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連投しておりますので、11話を読んでいらっしゃらない方は前話へお戻りください( *´艸`)
日間ランキング13位、週間ランキング36位になっておりました!
ありがとうございます(人´∀`)♪
その時ふと、カトリーナ様が仰っていた〝忠告〟が鮮明によみがえりました。
『卒業パーティーでユリエル様に乞われたら、必ず受け入れること! じゃないとあんた、生涯監禁コースに強制執行されるからね』
――ああ! え!? か、監禁って、このこと!? 今の流れから何故そのような物騒な話に!? そもそもカトリーナ様は何故それをご存知でしたの!? 聖女様って凄いわ!
芽生えたときめきが、途端戦慄に塗り替えられたわたくしは、カトリーナ様の有難いご忠告に縋りつき、引き攣って石のように凝る喉を叱咤します。
「も、勿論ですわ、殿下。わたくしも、殿下をお慕いしております」
「それじゃ足りない」
「え!? た、足りない……足りない? ええと……」
踊るのを中断し、殿下はわたくしをテラスへと誘いました。会場の灯りと熱気がやんわりと届くテラスで、冷たい夜風がほんのり火照った身体を心地好く冷やしてくれます。
じっと続きを促すように見つめられ、おずおずと上目遣いになってしまうのはお許し頂きたいわ。
殿下が「これで無自覚とか……私をこれ以上どうしようと言うのか……試練か。これも試練なのか……」などとぶつぶつ仰っていますが、どうされたのかしら。
いえ、今はこちらが先ね。勇気を出すのです、わたくし!
「殿下………………あ、愛して、います」
は、恥ずかしい!
顔だけでなく全身が真っ赤に染まってしまっている気がしてなりません。テラスにお連れ頂けてよかった。
しばらく無言だった殿下が、ややあって強くわたくしを抱きしめました。ああ、と掠れた声が耳朶に響き、それが何とも言えない艶を孕んでいます。
何かしら……わたくし、何か変です。体がおかしいわ。
「もう一度言って、エメライン」
「……愛して、います」
「もう一度」
「愛しています」
「私も愛してる。心から、貴女を。貴女だけを」
「――んぅ!?」
頬を撫でた指がそのまま後頭部に滑り、顎を上向けた露の間――殿下のアメジストの瞳が閉じられたと思った時には、すでにわたくしの唇は塞がれていました。
しっとりと濡れた感触の正体が殿下の唇なのだと気づき、ぞわりと震えにも似た感覚が全身を貫きます。僅かな隙間も許さないとばかりにぴったり合わさった唇は、何度も何度も角度を変え貪りました。
甘い疼きに怖くなり、無意識に殿下の胸に縋れば、さらにきつく抱きしめられてしまいます。殿下の慣れ親しんだ香りに包まれて、まるで酩酊したかのようにくらりと目眩を覚えました。
わたくしの息が続かなくなった頃合いを見て、ようやく殿下の唇が離れました。唇に移ってしまったグロスを、殿下がペロリと真っ赤な舌で舐め取り――それがひどく色っぽくて、陶然と眺めてしまいました。
やはり、わたくしはおかしくなってしまったのかもしれませんわ……。
「私の部屋へ行こう。父上には退出の許可を貰ってある」
いつの間に――そんな疑問さえ再び食まれた唇の感触に霧散したわたくしは、殿下に抱き上げられて会場を後にしたのでした。
◆◆◆
「いや~……あれ、誰がどう見ても独占欲丸出しですよね」
「そうですわね。殿下がお仕立てしたドレスは殿下の瞳の色と同じ紫ですし、殿下の御髪の色に似たブルースピネルの宝石を銀の刺繍でこれでもかと縫い付けてありますもの。さらに装飾品もすべてアメジストで揃えるという徹底ぶりです。全身が殿下カラー一色という時点でかの方の重々しい執着具合が知れますわ」
「何と申しますか、粘着性の執念を感じますわ……」
「でもエメライン様、たぶんあれでもまだ気づいてなさそうでしたけど」
「そこがエメライン様の純粋でお可愛らしいところなのです。それに、エメライン様がお気づきでないのは、偏に殿下が不甲斐ないせいですわ」
「シルヴィア様、よくぞ仰いました。殿下の甲斐性のなさが招いた結果です」
「セラフィーナ様。素晴らしくてよ」
「シルヴィア様こそ」
「わあ、辛辣」
ふふふ、ほほほと優雅な笑声が起こる。
本来ならば諌める立場にあるサディアスとエゼキエルは、思わず同意しそうになって慌てて表情を引き締めた。
この会話に参加してはいけない。同意してもしなくても、婚約者たちに返される言葉は必ず自分達の柔い部分を抉ってくるに違いないのだから。
「でもまあ、監禁エンドはギリギリ回避出来たみたいで良かったわ」
ぶるりと身震いしたサディアスとエゼキエルは、心の中でこっそりユリエルにエールを送っていたため、カトリーナの呟きに気づくことはなかった。
◆◆◆
時は少し遡る。
「あ~失敗したなぁ。関係が冷えていると報告があったから招待状送ったのに、まさか溺愛していただなんて」
ヴェスタース王家から送り付けられてきた抗議文を斜め読みして机に放り投げた少年は、くくくと喉を低く鳴らして笑う老人を睨み付けた。
「お爺様。笑い過ぎだから」
「滑稽でなぁ。飯事で満足しているなら、お主の力量もその程度ということよ」
「言ってくれるね」
「本気で欲しいのならば、奪ってでも手に入れるのが甲斐性というものよ。それが出来ねば潔く諦めることだ」
にやにやとからかう老人にフンと顎をそらし、少年は今一度放った抗議文を手に取った。
「でもまぁ……ねえ? 戦争になっちゃうかもよ?」
「領土も女も奪い合うものだ。問題ない」
「大叔母上が嫁いだ国でも?」
「関係ない。あやつも連れ帰れば済む話だ」
「ふ~ん? でも父上が許すかな?」
「知れたこと。あれも奪って生まれたのがお主であろうに」
「あはは。確かに」
皇妃の一人である少年の母親は、当時の婚約者と結婚式を挙げる前夜に、皇太子のお手付きとなった。現在皇帝である少年の父親は、そうして奪った皇妃が十人いる。
「なるほど。じゃあ貰っちゃおう」
悪戯を思いついた子供のような笑みを刷いた、須臾の間。少年の手に握られていた手簡が黒い炎に包まれ、あっという間に灰すら残さず燃え尽きた。
「とりあえず、彼女にお忍びで会いに行こうかな。ふふっ。待っててね、エメライン姉様」
そう呟きうっそりと笑った少年を、老人は面白そうに眺めていた。
これにて完結です。読了お疲れ様でした(*´艸`)
5日間のスピード連載でしたが、如何だったでしょうか?
他の拙作に比べたら、好き勝手にあっさり簡潔に書きました。
少しでも楽しんで頂けていたら、書き手冥利に尽きますね~♪(/ω\*)
ではまたいずれ、皆様にお会いできますことを願っております(*>∀<*)
ありがとうございました!




