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「あの、旦那様。」
気難しげに眉間に皺を寄せている旦那様。
帰宅されてお話を初めてからこの表情なのですが、どうしたらいいのでしょうか。
クリスを見ても困った表情でこちらを見るだけで助けてくれそうにはない。
スーニャ様からお誘いがついたこと、そしてそのお誘いをお受けしようと話をしたのですが、旦那様は黙りです。
エレナから話を聞いて純粋に気にしてくださっていると分かったので、折角の機会ですしと思ったのですが。
旦那様にお伺いをたててもすぐに頷いてもらえるものだと思ってたのですが、なかなか反応がない。
何故でしょうか?
犬猿の仲なのはエレナの話からよく分かってますが、嫁の私が行くことは特に旦那様と関係ないと思うのですが駄目なんでしょうか?
スーニャ様からの手紙は純粋に好意が読み取れたのですが、そのことも旦那様にお伝えしたんですけどね。
「奥様が困ってらっしゃいますよ、旦那様。」
クリス!
ようやく助けてくれた!
思わずクリスを見ればクリスは苦笑を浮かべている。
「ううん。」
「ダメでしょうか、旦那様。」
「ダメではない、ダメではないのだが。」
「旦那様?」
旦那様は唸って、数秒後、ため息をつかれて私を見た。
一体なんでしょうか?
「行くのは構わない。彼女は実業家で、面白い話も沢山してくれるだろう。有意義な時間を過ごせることだろう。」
「まぁ!楽しみです!」
「うっ。」
スーニャ様は貴族女性ながらもしっかりとご自分でお仕事なされてるすごい女性ですものね!
私の知らないことを沢山知ってらっしゃる。
本当に楽しみだわ!
「何か素敵な手土産を用意しないと。エレナ。」
「はい、料理長に伝えておきましょう。」
「ミミ!」
「へっ?」
「その、だな。スーニャの所に行く前に、俺と一緒に土産を見に行かないか?」
「えっ?」
料理長に素敵な焼き菓子を用意してもらおうと思ってたのですが、まさかの旦那様からのお誘い。
旦那様と?
「あの、そのだな。あいつは、よく昔、この屋敷にも来てたから、料理長の菓子はよく食べていたから、その新しい手土産を持っていくのも良いかと思うんだ。」
「新しいですか?」
「嗚呼、あいつは新しいものとか好きだからな。」
「なるほど。」
流石は旦那様。
スーニャ様に喜んで貰うためには新しい手土産の方がいいと。
しかも旦那様とスーニャ様は幼なじみですものね、好みだって知ってるからというわけですね!
「旦那様がお嫌じゃやなければ、是非。」
「本当かい!?」
「えっ、ええ。スーニャ様に喜んでもらいたいですし。旦那様のご都合が合うのでしたら。」
「大丈夫だ!全然大丈夫だ!三日後に休みももらっているから!!なっ!クリス!?」
「えっ、あっ。」
「なぁ!?クリス!?」
「えっえぇ。」
一瞬クリスが驚いたような表情が見えましたけども、本当に旦那様、お休みだったのでしょうか?
というか、お休みなら屋敷でゆっくりされた方がとも思い伝えましたが、外に出るのも気晴らしになると仰られて、三日後に出掛けることになりました。
そう言えば、旦那様と出かけるのは夜会から2回目ですね。
ましてや街に出掛けるなんて初めてです。
「どうしましょう、エレナ。」
「何がです?奥様。」
「旦那様の出掛ける場所ってきっとお高いところよね?私、それほどお金ないのだけども。」
実家で小遣い稼ぎ程度で猟したものを売りに出したり、刺繍したものを売ったりしたもののお金を本来なら家に入れようかと思ってたのだけども、私が働いて稼いだお金だからと母に持っていきなさいと言われたお金ぐらいしか持ってないわ。
旦那様やスーニャ様の好きなお店ってきっと高いわ。
「どうしましょうどうしましょう。」
「大丈夫ですよ、奥様。お金の心配など。それにそれほど心配ならば私に策があります。」
「策?」
「はい、なので、とりあえず奥様はご心配なさることはありませんよ。」
エレナは満面の笑みを浮かべてそういうのでエレナを信じて当日を迎えたのですが。
「エレナ?」
「はい、なんでしょうか?奥様。」
「あの、あのですね。」
この服装は一体?
いつものようにエレナ達が準備して下さったものは、ドレスではなく、町娘が着るような動きやすいもの。
実家ではよく着ていたものだから私は慣れたものですが、これを着ていいのかしら?
動きやすくていいけども。
「大丈夫です、奥様。どのような格好されててもお美しいです。」
「いえ、そうじゃなくてね。」
「お気に召しませんでしたか?」
「いいえ、とっても気にいったわ。とても、可愛らしいし、動きやすいもの。」
「そうですか!それは良かった!」
いや、そうじゃなくて、えっと、これで行くの?