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「そんな奥様が唯一こんなに求められたことです!それを無下にするなんて私はできません!!」
「エレナ。」
「奥様の日焼け対策等は私共がしっかり対応しますので!なので、奥様に畑仕事をさせてあげてください!!!」
あれ?
もしかして、私、かなり健気な奥様風にされてますか?
あれれ?
好き勝手にしてるのですが。
気のせいでしょうか?
「分かりました。奥様の畑仕事を認めましょう。しかし、旦那様には内密で。」
「分かっております。私達が言わなければきっと旦那様は気づかないでしょうし。」
「奥様。あくまでも趣味の程度でなら許します。勿論、ムェじぃさんがしている本格的なものはいけません。」
いいんですか?!
畑仕事していいんですか!?
「奥様、約束して頂けますね?」
「はいっ!!約束します!」
わーい!やったやった!
畑仕事が出来ます!
私のトマトちゃんのお世話ができます!
お水の量に肥料の量にタイミング。
全てを完璧にしないと美味しくならないあのわがままお姫様をちゃーんとお世話できますっ!
ふふふ、美味しくしてあげますからね!
「はぁ、でも良かったです。奥様がこうやって笑顔を浮かべていだけて。」
「へっ?」
「奥様、こちらに来てからずーっと苦笑いばかりで。この契約結婚をとても後悔されていらっしゃるのかと思っておりました。」
えぇー?!
そんなこと全然。
寧ろすんごく快適に暮らしていましたが?
苦笑いなのは今までの生活とあまりにも違いすぎてですね。
豪華な物に対して本当に耐性がなく、思わず苦笑が出るんです。
「後悔なんてするはずがありません。旦那様、いえ、公爵様には感謝するばかりで。困り果てていた我が家を助けて頂けて本当に感謝しかありません。」
「そんな。でも、それでご自分が犠牲に!」
「犠牲だなんて。あのままで居れば、私はどこかの貴族様の元に後妻としてしかお嫁にいくしかなかったですし。寧ろ、今の生活は恵まれすぎているぐらいです。」
「奥様。」
「だって、道具としてしかお嫁にいけなかったはずなのにこんなに自由にさせてもらって。」
「道具というなら今だって!!」
「いいえ、いいえ。全然そんなことはないです。だってきっとあのままいけば女として道具としてしか生きられなかったはずが、それもしなくていいだなんて。」
「それは・・・。でも、奥様は旦那様にずっと愛されずに過ごすのでいいのですか?女として愛されずに。」
「え?はい。寧ろしなくていいと言われたとき喜ばしく思ったぐらいですから。」
えぇ。本当に。
旦那様が愛している人が居るって聞いてとても安堵したものですから。
「一生愛されないって言われてですか!?」
クリスさんが驚いたように聞く。
その言葉を聞いてエレナさんは信じられないような表情を浮かべ、その後憎々しげにクリスさんを見ました。
今にも胸ぐらを摑みそうな勢いです。
「そんなことを奥様に言ったのですか!?」
「えっえぇ・・・。」
「最低ですわ!!面と向かってそんなことを!!あり得ません!!」
「エ、エレナさん?」
「こんなに愛らしい奥様に対して、そんなことを!!ほぉ・・・?本当に愛さずにいれるんでしょうね?そう、そうですか・・・。ふふふ、ふふふふふ。」
怖いです。
エレナさんが怖いです。
ブツブツと何か呟かれていますが、半分以上聞き取れません。
「ならば、私は一切旦那様が奥様に触れないように見張って差し上げましょう。えぇ・・・えぇ・・・。触れた瞬間私の爪の餌食にして差し上げましょう。えぇ・・・えぇ。」
「ゴホンッ。エレナに付いて置いといて。しかし、奥様。私が言うのも何ですが、よくあんな風に言う旦那様と結婚されましたね。」
「えっ?いえ、逆に私は望んで結婚しましたよ?」
「「え?」」
「だって、旦那様に思い人がいるってことは私もあの方を思って居てもいいってことですし。」
「「ええ??」」
「あっ。」
思わずこぼれてしまった本音。
あちゃ、言うつもりはなかったんですが。
「どういうことですか!?奥様!!好いた人が居るんですか!?」
「エレナさん、落ち着いて!!」
「落ち着けません!!奥様に思い人が!!」
「あのあの、居ますけど。でもでも、幼い時に一度だけ会った、しかも獣人族な方で。もうお会いすることも出来ない方ですし。」
そういえば2人は目を見開いて止まってしまった。
あ、言ってはいけないことだったでしょうか?
「・・・奥様、獣人族なんですか?その思い人は?」
「えっえぇ。そうです。クリスさん。」
「奥様は獣人族の方を好きになれたんですか・・・?」
「えっ、えぇ。そうです。」
あっ、あぁ。そうか。
私の思い人が獣人族の方だから驚いているのか。
この国ではあまり獣人族はよく思われていないのが普通だから。
獣人族。
私たちとは違って獣のような耳やしっぽなどが生え、力も獣のように強い人々。
この国の隣国に獣人族の国がある。
そのため、多くはないが、時折獣人の方がやってきたりするが、あまり良く思わない人が多く居る。
差別する人もいる。
人よりも力が強く、獣のような姿に嫌悪する人もいるそうで。
一応隣国であるから、交流はあるそうだが。
そんなに頻繁ではないらしい。
それがこの国での獣人族の方への一般的な知識で考え方だ。
だから、私の思い人が獣人族で驚かれたのか。
あ・・・もしかしてこれってまた伯爵家にふさわしくないって言われちゃうかもしれない。
「奥様は獣人族を汚らわしいとか思わないんですか?」
「ええ!!そんなことありません!!!そんなこと思うわけがありません!獣人族の方は、いえあの方は強くて立派に私を守ってくださった!私の命の恩人です!そんな方の一族をそんな風に思えません!!」
「お、奥様。」
思わず声を荒げてしまった。
でも、仕方がない。
だって彼は私の恩人。
恩人を汚らわしいなんて思えない。
私の命の恩人。
私の勇者様。