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キョトンとこちらを見ている目の前のミミに本物だと気づいた。
まさか、執務室にミミがいるなんて。
ミミに会いたいと、一緒に過ごしたいと願っていたから俺の願望が見せた幻想かと思った。
「なっ、なんでミミが?」
「クリスに旦那様にお茶を入れて欲しいって言われて。」
クリス、ありがとう!!
先程までなんて鬼めって思ってたが、やはり主人思いの優しい奴だ。
こんなにも仕事を置いておきながら、さっさと去っていくなんてなんと薄情な奴だと思っていたが、ミミに話に行っていたのか。
しかもミミにお茶を入れてもらえるなんて。
「旦那様?大丈夫ですか?」
「あっ、大丈夫だ。全然、大丈夫だ!!」
「ふふふ、どうやらお疲れのようですから、休憩しますか?」
「あっ、嗚呼。」
「では、お茶を入れますね。」
ミミはお茶を入れる準備をしに行っているが、その姿は慣れた様子だ。
そういえば、狼になった時に、ミミが作ってくれたリゾットもとても美味しかったな。
本当にミミはなんでもそつなくこなす。
領主としての仕事も、簡単なものだけだが、ちゃんとできていており、父上も感心したほどだ。
最初、クリスから聞いた時本当に驚いたが、後で見せてもらった資料は完璧だった。
元々、領主として継ぐかもしれないと言われていたから少し習っただけだと言っていたそうだが、本当にミミは何事も真面目に取り組む。
だからこそ、これほど完璧なのだろう。
本当に、ミミに弟ができて良かった。
そのままだったら、ミミをお嫁にすることなどできなかった。
流石に、跡取りとなる娘に契約結婚など望めるはずがない。
もし、この契約結婚がなければミミと出会うことはなかったのだ。
俺が仮初でも姫に恋をし、愚かな方法を取らなければ社交会に一切出てこないミミに出会うことなどなかったのだ。
嗚呼、今考えただけでも恐ろしい。
今更考えられないんだ。
ミミと出会わなかった時のことなんて。
ミミ以外にいないのだ。
今の俺には、ミミ以外には考えられないのだ。
「旦那様?」
「んっ?」
「準備が出来ましたよ。」
「あっ嗚呼、ありがとう。」
いい匂いがする。
にっこりと微笑むミミにお礼を言い、1口飲めば、ほっと一息つく。
「ふふ、お疲れのようですね。」
「嗚呼、溜めていた俺も悪いが、急いで帰ってきた日に持ってこなくてもと思うのだが。」
「クリスも別に意地悪で持ってきてはないとは思いますが。しかし、本当に大丈夫なのですか?」
「仕事かい?大丈夫。もう暫くの仕事は基本片付いているんだ。皇太子殿下が無茶ぶりを出さない限りは部下達だけ大丈夫なはずなのだが、あの人が無茶ぶりを出せば、流石に部下達だけでは解決できないからね。」
「えっ、皇太子殿下がそんなことを?」
「嗚呼、俺は別に皇太子殿下直属の部下ではないはずなのだが、何故かよく仕事を振られるんだ。困ったものだ。」
本当に、邪魔をするかのように、仕事を振ってくるから困ったものだ。
そりゃあ、前は少しでも姫のそばに居たいとか馬鹿馬鹿しいことを考えていたから、喜んでしていたさ。
しかし、今は少しでも早く帰りたいというのに、あの皇太子は、嬉々として仕事を持ってくるのだ。
しかも何日も遠征をしなければならないものとかもだ。
まぁ、今のところは部下たちだけでなんとかなっているが、そろそろやばそうな気がするんだよな。
隣国の噂から、近々何かを吹っかけてきそうなんだが、そうなれば、戦争も止む得なくなる。
そうなれば、騎士として行かなければならなくなるのだ。
しばらくの間。
本当に嫌だ。
面倒臭いとしか言いようがない。
それを阻止する為にも、姫にはちゃんと獣人族の国である隣国に嫁いでもらわないと。
それがきっと抑止力になるはずだから。
悪い噂があるのは、獣人族の国と、我が国とが接する国だから、この2つの結び付きが強いと感じれば、悪いことを起こそうとは出来ないはずだが。
何も無ければいいのだが。
「旦那様?考え事ですか?」
「あっ、いや、城の方の仕事がね。」
「大変なのですね。旦那様は近衛騎士なのですよね?」
「嗚呼、だから、直属の上司は陛下であり、近衛騎士団団長なのだがな。何故か皇太子殿下に扱き使われているんだ。将来、自分の下に着くからとか言ってな。」
「そうなのですね。ということは、将来には、団長に?」
「いや、団長になる気はないよ。今の隊をまとめるだけでも大変なのだから。俺は団長になど向いてないさ。」
そうは言うが、元々は団長を狙っていたさ。
そうすれば、姫の近くにもっといけると思っていたからな。
しかし、今は団長という席に、なんの魅力もない。
だから、ある程度うちの隊の者たちが育った後には、騎士を辞めて、公爵家の主人として、領主として専念しようと思っている。
ミミと共に素晴らしい領主となれるように。
今まで父上達に甘えてどれほどサボっていたかよく分かったから、これからはしっかりと父上から勉強していくつもりだ。
だからこそ、早く辞めたいのになかなか辞めさせて貰えない。
困ったものだ。




