76
姫様は、泣きながら屋敷から出て行ってしまいました。
それを旦那様は冷たい目線で眺め、姫様が護衛の方に捕まったのを確認してから、固く扉を閉めました。
「はぁー、もう、俺の仕事中に屋敷に乗り込むだなんてな。聴いた瞬間飛び出てきて正解だったな。」
「何故、あの馬鹿姫がこの屋敷に?旦那様、城の方で留めておいたのでは?」
「嗚呼、煩わしいが、ミミに会わせたくないから、必死に陛下達に言っていたのだが、どうやら何を勘違いしたか、ミミの方に直接言いに行こうとしたそうでな。」
「はぁ、何をどうしたら奥様に直接、話そうとするでしょうかね?」
「俺と別れろって言いに行くつもりだったそうだ。本当にありえない。あの糞姫が。」
旦那様とエレナ達が話しているのを、見ているが、クリスやエレナ、皆の笑顔がとっても怖い。
私、ここにいない方がいいかもしれません。
「ビィー、私、部屋に戻るわ。」
「ミミ!!!」
「奥様!そんなところにいらっしゃったのですね!!嗚呼、良かった。これ以上、奥にいかせていたら、あの馬鹿姫と会わせることになっていたかもしれません。」
みっ、見つかってしまった。
素早くエレナがやって来て、手を握られ、もう逃げることは出来ない。
はっと気づいた時には旦那様に、クリスもいました。
他の子達は仕事に戻ったようで、誰もいなくなっていました。
丁度物陰になる所で居たのでさっきまでは気づかれていなかったようですね。
それに姫様がいたので、そちらに集中していたのもあると思いますが。
「嗚呼、ミミ。俺を出迎えようとしてくれていたんだね。」
「いえ、たまたま通りかかると姫様の声が聞こえたので。」
そう言えば旦那様は落ち込んでいますが、事実ですもの。
本当にたまたまです。
「嗚呼、もう、私がそばに入れば良かったです。そうしたらあんな屑姫を見なくて良かったのに。」
「エレナ、お言葉が悪いわよ。相手は王族の方なのだから。」
「いいえ、これで当然です。奥様のことを悪く言うような人は王族だろうと屑は屑ですもの!」
「一応、エレナも時と場合は考えて行動するから大丈夫ですよ、奥様。」
クリスのフォローの言葉を聞いて安心しました。
エレナは何故かとても私を慕ってくれているからか、周りに対して厳しすぎる時があるのよね。
でも、それはちゃんと考えられてしているのよね。
良かったわ。
私の為に怒って、エレナが処罰なんてされたら嫌だもの。
「それにしても、ミミ、その服は?」
「えっ?あっ。」
嗚呼!忘れていました!
姫様が来てた衝撃で、私お仕事のお手伝いの途中だったことを。
そして、その為に動きやすいメイド服を着ていたことを。
「あっ、あのあの。」
「うちのメイド服だよね?なんで公爵夫人であるミミがそんな服を?」
「それはですね、どっかの誰かさんが奥様に対して冷たい態度を取っていらっしゃったので、気分転換にと奥様は皆の仕事を手伝っていたのです。」
「えっ?」
「えぇ、ええ、どっかの誰かさんは今でこそ早く帰ってきますが、以前は全く帰ってこず、奥様は大変寂しく過ごしておりましたので。奥様はご実家では、侍女と一緒に家事をしていたそうで、寂しさを紛らわせるためにも家事をしたいと、そう仰ったのです。私達も奥様にそんなことをさせることはできないと思いましたが!どっかの誰かさんが全く見向きもしない薄情者なので、唯一奥様が願ったことを断ることは、出来ず、奥様のお好きなようにして頂いたのです。」
「うっ!!」
「えぇ、どっかの誰かさんは最初好き勝手すればいいと仰っていましたし、奥様が望まれるならと思いまして。そのお陰で皆、奥様のことをよく知り、とても好きになり、仲良くなりましたがね。どっかの誰かさんと違ってね。」
「ううっ!!」
エレナが庇って言ってくれてるけども、話が少し違うような。
別に寂しさを紛らわせるためではなく、ただ動かないと逆にストレスが溜まるからなんだけども。
「なっなら!今はしなくても!俺が早く帰宅しているし、何よりもミミと過ごすことを優先して!」
「何、馬鹿なこと言っているのですか?今まで、奥様は私達と過ごし、仲を深めていたのです。今更出てきた新参者に奥様を癒せるわけが無いでしょう!」
「ううっ!!」
えーっとエレナがフォローで言えばいうほど、何故か旦那様が落ち込んでいるような。
逆にエレナは何故か誇らしげなのですが。
「あっあの、旦那様?」
「嗚呼、すまない!すまない!!ミミ!!俺はなんて馬鹿な事を!!」
「いっいえ、全然、大丈夫なのですが。その私、こうやって動くことが好きなので、それをやめろと言われると困ってしまうのですが。」
止まらないエレナに落ち込む旦那様を見れなくなったのか、いつの間にクリスがそばに寄ってきて、旦那様に私の素直な気持ちを伝えて欲しいと頼まれて、素直に言ってみたのだけども。
駄目かしら?
私にとって癒しの時間であるのだけども、やっぱり公爵夫人として、可笑しいからやめなさいって言われるかしら。




