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「俺は、もう逃げないと決めたんだ。」


「旦那様?」


「父上、母上には相当わがままを言ったことはよく分かっている。ミミも聞いたんだろう?母上から。」


「えっ、あっ、はっはい。」



やっぱり、ミミに言っていたか。

母上に辛く当たってしまっていたのは、よく分かっている。

こうして落ち着いてみて、どれほど自分が愚かだったかよく分かった。

何も悪くない両親に当たり、そして何の関係もないミミまで巻き込み、クリスやエレナに迷惑を掛け続けた。

色んな人に迷惑を掛けてきた。

心配を掛けてきた。

しかし、今、ようやく目が覚めた。

姫がミミに対して、危害を加えようとした時に、今のままではダメだとはっきりと気づいた。

騎士としては功績を上げたかもしれないが、公爵としては力がなく、それこそ騎士を辞めたとき、何も残らない。

ミミと共にいる為にも、騎士を辞めようと思い、なかなかやめさせて貰えない状況に苛立ちさえしたが、よくよく考えれば今まで公爵として、また領主として何もしてこなかった俺が、今すぐ騎士を辞めたとして、力はあるのか、と。

そりゃ、ミミを守る為ならば、父上も母上も力を貸してくれるだろう。

屋敷の者だってそれこそ死にもの狂いで働くだろう。

しかし、俺はどうだ?

なんの力もないままでは駄目なんだ。

しっかりと力を付けないと、大事なミミを俺自身が守りたい。

だからこそ、今から頑張らないといけないと感じたのだ。



「結局は逃げるための口実にしか過ぎなかったんだ。周りとは違うことを言い訳にして。しかし、それではダメなことに気がついたんだ。ようやく。」


「旦那様。」


「ミミとこうやって出会えたから気づけたことだ。本当にありがとう。」


「えっ、ええ?私ですか?」


「嗚呼。ミミに出会い、ミミと話し、そしてミミを愛したからこそ気がつけたんだ。」


「えっあっ。その、旦那様?旦那様は何故、私に対して、そう、その愛してとか言えるのですか?その失恋した時に私がたまたまそばに居たからではないのですか?それはその、親愛では?」



恐る恐るという風にミミが聞いてきた言葉を聞いて、驚いてしまった。

あれほど、愛してる、好きだと言っていたのにまさか親愛だと勘違いしてると思ってたのか?

何一つ伝わってないということなのか??



「親愛なわけが無い!いや、親愛もあるさ!しかし、そんな綺麗な愛だけではないんだ。君を独り占めしたい、独占したい、出来れば閉じ込めてしまいたい。俺だけを見て、俺だけを思って欲しい!!そう思っている!!」


「えっ、あっ、え?」



ガッシリとミミの肩を掴み、叫ぶように伝える。

俺の思いを。



「最初は契約だった。しかし、今は君と本当の意味で夫婦になりたい。」


「本当の夫婦?」


「お互いを思い合い、愛し合い、そして、触れ合える夫婦にだ。」


「だっ旦那様!?」



グイッとミミの顔に寄せ、じっと見つめれば、ミミの蜂蜜色の目が揺らぐ。

甘そうなその目を見ているとどんどんと吸い寄せられる。



「だっ、だっ、旦那様!!!」


「あっ、すっすまない。でも、さっき伝えた気持ちは本当の気持ちだ。」



焦ったミミの声でふと我に返った。

危なかった。

あのままならキスをしていたところだった。

そっと体を離し、距離を取る。

そうじゃないとまた抱きしめてしまいそうだ。



「ミミに思っている人がいることはよく知っているし、今すぐ忘れてくれとはいう事はできない。でも、きっと、俺を選んでもらえるように、そいつよりも選んでもらえるようにするから。」


「旦那様。」


「クリスからなんとなく聞いている。俺と同じ獣人で、しかも狼族だってことも。」


「そんなことまでクリスが?」


「嗚呼、君の命の恩人だということを聞いた。ミミを守ってくれた。そのことに関して、感謝はしている。けども、それはそれだ。これほど魅力的な女性を何年も待たせ続けていた、そのことに関しては腹立たしいんだ。それでもなお、ミミに思ってもらえるなんて、本当に羨ましい。俺がその立場だったらどれほど幸せか。なあ、ミミ。」


「はい?」


「君の想い人のことを君の言葉で話してくれないか?聞きたいんだ。」


「えっ?」



ずっと聞きたいと思っていた。

ミミがそれほど愛している存在がどんなものなのか。

でも聞くのが怖かった。

現実を叩きつけられるようで。

しかし、聞かなくてはならない。

聞いて、知らないといけない。

俺はそいつを越えなければならないのだから。

ミミは困りながらも、少しずつ語ってくれた。

ミミが出会い、愛した男の話を。

その語る表情は本当に愛らしくて、フツフツと怒りが込み上げてきた。

しかし、今はじっと我慢して、聞き続けた。

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