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夜会は姫の婚約発表というめでたいものだったはずなのに、波乱のまま終わってしまった。

陛下はリリィ殿下を連れていった後、戻ってきましたがその後は何も姫については言わず、ただ隣国の陛下がやってきた時にはまた夜会を開催するから是非とも参加して欲しいと言っていた。

これはつまり、リリィ殿下の婚約は進められるということ。

それに気づいた時、チラリと旦那様を見たけども、旦那様はやっぱり普段通りだった。



「あの、旦那様?」


「んっ?何?ミミ。」



帰りの馬車の中、先程から気になっていたことを聞いてもいいのか、とても悩んだ。

でも、先程の旦那様の様子から何かあったのではと感じて仕方がないのです。

だって、たとえかつて愛していたはずの姫をあれほどの冷たい目線を向けるだなんて。

姫を思う為だけに私と結婚したというのに。



「あの、先程のことですが。」


「嗚呼、あの馬鹿な言葉か。ミミはなにも気にしなくていい。絶対に離婚なんてしないから。」


「ですが、旦那様。旦那様は元々姫を愛していらっしゃったでしょう?今回のことはチャンスではないのですか?」


「チャンス、だって?」


「えぇ、姫は旦那様との結婚を望まれています。まぁ、あの様子ではと思いますが、しかし結婚して一緒に過ごしていくうちに愛が生まれるのではないでしょうか?」



そう言い終えた途端、前に座っていたはずの旦那様が横にいて、抱きしめられてしまいました。

えっと、なんで?



「ミミ、それ以上言わないでくれ。俺は君と別れるつもりは一切ない。君が別れたいと言っても別れてあげることができないくらい君を愛している。」


「だっ旦那様!?」


「始まりが始まりだったから、信じてくれないのも仕方がない。ゆっくりと分かってもらおうと思っていた。しかし、それでも、その言葉は聞きたくない。愛している君から。」


「えっと、あの。」


「それに姫への愛は本当に幻なんだ。」



幻?

そう言えば、リリィ殿下に対しても幻とか、なんとか言ってましたね。

しかし、幻っていったい何です?



「ミミに言ったことがなかったね。姫を愛することになったきっかけを。」


「きっかけ、ですか?」



そう言えば、旦那様が姫を好きになったきっかけを知りませんでした。

姫がどれほど素晴らしいかなどは結婚する前に沢山話されてましたけども。



「嗚呼。俺が、姫を好きになったのは数年前だ。あの時、俺は陛下の公務室の前をたまたま通りががったんだ。殿下に呼ばれていてね。殿下と俺は幼なじみで度々呼ばれることがあった。本当にたまたま通りががった時、陛下のとても楽しそうな声が聞こえて、思わず立ち止まったんだ。陛下がこれほど楽しそうに話すのを初めて聞いたからね。」


「初めてですか?」


「嗚呼。幼い時からお会いしたことはあったが、あまり表情豊かな方ではないし、どちらかと言えば寡黙な方だからね。だからこそ驚いたんだ。思わずだけどね。それで、聞こけえきた声がとても可愛らしい少女の声でね。陛下とこんなに楽しげに話せるのは姫だろうって思って納得していたら、その時の姫がこう言っていたんだ。『私は獣人族の方と結婚したいぐらい大好きなんです。だから恐ろしいだなんて思いませんわ。』ってね。」


「えっ?」



陛下の公務室でその言葉を聞いたから?

それがきっかけなんですか?

いえ、たった一言から恋が始まることはありますよね。

しかし、あれほど熱意をもっていらっしゃったから、もっと運命的なことがあったのかって、勝手に想像してしまっていたのです。



「その時には姿が見えなかったが、その、言葉を聞いた時、本当に心が救われたんだ。」


「えっ?」


「それまで、俺は獣人族だからこそ、自由にならないことが多かった。だから、自分が獣人族でなければと何度も思っていたんだ。でも、その言葉を聞いた時、嗚呼、獣人族でもこんなにも言ってくださるかたがいるんだと救われたんだ。獣人族であることを妬ましく思わなくていいんだって、その時はそう思えたんだ。まぁ、その後結局、自分が獣人族だからこそ姫とは婚約ができないという事実にさらに獣人族であることを憎らしく思えてしまったが。」


「そうなんですね。」



嗚呼、私としたことが。

勝手に想像して、勝手に落胆するなんて。

旦那様にとってどれほど素晴らしい瞬間だったのか。

嗚呼、もう。

私だって、他人から聞けばそれぐらいのことでと思われることかもしれないのに。

金さんとの出会いは。

でも、私にとって、本当に奇跡のような事だったのです。

あの出来事から、一生を捧げてもいいと思えるほどでしたもの。

誰かにとってはたったそれだけのことが、本人にとっては、なによりもかけがえの無いものになる。

しかし、この言葉、何か聞き覚えがあるような。

どこかで聞いたことがある気がするような。

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