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「ううん、どうしましょう。」
早く会場に戻りたいのに、戻ろうとすれば、追っ手が丁度やってくるので、仕方がなしに道を変えていくとどんどんどんどん会場から離れて言ってしまう。
先程まで音楽が聞こえていたはずなのに、聞こえなくなってしまった。
「大分、奥まで来てしまったようですね。」
旦那様は、きっともう気づかれているはず。
心配しているかもしれません。
しかし、追っ手も必死ですね。
思ったよりも人が多くて、なかなか上手くいかない。
先程は私を探しているのはメイドだったのですが、もう誰が敵なのか分からない状態なので、隠れました。
「うぅ、早く帰らないと。」
誰にも会わずに、サッと夜会会場に戻りたいのに。
それほど居ないと思っていた追っ手が多くて、困ってしまいます。
いえ、もしかしたら追っ手では無いのかもしれませんが、最初の方が城の者でしたので、城の方は正直誰一人として信じられないので、会わないようにしているのですが、なかなかこれが難しい。
人の気配のしない部屋に入ってなんとか交わしては居るのですが。
「あっ、また!」
今度は逆方向から、人が来ました。
どうやら今度は騎士の方。
「ウィルド公爵夫人!どちらにいらっしゃいますか?!」
「居たか?」
「いや、ここには居ない、まず俺ら以外に気配がしない。」
「そうか、早く見つけないと。」
バタバタとこちらを離れる足音が聞こえてホッと一安心。
騎士の方にならバレてしまうかと思ったけど、良かった通用したわ。
しかし、本当に困ったわ。
「ここからどうやって帰れば。」
「道が分からないのかい?」
「いえ、戻り方はなんとなく分かるのですが、追っ手から逃れながらだとなかなか難しくて。」
「追っ手?さっきの奴らかい?」
「いえ、それ以外にも居て。なかなか進めず。」
「なるほどね。しかし、なんで君は追われているのかい?」
「さあ?ただ、姫様が何かしら考えてだと思うのですが。」
「姫って、嗚呼、父上の新しい奥さんね。一癖あるって言ってたけども、なんともまあだね。」
父上の新しい奥さん?
あれ、私一体、今誰と話していた?
後ろに振り返ってようやく気づいた。
「あっ、あなたは!?」
「初めまして?ウィルド公爵夫人?」
「えっ、あっ、すっすみません!レオルド殿下。」
後ろに振り返れば、ラートム・レオルド殿下が笑顔を浮かべていらっしゃった。
まさか、私、殿下がいる部屋に気付かずに入ってしまっていたなんて。
なんて、失礼なことをしてしまったのだろう。
慌てて頭を下げる。
「んん?何を謝っているんだい?」
「いえ、だって、殿下のお休みしている部屋に知らなかったとはいえ勝手に入ってしまったので。」
「嗚呼、別にいいさ。まさか君も、こんな辺鄙な所に誰かいるとは思わなかっただろう。それに、どうやら気配を探りながらだったようだし、何かあるんだろうって思っていたから、今の今まで黙って見てたんだ。」
「えっ、気配を探りながらってそのことも気づかれて?」
そうです。
私、一応、誰か待ち構えていたら困るからって気配を探りながら進んでいたはずで、この部屋に入る時も気配を探ってなかったから入ったはずで。
だからさっきまで殿下がいることに全く気づかなくて。
「嗚呼、これでも私は獣人族だからね。気配を消すのは得意なんだ。しかし、この国のご令嬢は凄いね。気配を探ったり気配を消したり出来るんだね。驚いちゃったよ。」
「えっと、それは。その。」
「勿論、この国のご令嬢がみーんな出来るとはおもってないさ。君だからできるんだよね。確かウィルド公爵夫人は元は辺境のご令嬢だって聞いたよ。」
「えっ、私のことを知って?」
「うん、ウィルド公爵はこの国ではとても有名な家だからね。それに、この国ではあまり知られていないけども、うちでは獣人族の一族であることはよく知っているからね。」
「そうなのですか!?」
「うん。あの屋敷の者はうちの国から行っているものばかりだからね。でも、この国ではあまり知られるのも良くないことをしっているからね。同族たちが苦しむことは見たくないからね、みんな黙っているさ。しかし、やっぱり君は知っているんだね。」
「あっはい。」
「ふふふっ、話に聞いてはいたが、やっぱり不思議な子だね。」
「話、ですか?」
「嗚呼。君のお祖母様からね。」
私のお祖母様から?
もしかして、今も旅をされているお祖母様かしら。
弓の名手で、それこそ色々な国にお弟子がいるお祖母様。
今はどこにいらっしゃるのか分からないのだけど、まさか、隣国にいらっしゃっていたの?




