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「くそっくそっくそっ!!!」
ミミ!ミミ!ミミ!
なんで俺はあの場から離れたんだ!
なんで、信じてしまったんだ!!
警戒していたはずなのに!
まさか、この場でこれほど大胆にもミミを狙うなんて!!
「くそがっ!!」
なにか仕掛けてくることは分かっていたさ。
しかし、それは俺に対してだと思っていた。
最後のチャンスだから、絶対に仕掛けてくるとさ。
しかし、俺は獣人族であり、銀狼族の先祖返りとも言われているから、毒に耐性もある。
元々、獣人族は普通の人よりも身体が強いが、年々違う血筋が入ったことにより弱くなっている事実もある。
俺の父も獣姿に完璧には戻れないぐらいだ。
完璧な獣の姿になれないものも多くいる。
うちにいるもの達だって、半数は耳やシッポだけしか出なかったり、それ以上でも獣に近くはなるがそれこそ全く同じになることは出来ない者がほとんどだ。
勿論、慣れるものもいる。
隣国では多く居るそうだが、それでもそんなに多くはない。
故に、完璧に獣に慣れるものは珍しく、先祖返りだと言われている。
その珍しい先祖返りである俺は普通の獣人族よりも強く、毒耐性がある。
身体も強く、ちょっとやそっとではどうともない。
だから正直軽く考えていた所もあった。
俺が刺されるぐらいはどうってことはないし、毒だって大丈夫だから。
殿下から、まだ諦めていないと聞いた時驚きはした。
獣人族であることをバラしたのに、まだ諦めていないとは。
話を聞けば、例え、今、俺が獣人族だとしても、結婚する方がいいと考えているそうだ。
あの後、殿下や陛下のところまで来て確認をされたと言われ、伝えたことを報告した。
仕方がないと陛下に言われ、殿下には本来なら知っていかなければならない事実だから大丈夫だろうと言われた。
しかし、それでも姫が俺の元にやってくるから可笑しいと思って殿下に聞けば、諦めていないと。
獣人族ばかりの国に行くよりは、たった1人の獣人族と居る方がマシだとか。
そういえば、うちの屋敷の住人全てが獣人族であることは言ってなかった。
だから、俺1人だと思ったのだろう。
他を探そうにももう遅すぎたのだ。
今更他の者に声をかけた所で一切振り向かないだろう。
あれほどしつこく付きまとっていたのだ。
夢を見ていた奴らも目を覚ますだろう。
まあ、大体の奴はあの夜会で目が覚めていたが。
数人いた幻想を抱いていたやつも目を覚まし、どんな爵位の者も見向きしなくなっているのだ。
勿論、俺だって見向きしていないのだが、しかし引くにひけなくなった姫は、それこそまともな思考出来ず、それでも諦めないという結果になっている。
そんな現状だからこそ、手を出すなら俺だろうと思っていた。
まさかミミに手を出すとは思わなかった。
殿下に呼ばれたと言われてついて行けば、部屋には誰にも居らず、後から入ってきたのは姫だった。
ある意味予定通りだと思い、すぐさま部屋から出ようとしたが、引き留めようとする姫に、少々手荒に振り払った。
すると、姫が急に笑いだし、気でも狂ったかと思えば言われた言葉に耳を疑った。
「ふふふっ、貴方は獣人だから、まともにやり合っても無理なことは分かってるわ。けど、あなたの奥様はどうでしょうね?」
「あっ?今なんと?」
「ふふふ、ふふふ、あはは!!私をあれだけ蔑ろにするからよ。だから邪魔者の奥様には少々痛い目にあってもらうのよ。まぁ、大丈夫。気づいた時にはもう終わっているはずだから。ぐっあ!?」
「私の妻に、俺のミミに一体何をした!?」
勢いのまま、胸倉を掴む。
一体今なんと言った?
俺の唯一に一体何をした?
「ぐぅっ、あなたの奥さんは今頃、きっとお楽しみ中よ?ふふっ、ははっ。」
「なっ!!!」
まさかミミに手を出したというのか!
何も関係のないミミに!
確かに、俺が断った理由にはミミがいるからだと言ったが、しかし、流石に、全く今回の件に関してはミミは関係が無いのだ。
結局は、俺と姫のことだ。
流石に、ミミにまで手を出すことは王族として、人として、常識として有り得ないだと思っていた。
そのようなことをするとは流石にないと思っていた。
例え、ミミと離婚しようとも、俺は姫と結婚する気は一切ない。
俺がミミを愛する気持ちは一切変わらないからだ。
例えミミと離婚することになろうとも。
それこそ離れ離れになろうとも。
俺がミミを愛するという気持ちは変わらない。
それなのに、姫は、コイツは!!
「最低だな!!」
「ふっふふっ。なんとでも、言いなさいっ!私は!手段を選んでる、暇なんて、ないんだからっ!!」
「何故、それほど嫌う!!?」
「はっ?嫌う?違うわっ!私は生理的に受け付けないのよ!!アイツらが!!」




