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幼馴染の表情は特殊

作者: 顔文字

以前に身内で持ち寄ったときに書いた小話です。


キーンコーンカーンコーン……キンコーンカーンコーン……


一日の授業を終えるチャイムの音に反応して意識が覚醒する。途中から意識が無かったなぁ……まだ眠い。


「今日やった紫衣事件は来週の小テストで論述形式で出すから見直しとけ。それじゃあ終わり、解散」


日本史の内容は面白いが、先生の授業進行がゆっくりなため毎週金曜最後のこの授業はたいてい寝てしまっている。時々寝ていることがバレてしまうのだが、先生の締めの言葉が発せられた途端、各自部活へ急いでいたり、寄り道ありきの帰りの誘いをしたりと、放課後特有の喧騒に満ちていたおかげで俺が寝てたことはバレてないようだった。俺も帰るかと鞄の用意をしようとしたとき、


「お前また寝てたろ?」


前の席のやつが座ったまま後ろに振り向いて話しかけてきた。


「授業終わる少し前にな、なんだっけ〜あの座ったまま寝ると身体がビクってするやつ。それで膝が机にぶつかってたぞ」


「あーあるなそれ、てことは先生にバレてた?」


「いや多分バレてねーよ。先生黒板に向いてたし、音もそこまでデカくなかったしな」


まあバレようがバレまいがどうでもいいことなんだけど、つい反射的に聞いてしまった。


目の前のこいつは孝志、高校に入ってからの友人でクラスも2年続けて一緒、クラスが一緒だったから仲良くなった感じだ。数少ない俺の友人の一人である。


「そうか、まあどっちでもいいけど」


「……今日の授業内容次の小テストに論述で出るって言ってたぞ」


「ふーん」


「……ちょっとは焦ると思ったんだが、さてはお前内容知ってた?」


「この時間は寝ること多いから、昨日寝る前に教科書とwiki見て予習はした」


「真面目なのか不真面目なのか相変わらずわからんやつだなお前」


笑いながらそう言う彼、聞きながら帰る用意を始める俺。


そんな時、隣の席の机が押されたようにこっちに近づいた。見ると隣の隣の席で騒がしい、よく言われる陽キャの集まりがいた。どこのクラスにも1グループはいる男女入り混じって行動、遊んでいる集団だ。そのうちの1人が隣の席にぶつかってしまってこちらに机が動いたようだ。机と床が擦れる音が気になる程度に大きかったせいか、ぶつかった1人がこちらの方を見ていた。窺える顔は誰でもわかるほどに、焦っていた。


擦れた音に反応して教室内に残っていた生徒のほとんどはこちらを向いたのだろう。途端に静かになる教室。理由は分かりきっている。隣の席の生徒が原因だ。


「あ、その……ご、ごめんね、天原……さん」


座っていた生徒がぶつかった陽キャの方へ向く。隣の席からなのでその表情はわからない。が、まあいつも通りだろうと推測する。だって、


「っ!!……ほ、ほんとにごめんね!!」


と言ってぶつかった陽キャグループの1人は逃げるように教室外へ出ていった。一緒に団欒してたグループも追いかけるように教室外へ出ていった。それが出ていった友人を慰めるためか、教室の微妙な居心地悪い空気感かは分からないが、恐らく前者だろう。陽キャのグループと言っても彼らはDQN系のグループではない。他に俺が知っているグループとは比較的温厚なグループで、よく先生の授業前の手伝いやグループ外のクラスメイトとも和気藹々としている。振り向いていた生徒は自分の机に向かい帰る準備を始めた。俺も帰る用意が整った。


「おぉお……こっちはこっちで相変わらずだな」


顔を近づけ声のトーンを落とし、俺にしか聞こえないようにして苦笑いしながらそう呟く。途端、急に隣の生徒はこっちを向いた。どうやら片付けは机上の教科書を鞄に入れるだけの簡単なものだったようだ。


「!!そ、それじゃあ後は旦那さんに任せるか!!じゃあな!!」


と言って前の住人も俊敏な動きで鞄を持って教室の外へ出ていった。


俺の目の前には件の生徒、いや、幼馴染である天原涙歌がこちらを向いて立っていた。さっき孝志が旦那と言ったのはこのクラス、ひいてはこの学校でこいつと接することができるのは教師を除くと俺だけだからだ。


何故こいつがさっきのように相手が逃げるのか?簡単なことだ。


「……」


顔、詳しく言うなら表情だ。今もこいつは無言で、無表情で俺を見ている。ただ無表情なだけなら、さっきの陽キャのグループのような人達なら問題はなく会話が成立するだろう。であるならばその無表情に何の問題があるのか。


目である。三白眼と呼ばれるそれは、それ自体が人を萎縮させる双眸であるのに加え、目付きが切れ長で、幼馴染である俺も時々恐ろしいと思う程度に鋭い。神様は将来こいつに眼差しだけで人を殺させるつもりでもあるのか?なんて考えは今まで幾度もあったが、未だそのような事態には陥っていない。


この目のせいでこいつはいわゆるぼっちと呼ばれる部類に入る。話しかけても、話しかけられても、その双眸によって先程のように全員逃げてしまうからだ。


目付き以外はいたって普通、いや成績良好、運動抜群、こいつの趣味も上手くいっている。コミュニケーション能力はこいつと会話するのが俺と親類、趣味を通じての知人?ぐらいしか知らんから何とも言えん。だが、目付きが悪いので、学内では上手くコミュニケーションを取れていない。


