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最近、業務を部下たちに任せているとは言ってはいたけども、それでも旦那様は大事な役職に疲れているのは間違いないのに。
そんな旦那様が休んで本当に大丈夫なのかしら。
「大丈夫だよ。俺が抜けても平気なようにしているからね。」
「でっでも。」
「ほら、ミミは気にせずゆっくりして。」
そう言われましても。
旦那様がこんなに近くにいると安心して横になれる気がしないのですが。
「旦那様、少々用事があると大旦那様が。」
「なっ!?」
「旦那様、行ってください。」
「いや、しかし。」
「旦那様がお側を離れている時は私がちゃんと看病させていただきますので、大丈夫です。」
「エレナ。」
困っていればクリスが旦那様に声をかけほっとしたのだが、なかなか旦那様が動かれない。
大丈夫と言っても旦那様はなかなか頷かず、また困っていれば笑顔のエレナがいつの間にか隣に立ちグイグイと旦那様を押していた。
旦那様は何度も後ろを振り向きながらも部屋から出されてしまった。
「ふぅ、ようやく行きましたね。」
「ありがとう、エレナ。」
「いいえ。あのまま旦那様が居ればゆっくり休めませんもんね。と言ってもあの調子なら直ぐに戻ってきますでしょうし。とりあえず奥様は横になってください。」
「えっ、でも。」
「良いですから。旦那様が戻ってきたら上手く言っておきますので。」
「そう?じゃあ、宜しく頼むわね。」
「はい、おまかせを。」
エレナに任せて、瞼を閉じればすぐに眠りにつくことができた。
どうやら気づいていないだけで、やはり体は睡眠を求めていたみたい。
夢も見ず、暫く寝て、ふと起きれば、夕暮れだった。
「あら、私ったら。」
「起きたかい?ミミ?」
「えっ?旦那様?」
目が覚めて、横を見れば美しい顔。
旦那様だ。
旦那様は椅子に座り、じっとコチラを見ており横に向けば視線があった。
びっくりして起き上がれば、フラリと体が揺れる。
旦那様に支えられ、ますます旦那様と顔が近づく。
「急に起き上がると危ない。」
「あっ、ありがとうございます。」
「どう?体は?」
「えっ、あっ、大分楽になりました。」
寝ている間に熱も下がったみたいで、先程まであっただるさはなくなっており、頭もスッキリしている。
頭もスッキリして気づいたのだけど、少なからずストレスも溜まっていたのだと思うの。
今まで疲労で熱が出るなんて無かったのになーって思っていたのだ。
それこそ実家でいるときには休み暇なく家事や農業をしていたから体力には自信がある。
けど、気疲れをしていたと言えば納得できた。
今まで縁が無かった夜会などきらびやかな物に触れ、高貴な方々と、会い話は、私にとってストレスとなり溜まっていた。
それを発散するのに、私にとって家事や農業だったのだが、旦那様が帰ってくる時間が早くなったり、お義父様達がやってきたことによってする時間が無くなってしまっていた。
思う存分、無心になりながら掃除がしたい、土を耕したい、洗濯をしたいと無意識ながら思っていた。
けどできない現実。
ストレスは溜まるが発散出来ずに日々が過ぎ、倒れてしまったようだ。
「なら、良かった。」
「ご心配をお掛けしました。」
「いいや、大丈夫。」
旦那様に笑顔で頭を撫でられる。
その手がとっても優しくて安心してしまう。
旦那様とまさかこんなに穏やかな時間を過ごすことができるなんて。
出逢った当初はこんな時間を過ごせるなんて思いもしませんでした。
ただただ旦那様とは距離を置いて過ごしていくものだと。
何が起こるか分かりませんね。
「ミミ。」
「あっはい?」
「無理はしないでくれ。」
「えっ?」
「君が倒れた時、本当に心臓が止まるかと思った。君を失うと思って本当に怖くなったんだ。ただの風邪だと言われても君が目を覚まさない限り不安で仕方がなかった。」
「旦那様。」
「お願いだから、無理だけはしないでくれ。」
穏やかに時間に物思いにふけていれば、旦那様に頬を手で触れられ、じっと見られいた。
その目がとっても真剣でビックリした。
でも、言葉を聞いて、本当に心配を掛けてしまったのだと思い申し訳なく思った。
そりゃそうですよね、急に目の前で倒れたのだから。
でも。
「無理なんてしてませんよ。旦那様。」
「いや、だが!今回の夜会だって、姫が。」
「あら、それは全く気にしてませんよ。姫の事は旦那様がお話して下さったし、私は特にですし。」
「そっそうか。」
「ええ。」
「少しは気にして欲しかったが。」
「旦那様、何か?」
「いっいや、なんでもないよ。」




