるカードの最善を選ばれたのならば、わたくしから重ねて申し上げることはありません。わたくしも心より歓迎致しますわ。そしてあなたの身と立場を守り、カトリーナ様の望まれる幸福を共に願いましょう」


 ああ、人の上に立つべき資質って、エメライン様のような気性を指すんだろうな。

 常に穏やかで冷静で、たとえ自身のことで反論や批判の声が上がっても俯瞰して状況を把握し、感情論で物事を見ない。

 この方に仕える人生なら、それはとても幸せで尊いものかもしれない。


 それに、シナリオに関することで今後エメライン様の助けになれる気がする。「バッドエンド絶対回避!」だ。


「ありがとうございます。よろしくお願いします!」




挿絵(By みてみん)

猫じゃらし様イラスト【エメライン&ユリエル王太子殿下】

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― 新着の感想 ―
[一言] うむ? 最後……シナリオを超えた展開ながらも、まだそんな状況を打破できる可能性が!? 気になりますね……次回待ちます!!
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