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「素敵ですね。」



その言葉を聞いて、思わず目の前のお兄様の存在を忘れて見てしまった。

可愛らしく笑う幼馴染みの奥様。

突如現れた辺境のお嬢様だった彼女は、今の今まで社交界に出てきたことがなかった。

噂だけでしか聞いたことがなかった人。

噂では醜いのではとか世間知らずだからとか色々と好き勝手に噂されていた。

まぁ、そうだろう。

なんたって身分、外見、能力全てにおいて魅力的な幼馴染みだが、まぁ、恋愛に関してはポンコツ過ぎて残念公爵と名高い人に結婚した女性だ。

結婚をしても幸せにはなれないだろうと言われ、結婚はしたくないと普通の女性なら言われている幼馴染みと結婚した女性。

何か裏があるに違いないと思うのも仕方がないだろう。

頭がちょっとの者はあの外見、身分に騙されることもある。

きっと可哀想なご令嬢なのだろうと思っていた。

しかし、目の前に現れた女性はとても可憐で愛らしく、今までの噂はきっとこの一日でなくなってしまうだろう。

社交だってちゃんとしているし、穏やかな笑みに好印象をもった者も多く居るだろう。

遠くから見ていてもひっきりなしに声を掛けられているもの。

それに一つ一つ丁寧に対応している。



「あいつには勿体ない人だわ。」



思わず声が出てしまい隣にいたお兄様が苦笑している。

でも何も言われない。

お兄様は知っているものね。

私とあいつが犬猿の仲であるということは。

同族嫌悪とも言える。

私とあいつは似過ぎていた。

考え方や性格が。

ただ一つ違うとしたら恋愛に対してぐらいかしら。

基本優秀な幼馴染みは正直言って腹が立つ。

何事に置いても同じ考えをもちながらも私よりも優秀な成果を残す。

それがどれほど悔しかったことか。

まぁ、婚約者候補としてお互いが居たときは迷惑な虫共が来なくなったのは有り難かったが。

婚約者候補もお互いの利害の一致でしていたのだけどものね。

あの恋愛ポンコツめ。

勝手にあの駄目姫に恋をして、勝手にそれを破棄しやがって。

別に本当に結婚する気は一切なかったのでいいけども。

その後虫たちがわらわらと出てきて、面倒だったのだけども。

しかも捨てられた可哀想な女性とか勝手に勘違いしやがった虫共がいたせいで私のストレスは貯まりに貯まったのだけも。

まぁ、その怒りが起業する力となり、大成功し、そんな阿呆な虫共は近寄れなくなったのだけども。

しかし、つい先日までは姫に恋をしていると感じていたのだけども。

私は一切あの話を信じていないから、なんだったかしら、運命の出会い?だったかしら。

あんなのでたらめでしかない。

幼馴染みにそんな様子は一切なかったし、あの恋愛ポンコツがそんな器用なことができるはずがない。

あいつの考えていることは手に取るように分かる。

なんたって同族嫌悪になるほどそっくりな考えをもつ私だ。

もし私が同じ立場に立ったとき考えることは、契約婚だ。

本当に嫌になる。

そう思った瞬間、なおのことあいつが嫌いになった。

分からなくもないが、それを実際にしたあいつが本当に心底嫌い。

人をなんだと思っているのかしら。

私だって考えるけども、それを実際にするかどうか、それがあいつと私の違いだと思うわ。

そりゃあ、私だって自分の利益を考えて人と付き合うが、まさか何も知らない関係のない女性を巻き込むなんて。

本当に心底憎悪したわ。

今回、奥様を連れてくるって聞いたから、今日は参加したのだ。

あいつが来るっていう夜会は全て出なかったが、一目見てみたかったのだ。

哀れな女性を。

あいつの見た目や地位に惹かれてっていう阿呆な女なら別にいいが、純粋な女性が騙されてなら、助けてあげないと、と思ったの。

でも、一目見て驚いた。

あいつの目が本気だった。

よーくよーく知っていた私だからよく分かる。

あいつは本気で奥様を愛している。

好きで好きでたまらないと目が訴えている。

奥様が傍に居ないとそわそわして探し、男性に囲まれていると知れば憤怒し嫉妬し傍に駆け寄っている。

その姿のなんと滑稽なこと。

面白くて面白くて、笑いを堪えるのに必死だった。

挨拶が出来なくなるほど。

ようやく笑いが落ち着き、戻れば、お兄様があいつに声を掛けているではないか。

お兄様にさえ警戒しているあいつは本当に面白くて、抑えた笑いがまた沸き上がりそうになった。

必死に耐えて、見ていれば、必死なあいつに対して、奥様はとても落ち着いていた。

嗚呼、なるほど。

奥様の目線は困った子どもを見るような目だ。

なるほどなるほど。

こいつ、また片思いをしているのね。

しかも結婚した相手に対して。

ふふふ、ふふふ、まさか契約婚を迫った相手に結局片思いをして相手にされていないって訳!?

面白すぎる。

何よりも奥様が凄すぎる。

あれほど思われているのに、まったく関心をもっていない。

あいつ、外見はとびっきりの美形なのに。

全くといっていいほど相手されていない。

嗚呼、嗚呼、なんて面白いの。

なんて、なんて興味深い存在なの。

先ほどの様子から馬鹿な女性ではない。

寧ろ賢い女性だと思う。

なのに、なのに。

本当にとても興味深いわ!

思わず声を掛けるが、邪魔をされる。

相変わらず変なところで優秀な幼馴染みが割って入ってきて奥様とうまく話せない。

その間にお兄様が私について話しているようだけども、お兄様、もっと話し方がなくて?

事実ですが、まだ貴族の中では女性が働くことははしたないと思われるのが一般的なのに。

別にそんなこと言わなくても。

奥様と交流したいのに、軽蔑されたらしづらくなるじゃない!

そう思ってお兄様を睨んでいれば、奥様、ミシェル様はキラキラと目を輝かせて素敵と言ってくれた。

その瞬間、私の時は止まった。

何か奴が言っているが、聞こえない。

家族や仕事仲間は分かってくれていた。

それだけで良かった。

他の者にははしたないと言われても認めてくれる人がいれば別に思っていた。

でもでも、何も知らない。

今日初めて会った、しかも貴族の女性が素敵だと。

目を輝かせてそう言ったのだ。

それがこれほど嬉しいなんて。



「スーニャ?」



お兄様の声がする。

はっと気付けば、もう幼馴染み達は帰ったそうだ。

そんなに長い時間呆然としていたのか。

しかし、勿体ないことをしてしまった。

奥様と、ミシェル様とちゃんとお話が出来なかった。



「本当にどうしたんだ。スーニャ。」


「ねぇ、お兄様。私ってなんで男じゃないんでしょうね。」


「はっ?」


「男性だったら、きっと美男子でしょうし、今のように大成功して、お金にも困らない。お嫁さんとなる人を幸せにする自信があるんですよね。」


「おっおい?」


「いやー、似てる似てると思っていましたが、まさか好みまで被るとは。」



あの阿呆姫に恋したときにはこいつとここは違ったなって思っていたが、まさかまさかここも被っていたとは。

本当に同族嫌悪がさらに悪化しそうだわ。



「スーニャ?一体何をいって?」


「ふふふ、とりあえず、今の目標はミミって呼べる仲になることね。そうだわ、まずお茶会にお誘いしましょう。」


「あー・・・。もう。ローエンと喧嘩するのもほどほどにしとけよ。」


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