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スーニャと仲良くなったと。
あのスーニャと。
「それは、まぁ、なんていうか、スーニャにとってはいいこと、だな?」
「えぇ、まぁ、今までまともに女性とは友達となることもなかったので。」
「スーニャが規格外すぎるんだがな。」
「えぇ、我が妹ながら、優秀すぎるんでよね。本当に男だったら、多分家を継いだのは俺ではなく、スーニャでしたでしょうね。」
「しかし、スーニャがそれほど大事にしている夫人と仲良くしてるのをローエンはよく思わないんでじゃないか?アイツらは、犬猿の仲だろう?」
「えぇ、だからもう、嫌味の言い合いでしたよ。夜会でも。」
嗚呼、その様子が直ぐ頭に浮かぶ。
今までも、何度もぶつかっていた2人だ。
それこそローエンが我が妹に片思いをしてから、更に毛嫌いしたスーニャが会うことをそれまで以上に嫌がったから最近はなかったが。
しかし、ローエンが本当に夫人を溺愛しているなら、スーニャと夫人が仲良くなることはあまりよろしくないだろうな。
しかし、スーニャのことを考えると初めての女友達だから、それも溺愛するほどなら、離すこともできないし、なによりも夫人がスーニャと仲良くなったことを喜んでいるならな。
まぁ、私が考えてどうとなることでもないので、なるようにしかないな。
「しかし、それほどならば、やはり、是非とも見てみたいものだ、ローエンの奥さんを。」
「えっ、殿下。会えますよ。近々。」
「ん?」
「婚約発表の夜会が近々あるじゃないですか。姫の。」
「あっ、嗚呼。そうだった。」
ローエンのことが驚きすぎて忘れていた。
そうだ、そうだ。
ローエンがどれほど嫌がろうと、今度の夜会には夫人を連れてこなければならないな。
王族の婚約発表の場だからな。
その時にじっくりと夫人を見ることが出来るな。
そう思って、楽しみにしていたのに。
まさかまさか、あの馬鹿があのようなことをするなど。
驚きのあまり1度固まり、気がつけばローエンがそれはそれは冷たい目線を愚妹に向けていたところだった。
愚妹は父上に預け、私は皇太子として、客人達である者共に、声をかけなければならない。
まぁ、直ぐに父上も戻ってくることだろう。
後を追うように母上も行ったようだし。
少しの時間を稼げばよい。
とりあえず、愚妹がやったことの後仕舞いをしなければ。
「ローエン。」
嗚呼、声を掛けて、本当に驚いた。
コイツ、本当に我が妹を殺す気だったな。
いや、流石に本当にはしないだろうが、これ以上妹が馬鹿を言えばそれこそ、夫人を攫うように連れ帰り、きっとこの国から亡命していただろうな。
それほどまで怒っている。
本当に夫人のことを愛しているのがよく分かる。
しかし、確かについこの間までは、妹のことを愛していたはずだ。
そうでなければ、しなくてもいい仕事をわざわざしにこないだろう。
それこそ最近は、今までさせていなかった仕事を他の者に回し、すぐさま帰宅するのだ。
多分、その辺なのだろう。
本当に夫人を溺愛し始めたのが。
しかし、何がコイツを変えたのか。
それを疑問に思い、夫人を見るが、確かに美しい人だが、だからといってローエンが絆されるとは思わない。
どんなに美人が言いよっても全く靡かなかった男だからな。
だから、何故?
しかし、その疑問はローエン自身が教えてくれた。
「別に、バレても構いません。」
「えっ、もしかしてお前。」
「えぇ、俺の愛しい妻は何も変わりませんから。」
「はっ?もしかして、ローエン!」
「えぇ、我が妻は全て知ってますよ。全て知っていて、受け止めてくれています。」
そう言うローエンはそれはそれは幸せそうに微笑んでいた。
そうか、そういう事か。
ローエンにとっての本当に理想の女性ということか。
ローエンが獣人、銀狼族であることを知っても、変わらずにいてくれた女性なのか。
だから、これ程、溺愛しているのか。
「なるほど、お前が求めていたものと言うわけか。それを夫人がようやく埋めてくださるというわけか。」
「えぇ、そういう事です。」
「そりゃあ、紛い物には一切振り向かないという訳だ。」
「もちろんです。ですから、殿下は勿論、陛下にも重々理解頂かないと。ミミは私の両親も大のお気に入りですからね。ミミに何かあれば、私は勿論、両親、いえ、あの屋敷全てが敵になると思っていただいて構いませんので。」
「あの屋敷全てだと!?」
「えぇ、うちの奥さんはそれはそれは、屋敷の皆に慕われています。それこそ私以上に。」
「なんと、それほどとは。」
あの屋敷の者全てだと。
さきほどの様子から前ウィルド公爵達も夫人を溺愛していたし、あの屋敷までとは。
あの屋敷の使用人たちだけで、一国の兵力と同等の力をもつと言われるほど優秀な者たちの集まりだと言うのに。
これは、やばいな。
ウィルド公爵夫人を敵に回してはいけないということだ。




