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「それに、リリィ殿下は獣人族が嫌いでしょう?」
「えっ?」
「だから、隣国の獣人族に嫁ぎたくない、そうでしょう?」
「えっ、えぇ。そうよ!だから、私はあなたと結婚するって言ってるのよ!」
開き直ったような姫ははっきりとそう言いました。
それを聞いた旦那様は大声をあげて笑い始めました。
ってええ!?
なんで笑うんですか、旦那様!?
「あっ、ヤバい。」
「えっ?何がヤバいの、ビィー?」
「旦那様、ブチギレてる。」
「えっ?」
旦那様が?!
そんなまさか!
でも、様子は可笑しい。
そんな旦那様に姫様も驚いている。
驚いているというか、引いてる?
「なっ、何笑って!?」
「あー、可笑しい。獣人族が嫌いで、嫁入りしたくないからって、俺に嫁入りしようなんて本末転倒もいい所ですね。あー、馬鹿馬鹿しい。」
「馬鹿馬鹿しいですって!?」
「えぇ、とっても。」
「なっ!?」
「分からないんですか?なんで本末転倒なのかって。」
「えっ!?」
「あなたが今、求婚している相手はあなたの嫌いな獣人族だって言ってるんですよ。」
「はっ?」
「えっ!?」
だっだっ旦那様!?
旦那様今、はっきりと自分を獣人族だって言いましたよね!?
いいんですか!?
いや、良くないですよね!?
そばに居るビィーを見れば、あちゃーっと呟き、頭を抱えています。
そんな様子を見て、やっぱりヤバいんだと気づきます。
「うっうっ嘘よ!!私と結婚したくなくってそう言ってるだけよ!!」
「いいえ、嘘じゃありません。ほら。」
そう言って、旦那様が頭を指さすとそこには銀色の耳が。
ピクピクと動いて、とっても可愛らしい。
いえ、そんなことを思っている場合ではありません。
姫様を見れば、目を大きく開き、口もあんぐりと開けられて、旦那様の頭の上にある耳を見つめている。
「そっ、そんな!そんな!?」
「本来ならば、リリィ殿下、あなたも知っているはずの事ですが、あなたが獣人族を嫌っているからっとのことで、陛下達は黙っていたようです。しかし、今回、このようにしつこくされて、ほとほと困りましたので、陛下達に許可を貰ったんです。あなたに俺が獣人族であるということをバラすことを。」
「そんなそんな!」
さっきから姫様、そんなしか言えてません。
それぐらいビックリしたということでしょうが、何故、旦那様は姫様に急にバラしたんでしょう。
話を聞いていれば、王族である姫様は知っていてもおかしくないそうで、それを聞いて一安心しましたが、何故隣にいたビィーはしまったという顔をしているのでしょうか?
不思議に思ってビィーを見てれば、ビィーは面倒くさそうな顔をしながら答えてくれました。
「別に普通の王族の方ならいいんだけどさ、あの人、馬鹿姫は獣人族嫌いだから、迷惑なことを仕出かすだろうなって思って。」
「迷惑なこと?」
「うん、例えば周囲に言いふらすとかさ。」
「えっ!?それは大変なことでは!?」
「いや、別に大丈夫。なんたって、あのわがまま姫が言うことだよ?今までの猫被りだった姫なら信じるものもいただろうだけど、あの夜会で猫被りがバレた馬鹿姫の言うことを信じるやつはほとんどいないだろうし、前は恋愛ポンコツだった旦那様だけども、今の旦那様は奥様を溺愛して、しかも仕事も勤勉で好感度は上がりまくりなんだよね。しかもしかもあの場で、姫が旦那様に求婚したことをみーんな知ってるし、フラれてるのも知ってるから腹いせにアホなことしてるだろうってみんな思うだろうしね。」
嗚呼、そう言われて納得してしまう。
私も聞いたとしても信じられないだろうし。
まさか、公爵家の当主様が獣人族であるなんて、信じられないだろう。
それこそ言っている方を疑うもの。
「でっでも、もし信じた人がいれば?」
「居たとしても、まずこの屋敷に忍ぶことは絶対に無理だし、外に話すような者はこの屋敷にいないから、まず屋敷から情報を得ることは無理だし。旦那様の職場からもまず、職場で知る人はいないし、旦那様が下手なことをしない限りバレることは無いよ。」
「そう、良かったわ。」
「まぁ、それよりもあの馬鹿姫の反応すんごく面白いね。まさか自分が求婚していた相手が自分が嫌っている獣人族だって分かって、どうしたらいいのか分からなくなってるね。」
姫様は、旦那様の耳を何度も見て、腰が抜けたようで、その場に座り込んでしまっている。
それに見かねた、いや、ニヤニヤ笑いながら、手を出す旦那様。
とっても悪い顔をしてますね。
その手を姫様は思わず避けていますね。
ううん、旦那様は本来の気持ちはどうあれ、一応助け起こそうと手を出したはずなのですが。
「あれ?さっきまで結婚しろ結婚しろって言っていたのに。そうですね。今はまだ耳だけですが、体全てを銀狼化しましょうか?その体を抱きしめられるのならば少しは考えて上げてもいいですよ?」
「ひっひぃ?!いっいやよ!絶対に嫌よ!無理無理無理!!!」




