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「おはようございます。奥様」
「あっ、エレナ。」
「昨日は大変お疲れだったのですね。」
エレナに起こされるなんて今までなかったのに。
笑顔を浮かべているエレナはサッと部屋のカーテンを開けている。
いつもより明るい気がする。
「どれほど寝てたの?」
「いつもより1時間ほどですかね?まぁ、奥様はいつも早いので、遅いという訳ではありませんが。」
「そう。」
実家での生活が身についているから起きる時間は早く、それをエレナ達は驚いてはいたが、もう数ヶ月も一緒に過ごしているからかなれてしまっている。
逆に今日遅くて様子を見に来たぐらいだそうだ。
基本疲れていても、次の日はいつもの時間に起きられるのに。
実家では畑仕事や家事があるから朝は早く起きることが普通だったのに。
嫁入りの日だってあの時間に起きられたのに。
それほど昨日の出来事は疲れたということね。
あの後、機嫌が悪くなった旦那様を慰めて、お屋敷に帰ってきたのですが、その後もお茶をなどと言ってくる旦那様にお付き合いしてから寝る準備をしてベットに倒れるように寝たのですが。
「畑の方はちゃんとムェじい達がお世話していますからご心配なく。」
「あら、そう。」
流石は公爵家の庭師と言うか、ムェじい達はあっという間にうちの世話の難しい野菜ちゃん達のお世話を完璧にできるようになったのよね。
寂しいけども、朝の早い時間に様子を見に行くことはしていたのだけども。
エレナ達にバレてからは日があまり出ていない早朝に畑に行くことが習慣となったのよね。
でも、今日はそれも出来ないと。
「じゃあ、庭を。」
「それも、ビィ達がちゃーんとしてますので。」
「あら、そうなのね。」
どうやら朝の仕事は全て終わっているようで、どうしましょう。
しゅんとしている間にエレナ達がさっさと支度を終えてしまう。
エレナ、本当に私の扱いがうまくなっているような気がするわ。
「そういえば、旦那様は?」
「旦那様はもうお仕事の方に。奥様のことを気にしていましたが。」
「そうなの?」
「えぇ、奥様がお嫌いな夜会に連れて行って疲れさせてしまったと。」
「え?嫌いだなんて。」
嫌いではないわ。
ただ、苦手なだけで。
人の多い所はあまり得意ではないの。
気疲れしちゃうから。
でも、公爵家に嫁ぐと決めた日からこうなることは覚悟していましたし。
準備の期間も頂いたので、万全とは言えませんがなんとか取り繕うこともできました。
「まぁ、旦那様のことはいいのです。でも、今日はゆっくりと休んでくださいね。奥様。」
「えぇ?」
「他の者の仕事を手伝うのも禁止していますから。もし、したら皆、報告するように言っておりますので。」
「えぇ・・・そんなぁ。」
「嫌いでなくとも慣れない夜会に行かれたのですから、しっかりと休んでください。行くまでも準備で忙しくされていたのですから。今日ぐらいはゆっくりと休んでください。」
「でも、でも。」
「でももありません。」
ぴしゃりとエレナに言われて渋々部屋で過ごすことに。
久しぶりに刺繍でもしようかしらと、準備をしているとクリスがやってきた。
「お休みの所すみません。」
「いいえ、大丈夫よ。どうしたの?」
「奥様に手紙が。」
「私に手紙?」
一体、どういうこと?
私に手紙を送ってくるのは実家ぐらいだし。
クリスから貰った手紙を見れば、ウェンド侯爵家のマークが。
開けて見ればスーニャ様からの手紙でした。
「何故、スーニャ様から?」
「どうやら、奥様を大変お気に召したとのことで、わざわざ従者に手紙を昨日の今日で送ってきたようで。」
「えぇ、私、特にスーニャ様とお話していないけど。」
「えぇ、えぇ、旦那様から話はよく聞きました。その話を聞いて、スーニャ様が奥様を大変気にしていたのもよーく分かりました。」
「え?」
「奥様。旦那様とスーニャ様が元婚約者候補だった話はしましたよね。」
「えぇ。」
夜会に行く前にクリス達が話してくれたわ。
幼馴染みで仲が良かったから婚約者候補としていたと。
お互いも納得していたけども、旦那様が姫に恋をしてすぐにその候補もなくなったと。
「本人同士も同意はしていましたが、実際に結婚する気は一切なく、だからこそ候補だったという話はしていませんでしたよね。」
「えっ?そうなの?」
「えぇ、あのお二人は大変仲が悪かったので。」
「えぇ!?」
そうなの?
そんな様子は昨日見ていて感じなかったけども。
いえ、何かスーニャ様がとげのある言い方を旦那様にしているなって思ったけども幼馴染みだからこそかなって納得しましたが。
旦那様もスーニャ様に対して、刺々しい雰囲気をだしていましたが。
えっと、あれってまさか。
「あれは仲の良さの裏返しではなくて。本当だったの?」
「あぁ、昨日の夜会でもしたのですね。昔っから顔を合わせば喧嘩ばかりのお二人ですが、大人になっても変わりませんね。」
「えぇ・・・。」
「あのお二人はあまりにも似過ぎているのですよ。男女だからこそ、あれぐらいで済んでは居ますが、これが同じ性別だったら血を見ていたかもしれないっていうぐらいの仲の悪さなのです。」
「えぇ・・・。でも、それが今回の話と何か関係が?」




