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「あの、旦那様?姫様の婚約発表の夜会があるとか?」
「嗚呼、そうなんだ。ようやくだ。ようやく、あの姫も黙るだろう。」
心底疲れたという表情を浮かべた旦那様に思わず苦笑が漏れてしまう。
あれから、数ヶ月がたち、旦那様とは穏やかな日々を過ごしていました。
と言っても、どこか甘さのある雰囲気に慣れないこともありましたが、旦那様は無理には何もしませんし、周囲も暖かく見守っているという感じで、どこか恥ずかしく感じながらも穏やかな日々でした。
しかし、どうやら旦那様はそうではないようで、あれから姫が屋敷の方に出向いてくることはありませんでしたが、旦那様の方にはなんども来たそうで。
帰宅した旦那様は日々疲れた様子で、それを見たクリスに癒して欲しいとお願いされるぐらいでした。
その様子を見ているエレナも黙って見守るぐらいで、相当疲れた様子でした。
話を聞けば、あの日、相当旦那様は怒って陛下や殿下に言ったらしく、二度と姫を屋敷には行かさないと約束されたそうです。
でも、旦那様の元にくるのは止められず、屋敷の方にも来そうになったそうですが、屋敷の皆がまず止めてくれているそうです。
それを知った旦那様は仕方がなく姫に会うそうですが、それがとても疲れるようで。
話を聞いた限りだと、本当に身勝手だなと感じることばかりでした。
例えば。
「長年、私に片思いをしていたのは知っていたし、私も愛していたわ。でも、私達は許されない立ち位置にいたから必死に我慢したのよ。」
と言われたそうだが、旦那様が覚えている限りだとそんな様子は一切なく、それこそ自分のタイプは爽やかなイケメンなのだと言われたと。
旦那様はどちらかと言えば彫りの深い美形男子なので、爽やかなイケメンさんとは寧ろ真反対なのだ。
確か、近衛騎士団の中で旦那様とはまた違った隊の隊長さんがそんな感じだとか。
それで前の旦那様はたいそうその隊長さんに対抗意識を燃やしていたとか。
スーニャから聞きました。
因みにその隊長さんは、姫は全くタイプじゃなくて、本当に迷惑していたとか。
なんでスーニャがそんなことを知っているかというと、お仕事上で付き合いがあるそうで。
因みにスーニャはいい人だけど、それ止まりの人だとか。
スーニャは、好きにならないの?って聞いたらそう言われました。
「彼、本当に爽やかでいい人なのよね。イケメンだし、本当に看板としてはいいから、うちのブランドの物を使って貰えてて助かるんだけどねー。でも、本当にそれ止まり。」
とのことでした。
どうやら、スーニャの意識は仕事仲間ぐらいでしたが、相手はスーニャのこと気になってると思うんですが。
だって、スーニャは美人さんで、でもしっかり者さんで、とっても魅力的な人。
しかも、何故かスーニャが相手のタイプを知っているかと聞けば、スーニャが好きなタイプを聞かれて、教える代わりに聞いたと。
何故聞かれたか分からないけどもとか言ってたけど、絶対スーニャを気にして聞いたと思うんですが!!
因みに因みに、その相手のタイプはしっかり者で、自分をしっかりともっている女性だとか。
それって、もうスーニャでは!?と思いましたが、本人は全く気づかず、そしてそのスーニャはタイプを優しくて可愛らしい、でもしっかりとした人で、支え合える人で、器の大きく、面倒見のいい人と答えたそうで。
それを聞いた時、なかなかそんな人はいなさそうだから、見つけるの大変そうだと言ったのだけど、スーニャは案外見つけられるものだと言っていた。
あれってもしかしてもう見つけているってことだったのかしら?
だから、その姫のタイプの隊長さんは眼中に無かったから気づかなかったのかしら?
今度、スーニャにそれとなく聞いてみよう。
って、話がズレました。
そんな話がそれこそ貴族中で知られていたので、今更、想い人は貴方なのよって言われても信じられるわけが無いわけで。
それを姫に伝えれば、誤解だと騒がれて困ったと旦那様が言っていました。
そんなこんなで毎日のように押しかけてきては色々と言われて旦那様は日々疲れていました。
それがどうやら、今日、ようやく、隣国がこちらに来る日取りが決まったとのことで、それに向けての準備が始まったとクリスから聞きました。
「はぁあ、長かった。いや、短いぐらいなのだろうが、あちらは陛下なのだから、本来ならうちが行かなければならないのだが、姫が病弱だからなんだとかで、本当に結婚する時にしか行かないとか言ったそうで、困ったものだ。」
「そうだったんですか?」
「まぁ、確かに昔は体が弱く、俺たちと一緒に遊ぶことはほとんど無かったな。しかし、今はそんなことはほとんど無くなっているはずだがな。」
「えぇ?それってバレたら大変では?」




