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ちらりと旦那様を見れば、とても苦しい表情を浮かべているが、奥様の願いを断ることはないでしょう。
奥様がいきいきと楽しそうに動き、生きがいとしているのを旦那様が駄目とは言えないでしょう。
奥様を心の底から愛している旦那様が言えるわけないでしょう。
「うぅ、構わない。構わないよ。」
「本当ですか!良かった!!」
嗚呼、奥様の嬉しそうな笑顔。
旦那様はその笑顔を直視したことで、感極まってますね。
だから、ヘタレって言われるんですよ。
エレナに。
「しかし、怪我だけはしないでくれ。」
「はい、勿論です!」
まぁ、成長しているようですね。
口を手で覆いながらも、さらに言葉を続けられましたから。
それでも、エレナからは冷たい目線ですが。
奥様はルンルンで、エレナを連れて、次のお仕事へと向かわれてしまった。
それを旦那様は止めようとしていたが、声に出して止めることができず、奥様に気づかれることなく、虚しく伸ばされた手が残っていた。
「旦那様。」
「うぅ。」
「今日はもう職場の方には戻られないのですか?」
「あっ嗚呼。また姫が来られたら厄介だからな。陛下達への話は明日にする。」
「そうですか。」
本来なら奥様と過ごそうと考えていたようですが、あんなに楽しそうな奥様を止められるはずがありません。
旦那様から正式に許可を貰えたということで何も気兼ねなく仕事ができるということで、それこそ水を得た魚のようです。
そんな奥様を止めようものならばエレナを初めとする屋敷のもの達が黙っていないでしょう。
なんだかんだ言って、奥様と一緒にお仕事をすることを楽しみにしているようですからね。
さあって、ならば屋敷に溜まっているお仕事をして頂きましょうかね。
一応、領主ですからね。
いくら、大旦那様が今仕事をしてくださってると言えども、旦那様にも覚えていってもらわなければなりませんからね。
将来のためにも。
それこそ、これからも奥様と共にいる為にも。
「さあさあ、旦那様、行きますよ。」
「鬼か、お前たちは。」
「鬼ではございませんよ。」
なんて失礼な。
これでもとっても優しいと思いますが。
ブツブツと文句を言う旦那様を執務室に連れていき、溜まっていた仕事を次々と運んでいく。
「こっ、こんなに。」
「これでも減った方ですよ。奥様がいくつか目を通して下さったものもありますし。」
「ミミが!?」
「ええ、奥様、長女だったので、少しは領主としての仕事をお父様から教わっていたそうで、旦那様が領主としての仕事をあまり出来ていないことを知ると、少しでも減るようにと手伝って下さったんですよ。」
「そんな!!」
一応、大旦那様にはお話をしていましたが。
奥様が、大変そうな旦那様をお手伝いしたいそうでと言えば、大旦那様はとても感動していましたね。
そして、仕事っぷりに驚いていましたね。
で、本当に、女性で良かったと言ってましたね。
じゃないとこんなに優秀な方をお嫁さんにできなかったからと。
「それはつまり、俺が領主としての仕事をあまりしていなかったことを、ミミはよく知って。」
「ええ、よーっく知ってますよ。」
「なんて言うことだっ!!!」
知られたことが相当ショックだったようですが、今更ではないでしょうか?
そう思えずにはいられません。
まず、最初の出会いの時から好感度はゼロどころかマイナスなので、例え、領主の仕事をサボっていたことがバレても好感度はそれ以上下がることはありませんよ。
奥様が知った時だって、そりゃそうよねって感じでしたし。
まぁ、基本、屋敷に帰ってきてなかったのですから、いつ領主としての仕事をするんだって感じでしたからね。
言わなくても薄々分かってしまいますよね。
何より、領主としての仕事の一部でも知っている奥様ならば、よーっくわかると思いますし。
「嗚呼、これ以上、ミミに幻滅されたくなかったのに。」
だから大丈夫ですって思いましたが、口には出しません。
せっかくのこの機会、これ以上落ち込ませて、動かなくなったら大変ですからね。
さぁさぁ、どんどん仕事をこなしてもらわないと!
「はいはい、まだまだありますからね。」
「えぇ!?一応、俺、ひと仕事終えてから帰ってきたんだが!?」
「いつもは勘弁しているんですから、今日みたいな早くて特に予定ない日には頑張って頂かないと。」
「予定がないって。本当ならば、ミミと一緒に。」
「大丈夫です、奥様は嬉々として屋敷のもの達と過ごしてますから。」
そういえば、旦那様は何やらブツブツ言っているが、気にせず、私は私の仕事をしますか。




