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困ったように笑うミミの可愛いこと。
本当に天使のようだと思える。
あの日、たまたま人型に戻ってしまった時は焦ってしまったが、それでも素直にミミに好意を伝えて良かった。
本当はもっとロマンティックに伝えたかったが、そんなことを気にしている暇もなかった。
ミミに素直に伝えたことで、全面的にこうやって態度で示すことが出来る。
それがどれほど幸せなことか。
ミミを抱きしめて感じるミミの体温に癒される。
クリスやエレナが冷たい目で見ていることは分かるが、ミミ自体が許したと言えば、止めることは無い。
本当にミミと離れる仕事が辛い。
今までは喜んで行っていた仕事場だが、ミミと離れることになる今の現状はただ、ただ、辛いだけだ。
今日だって、副団長であるルーファスに愚痴っていたほどだ。
「ミミに会いたい。ミミを抱きしめたい。」
「はいはい。分かってるって。」
「お前に何がわかる?あれほど可愛らしく愛らしいミミだぞ。見ていない間に、誰かに攫われたらしたら。」
「いや、それはありえないだろう。あの公爵家だぞ?下手したらこの城よりも厳重なセキュリティな癖して、どんな野郎が奥様を攫うことができるんだよ。」
確かに、ウチはどの場所よりもセキュリティ万全だ。
なんたって、優秀な獣人族ばかりの屋敷だからな。
ただの人よりも警戒心が強く、他を決して寄せ付けないから、セキュリティはどの場所よりも厳重であり、アイツらが誰よりも慕い守りたいと思っているのがミミだ。
あの屋敷の中でミミを攫おうなどしようものなら、塵となり消えるだろう。
文字通りにな。
本当に気がつけばミミはあの屋敷のどのものにも慕われ愛されていた。
俺が気がついた時には、ミミはあの屋敷の何よりも厳重に扱われているのがよく分かる。
基本警戒心が強いあのもの達が心底気を許し、愛し、慕い、そして守っている。
それがミミだ。
「それにしても、本当に奥様に対して重すぎるほど愛しているな。」
「当たり前だろう?あれほど運命的な出会いをしたのだから。」
「そうは聞いてはいたが、ついこの間までのお前はその話が嘘だと思えるほどだったぞ?仕事ばかりでまともに屋敷にも帰っていなかったからな。」
「それは。」
姫を愛していると思っていたからだ。
始まりは姫を思い続けたいからこその契約結婚。
一応周囲にはそう思われないように、デタラメな話を流していたが、さすがに仕事仲間には疑われていたし、常に傍にいる副団長であるルーファスには嘘だとバレていたと思う。
だからこそ、今の俺を見て、呆れてはいるが、安心もしているようだった。
「まぁ、お前が幸せそうで良かったけどな。」
「ルーファス。」
「姫に対してのお前の愛はどこか不安定だったけども、今の奥様に対しての愛は、しっかりとしているような気がする。」
「どういう意味だ?」
「あー、なんていうんだ、姫に対しては恋に恋してるって感じか?姫に対して幻想で恋してる感じでどこか、危うかったんだが、今のお前はしっかりしている。奥様を心から愛して、幸せにしたいって思ってるんだろう?」
「嗚呼、勿論だ。」
流石はルーファス。
そうだ、俺は姫を愛していた訳ではなかった。
結局、俺は俺の勝手に作りあげた幻想を作り上げて思っていただけ。
姫に対して彼女なら俺自身を見てもらえる。
獣人族だからだと偏見で見られることは無い。
そう思っていただけ。
結局は幻想でしかなかったが。
それでも、姫を愛していたと思っていたからこそ出会えた。
皮肉にもそのおかげでだ。
俺の愛おしい妻、ミミ。
『何を怖がることがあるのでしょうか?』
獣人族だとバレても変わらない女性。
優しく微笑み、屋敷のもの達を愛してくれる女神のような女性。
幻想に溺れた俺を救い出してくれた俺の女神。
知ってはいるさ、ミミは俺を愛してはいないこと。
それでも家族として、いや、友人としては寄り添ってくれていること。
それがどれほど幸せなのか。
願うならば、俺を、俺自身を愛して欲しい。
その為ならばどんなことでもしよう。
だって、俺達は夫婦なのだから。
始まりはあのようなものでも、これから長い間一緒にいるのだ。
いつかは俺の愛してくれるかもしれない。
例え、金の狼が忘れられなくとも。
いつかは、金ではなく銀を愛してくれる。
そうなるように俺は、ミミに、ミシェルに愛を伝えていく。
後悔をしたくないから。
「いい顔してるよ。お前。」
「はっ?」
「そりゃあ、独り身の俺にはお前のその顔は突き刺さるものもあるけどさ。それでも、長い付き合いのあるお前が、我らが隊長様が幸せなのは喜ばしいことだからな。」
「ルーファス。」
「逃がすなよ、そんなに愛している奥様を。」
「勿論だ。逃がすつもりは、一切ない。」
「ヒュー、こえこえー。奥様も大変だなぁ。」