そんなこいつと俺は幼馴染であり、クラスメイトもこいつにプリントや連絡などで用事があるときなどは「芦原君これ天原さんにお願い」などと仲介役になっている。勿論毎回「自分で渡せよ」と言うのだが、「え……いや、だってその……天原さん怖いし……」との反応が返ってくる。とりあえずその怖い思いを俺に押し付けているということだけはわかった。


このようにこいつに何かあるときは俺に相談するのがクラスの暗黙のルールであり、それが曲解やら尾ヒレなどがついて「芦原っていうモブ男と天原っていう不良は付き合ってる」という噂まで流れている。モブはまあ否定はしない。だがこいつが不良ってのは毎度言われる度に否定してる。そんなことがまかり通ってしまうとこいつの交友関係はゼロと言ってもいいのにマイナス方面へ向かってしまう。それだけは避けたい。それにこいつとはまだ付き合ってはないっての。


話が逸れたがこいつはそんなやつ。で、何故涙歌が俺に向いているのか、それも俺には簡単にわかる。ふと涙歌の表情が変わる。


「d('∀'*)」


準備ができたようなので俺は涙歌と一緒に教室を出た。



金曜日なだけあっての下校ルートには人が多い。というのもこの学校、金曜日にやっている部活が少なく、やっていたとしても運動系の部活程度なもので、それも数える程度だ。


そしてそのいつもより人が多い中、俺と涙歌は横並びで帰っている。そんな俺達を周りの下級生上級生はちらほらこちらを見ている。中にはひそひそと話しているやつがいる始末。俺はもうこの視線には慣れた。1年の頃からずっと続いてるんだ、割り切って慣れないと気疲れする。既にしているという感も否めないが。


校門を出てバスに乗り4つバス停を通り過ぎて俺と涙歌は降車する。ここからは歩いて約15分程。俺と涙歌は同じ方面、付け加えるなら家は隣同士だ。


ここまで来ると学校の生徒はもういない。近くには車や自転車などは通るので人自体がいないというわけではない。


「今日ぶつかったやつにどんな顔したんだ?」


ストレートに聞いてみた。今更涙歌に遠回しに聞くなんてことはしない。てかしたことがない。


「( ˙-˙ )」


「あぁ、そのまま向いたわけか。知ってたけど」


「( º言º)」


「いや万が一お前がちゃんと表情作った上で逃げられた可能性もあるじゃん。そうなったら練習の方向性変える必要があるかなって思っただけだ」


そう涙歌は、表情を出すとき、顔文字になる。人は目や眉、口などで表情を作るが、涙歌の場合はどんな仕組みかわからないが顔文字になる。普通の表情もできるのはできるんだが、驚く程時間がかかるため、会話のスピードに表情が追いつかないという問題が生じる。これを解消するために昔から表情の練習をしているのだが中々上手くいかず、今日のようなことが起きてしまうのだ。


「う〜ん……普通の表情は出せるようにはなったんだけどな〜」


と呟くと、涙歌が俺の目の前に立ち、亀のような速さで表情を変えていった。悲しい→悩ましい→怒り、最後に1番タメを作って嬉しいの順だ。


「……おちょくりたいのはわかるが、表情のスピードが遅いし順番もわかりきってるから効果半減だわ」


「(´・ω・`)」


……強がってはいるが実はかなり効いた。涙歌はデフォルトで表情を変えないのに加え目付きが鋭い。そんな涙歌が嬉しそうな笑顔で俺の顔見たので。普段とのギャップが凄すぎてこればかりは慣れない。いくら長い付き合いで、涙歌の笑顔を知っていたとしてもだ。


「ともかくまた練習して早く友達作るぞ。毎回毎回仲介役になるのはごめんだ」


「(._. )」


「んな落ち込まなくてもすぐできる。お前表情さえクリアすれば引く手数多だろうから」


成績良くて運動もできる。ただ目付きが鋭いだけ。これさえどうにかすれば後は勝手に人が寄ってくるだろう。学校なんて頭かスポーツ、あと顔が良ければある程度ちやほやされる。あーでもこいつ顔も目付きには問題あるが、肌綺麗だし、パーツも整ってる。三冠じゃねえかよく考えたら。


「( 'ω')ノ」


「うるさい。さっさと帰るぞ」


止めていた足を進める。もう家が目の前に見えていた。


「……前も聞いたが辛くないのか?学校で怖がられるの」


分かりきっている問いを投げる。月一ぐらいで俺はこの質問をしてしまう。生活の大半を過ごす場でいつも1人。俺がいるときはその限りではないが、それでも1人でいることが多いのは事実だ。


「((* •̀ㅂ•́)و✧」


もし本当に辛かったら学校辞める、転校するなど取れる方法はある。だけど涙歌はそれらを選ばない。


「いい加減教えてくれよ。なんで平気なんだよお前」


「♪~(´ε` )」


これだけはどうしても教えてくれない。多分もうこの質問は20回以上はしたはずだ。我ながらしつこいと思うのだがどうしても気になってしまうのだ。

そうこうした間にお互いの家についた。俺と涙歌は顔を見合わせた。


「また明日な」


「また明日ね」


形式的に別れの挨拶を交わしたが、多分30分もしないうちにどちらかがどちらかの家に行くのだろうがそれはまたの機会に。





幼馴染には勝ってほしい。

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