10 サディアス side
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日間ランキング14位になってた……はわわっっ
捕物騒動から華やかな雰囲気を取り戻した会場では、王太子殿下とアークライト嬢が宮廷楽団の奏でるワルツに乗ってファーストダンスを踊っている。十二年もずっと耐えてこられた殿下の、執念とも言える初恋が成就したようで喜ばしい。
アークライト嬢の深刻な勘違いに拍車がかかればかかるほど、日に日に殿下の目が死んでいく様は見ていて哀れ――げふんげふん。お労しいものだったが、取り敢えず落着したようで心底ほっとした。末期過ぎた殿下がアークライト嬢をどう扱うか不安で仕方なかったのだ。
殿下もアークライト嬢も互いに別方向を向いてはいたが、同種の拗れに拗れた厄介な状況だったので、落ち着くべきところに落ち着いてくれて本当によかった。
あのお二人は何故ああも拗らせていたのか。端から見れば、どう見たって想い合っているというのに。よもやアークライト嬢があそこまで鈍感だとは思いもしなかった。殿下を愛しておられるのに、それに気づいていないなどと誰が思う?
まあ、雨降って地固まるということで、落着したと判断していいだろう。まったく世話の焼ける。
さて、そろそろ一曲目も終盤だ。私も婚約者であるシルヴィアを誘おうと視線を巡らせれば、エゼキエルとフェアファクス嬢と共にダニング嬢を取り囲んでいた。
「数日前にお話をお聞きした時は信じ難いと思いましたが、確かにダニング嬢の仰るとおりになりましたわね」
「ええ。わたくしは王太子殿下とエゼキエル様に粉をかけられましたこと、まだ許すことは出来ませんが、此度エメライン様の御為に働かれたことは高く評価しておりますわ」
「そうですわね。然りですわ、セラフィーナ様。まあ一番腹が立ちますのは、わたくしたちを蔑ろになさったサディアス様方ですけれど」
「同感です。わたくし、卒業パーティーを前に婚約解消を申し出る心積もりでしたもの」
「えっ……セラフィーナ、それは」
「あら奇遇ですわね。わたくしもでしてよ」
おいおいおいおい! 待ってくれ! それは初耳なのだが! あと一日でも遅れていれば、私はシルヴィアに婚約破棄されていたのか!?
「シ、シルヴィア」
「まあ、サディアス様。そんな情けないお顔をなさって、どうされましたの?」
うっ……分かっていてこの言葉。あれほど事情説明して謝罪したというのに、まだ怒っているのか……。詫びの品として宝石や装飾品をねだられるだけ大量に購入したし、シルヴィアの気が済むまでとことん付き合った。
まさかまだ足りない? 嘘だろ? 頼むからもう許してくれ。
「その……本当にすまなかった。だがどうか、私もつらかったのだと理解してくれないだろうか。君に触れられない期間がどれほどの地獄だったことか」
「セラフィーナ。俺からも今一度謝罪したい。俺にはお前しかいないんだ。お前に背を向けられたら耐えられない」
「サディアス様……」
「エゼキエル様……」
シルヴィアとフェアファクス嬢が絆されてくれそうになった露の間。雰囲気をあっさり粉砕し、ダニング嬢がふはっと笑った。
「どっちも女々しい」
「「ダニング嬢……」」
「やだ睨まないでくださいよ。イケメンが凄んだら怖いじゃないですか」
はあ、と私もエゼキエルも重々しく嘆息した。元凶が言うな。元凶が。
しかし人格破綻者だと思っていたが、どうやら違うらしい。
「貴女はもはや別人だな」
「あ~。リセット出来ないって知って色々諦めたら、なんかどうでもよくなって」
「「「「どうでもよくなって」」」」
我々の声が綺麗に合わさった。半眼に呟く様までぴったりシンクロしている。どんな感情であれ、シルヴィアと同じ気持ちでいることが嬉しい。うん、私も殿下のことを言えないな。私も相当な末期だ。
「こっちが元々の素なんで、適当に聞き流してください」
リセットとか、相変わらず意味不明なことを口走るご令嬢だが、人格破綻者ではないことは間違いないな。
「教会が貴女を聖女と定めたことに不信感しかなかったが、確かに貴女は未来視の能力を有していた。一週間前に取り引きを持ち掛けられた時は眉唾物だと思ったが、本件の功労者は間違いなく貴女だ」
「未来視ってわけじゃないんですよ。私が知ってるのは今日の卒業パーティーまでだし、王太子殿下がエメライン様を選んでる時点でシナリオ破綻してるし。だから正確には私が知ってる筋書き通りにはなってないです。ある程度の落としどころに落ち着いたってだけで」
「それを未来視と言うのではないのか」
「違いますね。私はちょっとズルをして、先の展開を知っていただけなので」
――うん。違いがわからん。
「教会も、貴女のその知識を知って聖女認定したのか?」
「そうですね。自分から売り込みに行って、先を言い当てたことで認定してもらいました。……あの、教会って今後どうなるんですか? 不正を働いていたのは上層部であって、その下は関係ないですよね?」
「教会そのものはちゃんと残る。国の監査役が入ることになるが、基本的には変わらない。本件とは無関係の者たちに累が及ぶことはない」
「それを聞いて安心しました。私、元々は教会の孤児院育ちなんで、お世話になった孤児院が取り潰されたらどうしようかと思って」
「今までは教会の権限で不透明だったが、今後は国の目が入ることで福祉も充実することだろう」
「じゃあ安心だ。はぁ、よかった~」
不思議な女性だな。こちらの方がずっと魅力的だというのに、何故あのようなとち狂った女を演じていたんだ?
「――サディアス様……?」
ハッ! 殺気が!?
シルヴィア、誤解だ! これは恋情などでは決してなく! お、落ち着けシルヴィア! 君の得意とする武器が馬術用の鞭だということはよく知っているが、それで叩かれるのは御免だ!! 卒業パーティーの舞踏会に、何故そのようなものを持ってきている!? どこから出した!
「そっ、それで、ダニング嬢。卒業後、貴女はどうするんだ?」
「まあ一応聖女名乗ってますし、教会に残りますよ。あのそれで、ちょっとお願いしたいことがあるんですけど」
「なんだ? 本件の褒美を考えていると殿下も仰っていたから、ある程度の融通は利かせられると思うが」
「やった! じゃあ殿下にお伝えください。殿下の影の一人である、レイフ・アーミテイジ卿に会わせてくださいって」
「アーミテイジ卿を? 現在アークライト嬢に付いているが、卿と面識あったのか?」
「いいえ?」
「いいえ?」
「はい。会ったことはないですよ」
「会ったこともないのに、何故アーミテイジ卿を知っている? ――ああ、それも未来視か?」
「シナリオを知ってるだけですって。レイフ様はですねぇ。王太子殿下ルートをクリアした後に攻略可能になる、隠しキャラなんですよ! レア中のレア! 大団円エンドに逃げられたから、隠しキャラ狙っても問題ないし! 実はレイフ様って私の最推しキャラだったんですよね~」
いよいよ以て意味がわからんな。
ダニング嬢の突飛な謎発言は、彼女ならばこういうものだと呑み込んでしまった方が平和だ。




