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目移りしていると旦那様が傍に寄ってくる。
「ミミはパンが好きかい?」
「はい、あっ、でも御屋敷の料理も好きですよ?」
御屋敷で出される料理は、どれだって美味しい。
ただ実家で食べていた料理とは違ってどれも豪華だけど。
家ではパンを作って焼いてたし、っといっても簡単なパンだけど、それに、野菜のスープとかだったから。
それはそれで美味しいのだけどね。
時折、町に行ってパン屋さんのパンも買っていた。
お嬢様は美味しそうに食べるからとっても嬉しいって女将さんが言ってくれていたっけ。
でも、本当に美味しいからこそなんだけど。
でもそんなに頻繁に買うことは出来なくて、結局結婚する前に挨拶にも行けなかったなー。
女将さんに、ご主人元気かなー?
「さて、ミミ、どれにする?」
「あっ、そうですね。」
ふと実家のことを思い出していたからハッとした。
そうだ、そうだ、選ばないと。
んー、そうだなー。
あっ、あれ。
「これ、これにします!!!」
「これかい?」
「はいっ!」
指さしたのはライ麦パン。
実家のことを思い出して、あのパン屋でよく女将さんがおまけしてくれたライ麦パンを思い出して食べたくなっちゃった。
そのまま食べてもいいけど、よく、野菜スープに付けて食べたっけ。
「じゃあ、これと、俺はこれと、これで。」
「あっ。」
あれ?
旦那様が選んだパン、さっき私が見ていたパンばかりだわ。
ふふふ、旦那様も、気になったのかしら?
とっても美味しそうだものね。
沢山買いたくなっちゃうわ。
って、あら。
「旦那様!?お金!」
「ん?大丈夫、もう払い終わったよ。さぁ、行こう。」
「えっ、あの、私の分が。」
「ミミの分は、これだね。どうぞ。」
「あっ、はい。って、違って、あの、お金を。」
「ん?俺たちは夫婦だ。可愛いお嫁さんにお金を払わせるわけがないだろ?」
「えっと。」
もしかして、エレナがお金のことは気にしなくていいって言ってたのはこの事が分かってたから?
いや、でも、私と旦那様は契約結婚で、あっ、でも、契約の時に衣食住は保証してくれるってあったし。
これもそのうちに入るのかしら?
んん、どうなのかしら。
考えているうちに旦那様に腕を引かれてお店を出てしまう。
そして目の前にライ麦パンが出されるので思わず受け取る。
「ほら、温かいうちに食べるといい。」
「わっ、本当ですね。」
まだほんのりと温かい。
いい匂いに思わず1口食べれば、パリッといい音。
ライ麦のいい匂いがして、噛めばほんのり甘い。
「美味しいっ!」
「そっか。それは良かった。」
「あっ、すみません。先に食べてしまいました。」
「そんなこと気にしなくていいさ。それにしてもミミは本当に美味しそうに食べる。」
「えっ?」
「屋敷での食事もどれも美味しそうに食べているから、見ていてとても気持ちがいい。」
「そっそうですか?」
それは本当に料理が美味しからそうなるだけで。
というか、いつも見られていたのですか?
えっ、えっ、最近はお話をしてますから、見られているかもしれませんが、そんな風に見られていたなんて。
うぅ、恥ずかしい。
「ほら、ミミ、これ。」
「へっ?」
「あーん。」
「んぬっ??」
旦那様から声を掛けられて見れば口の中に甘くて香ばしい味が広がる。
これはクロワッサン!
「ミミ、これが食べたかったんだろう?」
「えっ?」
「じっと見てたからね。嗚呼、それと、これも。ほら、あーん。」
「んん!?」
驚いていれば、また次口の中に放り込まれたのはサツマイモの味。
サツマイモのパンも買ってらっしゃいましたけど、まさか!
「えっ、旦那様、もしかして?」
「うん、ミミが見てたから美味しそうに見えて、思わず買ったんだよ。」
「えぇ!?」
「ミミは少食だからね、たくさんは食べれないからと選んだみたいだけど、これなら色々なのが食べられるだろ?」
「いや、でも、旦那様が食べたいものは!?」
「ん?ミミが食べたいものを食べたかったんだ。だからこれでいいんだよ。うん、このクロワッサン美味しいな。」
「ええ、とっても?」
えっと、旦那様?
それでいいのでしょうか?
いや、旦那様がいいのならいいのですが。
美味しそうに食べてるしいいのかしら?
嗚呼、でも、旦那様から貰うだけじゃあ、申し訳ないし。
「旦那様。」
「ん?」
「どうぞ、こちらも。」
「へっ?」
「どうかされましたか?」
「いや、頂くよ。」
旦那様にライ麦パンをちぎって持っていけば一瞬、驚かれたがそのまま食べてくださった。
食べたあとは満面の笑みを浮かべていますね
うん、このライ麦パンも美味しいですもんね。
「まさか、ミミからもあーんされるとは。」
「どうか、されましたか?」
「いや、さて、噂の小物店はもうすぐだ。」
「そうなんですね!」
パンを食べながら歩いていれば、小さな小物店が目に見える。
あれ?あのお店。
どこかあのお店に雰囲気が似てるような。
既視感を覚えて首を傾げていると、中から聞こえた声にビックリ!
「いらっしゃい!お嬢!」
「ええ!?なんでここにルーミックさんが居るんです!?」
「ミミ、知り合いか?」
「えっええ。でも、あの、なんでここに!?」
「はははっ!!いい反応だ、お嬢!」
大笑いするのは実家でお店をしていたお姉さんこと、ルーミックさん。
なんで、どうして、ここにいるんです!?