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「エレナ、エレナ!とっても綺麗になったわ!」
「そうですね、奥様。」
嗚呼、奥様のとっても嬉しそうな笑顔は本当に癒されますね。
さっきまで、あのアホ姫の相手してストレス溜まりまくりでしたが、奥様のこの笑顔を見れば、そんなストレス無くなりました。
嗚呼、本当に奥様はこの屋敷の女神です。
「それにしても良かったわー、旦那様にうなづいて頂けて。これで、コソコソとしなくよくなったもの!」
「しかし、怪我等をせずにですよ?奥様。」
「分かっているわ!」
ルンルンで窓を拭く奥様を見ながら、周囲を警戒しているが、どうやらもう来なさそうね。
御庭番でもあるビィーが姫と護衛たちの後をついていったようだし。
ビィーは幼いながらも、本当によく出来た子よね。
奥様の傍にいさせて本当に良かった。
気配を隠すのはこの屋敷の中で1番だから。
それこそ、前に来たセッカとかいう奥様の侍女。
あの子と同じぐらいだから。
ビィーは獣人族でも珍しく爬虫類族だから、気配を消すのはとても得意なのよね。
またそれは近くに居るものも消すことが出来るっていうとっても優秀な子だから。
ビィーには暫くあのバカ姫の後を追ってもらわないとね。
まさかの屋敷までくるとは思わなかった。
しかも、護衛達を振り切ってまで。
そこまで行動力があると、思ってもいなかった。
だから、今回は行動が遅れてしまったのよ。
本当に、あのセッカ事件から屋敷の警戒レベルは上がっていたというのに。
しかし、ビィーが素早く奥様の気配を消してくれていたのは本当に良かったわ。
御庭番衆次期頭は流石だわ。
「エレナー!?」
「どうしました?奥様。」
「ビィーにお花を頼みたかったのだけども、今日はいないのかしら?」
「嗚呼、ビィーは今日おやすみですから、出掛けてるのかも知れませんね。」
「あら、そうなの?じゃあ、また今度頼まないと。応接間のお花をそろそろ変えないとね。」
「明日にはいると思いますよ。」
「そう!じゃあ、他のことをしましょうか!」
そう言って外に出ようとする奥様を慌てて追いかける。
奥様ったら日傘もなく出ていこうとするのはいけませんって言ったのに。
集中すると奥様は周りが見えなくなってしまうのよね。
日焼けをしないようにと言っても、大丈夫と言ってしまう奥様。
嗚呼、あの白い肌が焼けてしまうのは大変悲しいことだと言うのに。
追いかけて、日傘を奥様に傾ける。
するとそれに気づいた奥様が上にむき、ニコリと笑われる。
「ありがとう、エレナ。」
嗚呼、その笑顔で許してしまいます。
いえいえ、いけません。
奥様にも気をつけて頂かないと。
奥様に話をしようとした時、後ろから声を掛けられました。
この声は。
「あら?クリス?」
「こちらにいらっしゃいましたか。」
「どうしたの?何かあったのかしら?」
「いえ、特には無いのですが、少し奥様に頼みたいことが。」
「奥様に頼みたいことですか?」
クリスさんが、奥様に?
なんでしょうか、とっても嫌な予感がします。
聞いて、納得。
やっぱり予感は的中しました。
しかし、奥様が納得されているのならば、私からは何も言えません。
ええ、言えませんよ。
「おい、エレナ。」
「なんですか?」
「その目線、どうにかならないか?」
「どうにかとは?」
「睨むなと言っているんだ。」
「別に睨んでなどいませんよ。ええ、別に。」
クリスさんを睨むなんてしてませんよ。
ええ、睨んでません。
ただ、そう見えるならば、自然とそうなっているのかもしれませんね。
「奥様は嫌がっていないだろう?奥様が嫌がっているならば、言わないが。」
「えぇ、優しい奥様ですから、嫌がるなんてするはずが無いです。旦那様に、休憩のお茶を入れることを嫌がるはずがないですよね。」
クリスさんが言ってきた願い事。
それは久しぶりに領主としての仕事をしている旦那様に休憩のお茶を奥様に入れて出していただきたい。
それを聞いた奥様は快く頷いていました。
旦那様がお仕事を頑張られているならって。
ええ、ええ、優しい奥様が頷かないはずが無いんですよね。
「旦那様に今頑張って頂かないと、また仕事が溜まるんだ。」
「それはわかってますが。」
「少しのご褒美ぐらいはないと。今の旦那様にとって、奥様ほどのご褒美はないのだから。」
ええ、ええ、それはわかってますよ。
旦那様がどれほど奥様を愛しているのかはね。
でも、私達も奥様をとても愛していますから、旦那様だけが独り占めするのは許せないんですよね。
それがこの屋敷の者達の総意ですので。
なので、簡単には旦那様の思い通りにはさせませんが、今回はとりあえず頑張ってもらうためにも目を瞑りましょうかね。
奥様と共にお仕事をすることを楽しみにしていた子達が待っていましたが、今回は我慢してもらうように言ってこないといけませんね。




