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昨日は、色々なことがありました。
姫が旦那様に結婚を申し込んだり、それを旦那様が断ったり、その後何故か私が旦那様の初恋の相手だとか。
うーん、これに関しては旦那様の勘違いではないかと思うんです。
確かにお祖母様に連れられて、高貴な方達とお会いすることが何度かありましたが、まさかその中に陛下がいらっしゃったとは思えないんですよね。
流石に陛下だったら私も覚えているとは思うんですが。
「どうなさいましたか?奥様。」
「あっ、エレナ。いえ、ね。旦那様が昔会っていた方は陛下だと仰るのだけども、流石にそれだったら覚えていると思うのよね。」
いくら幼かったとはいえね。
お祖母様なんて坊や坊やと言っていたし。
そういえば、お祖母様、今はどこにいらっしゃるのかしら?
私を色々な場所に連れていってくれた後、旅にでるからと言って、時折帰ってくださるけども、なかなかお会い出来ないのよね。
旦那様ともお会いしてないし。
「昨日、陛下を見たのでは?」
「えぇ、近くでも見たのだけども、あまりにも他のことに衝撃が強すぎてよく覚えていないの。」
それに、私の記憶の中のジム様って、お祖母様のことをお姉様お姉様と呼んでとても慕っていましたし。
確かにお祖母様は弓の腕は大変凄く、それこそ、お祖母様がお若い時に大きな戦争があったそうで、その時、お祖母様は貴族の令嬢でありながら弓を片手に戦場駆け回り、弓で多くの敵を葬ったそうです。
これはお祖父様からお聞きしたことです。
故に色々な方がお祖母様を求めたそうですが、それを全て断り、その当時幼なじみだったお祖父様と婚約されておりそのまま結婚されたとか。
しかし、色々な所にお祖母様の力を求める声があるので、お祖母様はその声に答えて、旅をしているとか。
それをお祖父様は誇りに思っており、とっても素敵な奥さんだと言ってました。
お父様も、そんなお祖母様のことを憧れていると言ってました。
「ジム様って愛称が同じだけなのよね。確かにジム坊やって呼んでたし、私もジム様って呼んでたからジムってのは、合ってるはずなんだけども。」
記憶の中のジム様って、本当にお祖母様のことを慕っていてそれこそ犬のように尻尾を振っているかのようだったのよね。
そのジム様と、昨日の陛下が同じには見えないというか、いえ、慌てていた顔は少し似ていたかしら?
うーん、6年も前のことだからよく覚えていないわ。
会ったのもその時以来だし。
何故かお祖母様が怒って、終わったのよね。
なんでだったのかしら?
「確かにジムって愛称の方はこの国では陛下ぐらいだと思いますが、知られていない方もいらっしゃるかと思いますし。」
「そうよね。陛下のはずがないわよね。」
そうよね、そうよ。
だから、きっと旦那様の勘違いよね。
陛下なわけないわよね。
お祖母様がどれだけ凄い方だったとしても、陛下に対してジム坊やって呼んだり、敬語じゃなかったりするはずないわよね。
だって、うちは貧乏貴族ですし。
そんな、ねぇ。
「奥様、奥様。」
「ん?どうしたの?」
私の中で納得していると、エレナが焦ったように声を掛けてきた。
あら、どうしたのかしら?
見れば、いつの間にやらエレナだけじゃなくて何人かのメイドさん達がいる。
あらあら?どうしたのかしら?
「旦那様がどうやらここにやってきたようですが、今はまだ準備中だと言って返したのですが、どうやら待っているとのことで。」
「あら、旦那様は今日もお仕事では?」
「はい、そのはずです。しかし、最近は仕事を部下に任したとかで、余裕があるそうで。」
あ、そういえばそんなこと仰っていたわ。
と言っていても、行かなければならない時間はきまっているはずよね。
「あの馬鹿、ゲフンゲフン、旦那様は何を言ってもきっと聞かないので、申し訳ないですが奥様。」
「えぇ、早く準備をしないとね。」
なるほど、だから皆が居たのね。
さっさと、準備しないとね!
メイドさん達が全力を出してくれて、いつもよりも、早く準備ができた。
しかし、旦那様はいったい?
「おはようございます。旦那様。」
「ミミっ!!」
んん!?なんか旦那様がとっても笑顔が眩しいんですが?
それに驚いていたら、抱きしめられていました。
何故?
「あっあの、旦那様?」
「昨日はすまなかった。」
「へっ?」
「暴走してしまって、君を困らせてしまった。」
「あっ、嗚呼。いえ、大丈夫ですよ。」
旦那様が暴走すること最近もよくありましたし。
今回みたいな暴走は初めてでしたが、姫を愛していた時も何度かありましたし、最近も何回かありましたもの。
スーニャ様との喧嘩とか。
なんで、今更というか、なんというか。
今回みたいなのは初めてで多少はびっくりしましたし、何より、もしかしたら昔会ったのが陛下だったらと思って固まってしまったのです。




