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つらつらとそう言う旦那様に私は勿論、周囲の人も目を大きく開いて見ている。
いえ、お義父様達はにこにこと満足そうに笑っていたけども。
でも、まさか、姫への思いをまやかしとまで言うなんて。
旦那様の姫への思いは社交界で有名中の有名で、知らぬ人がいないぐらいだったのに。
それぐらいだった思いをさらっとまやかしだといっている。
姫を思う為に私と契約結婚までしたのに。
なのに、なのに、今、願っていた場面なはずなのに、それをばっさりと切っている。
これは本当に旦那様なの?
「私への想いがまやかし?」
「はい、まやかしでしかなかったことをミシェルと会い知ったのです。」
「そんな、そんな馬鹿な。」
「いいえ、真実です。ミシェルは私にとっての真実で、愛すべき女性なのです。たとえリリィ殿下と言えどもその想いを邪魔する気ならば、私にも考えがあります。」
そう言う旦那様からとっても強い殺気が。
えっえっ、旦那様?
相手は姫ですよ???
その殺気に姫は顔を真っ青にしているし、その周りにいるお嬢さん方の中には気絶している方もいます。
「だっ、旦那様!!おっ落ち着いてください!」
「ミミ。」
「そうだよ、ローエン。愚かな我が妹のことを許せとは言わないが、1度落ち着いてはくれないかい?」
「殿下。」
「父上、今のうちに我が愚妹を別の場所へ。愚妹は急な婚約に今、正気ではないらしいから。」
「あっ、嗚呼。」
なんとかしないとと思い旦那様に声をかけると、殺気は収まりルーベン殿下が来たことで、さらに旦那様は落ち着いたようです。
ルーベン殿下は旦那様には笑顔を向けているが、真っ青な顔をしているリリィ殿下に顔を向ける時は冷たい目をしている。
しかも、リリィ殿下のことを愚妹と呼んでいるし、仲が悪いのでしょうか?
「あっ、リリィ殿下。」
「どうした?ローエン。」
「いえ、改めまして、ご婚約おめでとうございます。」
「えっ?」
「今は混乱されており、獣人族を嫌だの言っておりますが、きっと、お優しい姫のことです。混乱が落ち着けば、この婚約がどれほどのものかお分かりになりますでしょう。獣人族が嫌など、混乱が招いた狂言で本心ではないでしょう。もし、本心ならば、私と結婚など1番ありえないでしょうし。」
「ローエン!!」
「嗚呼、すみません。ルーベン殿下、混乱していたとはいえ、私の妻への暴言、また私の妻への思いをバカにされましたので、少々頭に血が昇りました。失言申し訳ありません。」
「いや、こちらこそすまない。さっ、父上、早く愚妹を連れていってください。」
「あっ嗚呼。」
「皆も騒ぎ立ててすまない。どうか、気にせずこの会を楽しんでいってくれ。」
ルーベン殿下がそう言うと周囲はサッと散ってしまった。
残ったのは私達だけ。
ルーベン殿下はため息をつきながらも、この場を離れようとはしない。
旦那様はそんなルーベン殿下を見ずに、じっと私を見ているのですが、一体わたしはどうしたらいいのでしょうか??
「ローエン、そんなに夫人を見続けるな。誰も夫人をお前から取り上げたりしないから。」
「ええ、もちろんです。もし、そんなやつが居れば、八つ裂きにしてやるところです。文字通りに。」
「だから、やめろ。お前は。怒りすぎて注意が散漫になっているぞ。」
「別に、バレても構いません。」
「えっ、もしかしてお前。」
「えぇ、俺の愛しい妻は何も変わりませんから。」
「はっ?もしかして、ローエン!」
「えぇ、我が妻は全て知ってますよ。全て知っていて、受け止めてくれています。」
ルーベン殿下と旦那様の会話がよくわからず頭の中にハテナが浮かんでいましたが、どうやら旦那様が獣人族であることを言っているようでした。
そう言えば、秘密にしておかないといけないはずでは?
私が知っているとバレて大丈夫なのでしょうか??
怖々と旦那様達の話を聞いていると、ルーベン殿下が大きなため息をつき、頭を抱えてしまいました。
「なるほど、お前が求めていたものと言うわけか。それを夫人がようやく埋めてくださるというわけか。」
「えぇ、そういう事です。」
「そりゃあ、紛い物には一切振り向かないという訳だ。」
「もちろんです。ですから、殿下は勿論、陛下にも重々理解頂かないと。ミミは私の両親も大のお気に入りですからね。ミミに何かあれば、私は勿論、両親、いえ、あの屋敷全てが敵になると思っていただいて構いませんので。」
「あの屋敷全てだと!?」
「えぇ、うちの奥さんはそれはそれは、屋敷の皆に慕われています。それこそ私以上に。」
「なんと、それほどとは。」
ルーベン殿下は先程まで頭を抱えていたのに、話を聞いているうちにとっても笑顔になってます。
でも、その笑顔になっている話がは先程から、私の事のような。
いえ、自意識過剰ですよね。




