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「すまない。ミミ。しかし、怒ったミミも可愛らしいな。」
「そんなこと言ってもいけません。もう。」
「ふふふ。仲が良いことはいいことだね。」
ウェンド侯爵様は笑っていますけども。
正直言って恥ずかしいですし、仲良いアピールはこれぐらいで十分では?
「あら、ローエンお兄様ったら。噂は聞いてはいましたが、そんなに可愛らしい奥様を私にも紹介してくださいませんこと?」
「スーニャ。久しぶりだな。」
「えぇ。お兄様。うちでの夜会でしかお会いすることがありませんでしたから。」
後ろから声を掛けられて振り返ればとっても美しい女性。
確か、スーニャ・ウェンド様。
ウェンド侯爵様の妹様で、私より4歳年上だったはず。
そういえば、クリスが言ってましたね。
旦那様が姫に対して恋するまでは、スーニャ様が婚約者候補であったと。
歳も近く、仲が良かったからと。
まぁ、旦那様が恋をし、婚約は絶対にしないとなってからは話も流れたそうですが。
あれ、今の状況って修羅場ですか?
だって元といえども婚約者になろうとしていた女性と、仮初めといえどもそ人の妻である私がこうやって出会う。
これって小説であれば修羅場では!?
わぁ、なんていうことでしょう。
私は小説の中でしかなかった場面を現実で目にすることが出来るのですね。
「と、お兄様の話はいいのです。今は奥様ですわ。初めまして、奥様。私、スーニャ・ウェンドです。」
「あっ、私はミシェル・ウィルドです。」
「ふふふ。ようやくお会いすることができましたわ。」
えっ?ようやく?
嗚呼、もしかしてやっぱりスーニャ様は旦那様を今も思っていて、現旦那様の嫁である私に対して言いたいことがあるとか?
なんて言うことでしょう。
やはり修羅場なのですね。
嗚呼、私はちゃんと対応できるでしょうか。
別に何を言われても良いのですが、やはりちゃんとお答えしないと失礼ですし。
でも、私今までこういったことはないので。
いえ、社交界での生き方はちゃんとエレナ達から指導されてはいるのよ?
でも、ちゃんとお相手できるかは不安なのよね。
と不安になっていたのだけども、何故かスーニャ様から敵意とか嫉妬とか一切感じられないのですよね。
寧ろ素敵な笑顔を浮かべられているのですが。
えっと、なんでスーニャ様に手を握られているのでしょうか?
「嗚呼、なんて可愛らしい方。ローエンお兄様には勿体ない方ですわ。」
「え?」
「スーニャ、何をいっている?」
「事実を言っていますの。先ほどから奥様を見ていましたが本当に可愛らしくて、お近づきになりたいと思っていましたの。嗚呼、近くで見れば見るほど、美しい方。」
「えっ?えっ?」
一体、今何が起こっているのでしょうか?
現状に頭がついていかず成り行きを見ているしかなかったのですが、旦那様が私たちの間に入り込んできました。
そのときにスーニャ様につかまられていた手も外されました。
「スーニャ、お前。いい加減にしろ。お前から挨拶しに来たのはミミに近づく為だな。」
「えぇ。勿論。そうでなければわざわざお兄様の側になど寄りませんわ。それにしてもミシェル様はお兄様にミミと呼ばれてらっしゃるのね!私もお呼びしたいわ!」
「駄目だ!ミシェルをミミと呼べるのは親しい仲の者だけだ。」
えっと?
あら?何故、旦那様とスーニャ様が言い争いを始めたのかしら?
「すまない。ローエンとスーニャは昔っから仲が悪くてね。」
「仲が悪い?えっ、でも、元婚約者では?」
不思議に思って見ていれば、ウェンド侯爵様が呆れたように見ながら説明をしてくれていますが、今なんと?
仲が悪い?
「候補だよ。元、婚約者候補。親同士が仲が良くて幼なじみだったからとりあえず候補としておいたんだ。そうすればしばらくは鬱陶しい話もないだろうって。2人とも似すぎているから、そういう時には意見も合うんだが、どうやら同族嫌悪らしくてね。昔っから何かと喧嘩していたんだ。スーニャは外見こそ美女だが、中身は男性顔負けのお転婆娘でね、うちはそこまで淑女教育に力も入れずスーニャの好きな様にさせていたから、騎士顔負けなぐらい強くなってね。」
「えぇ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。故に今の今まで結婚はもちろん、婚約者もいない状態でね。でも、本人は一切気にはしていないし、あの子はあの子なりに起業して自立はしているから僕達家族は何も言わないんだ。結婚が全てとは思わないからね。まぁ、僕は跡取りとかあるから結婚しなくては、ならないけども、あの子はそれもないから自由にしてればいいかなっと。」
「そうなんですね。ふふふっ、素敵ですね。」
女性がお仕事されることは多くなってはいますが、貴族ではまだまだお仕事されている方はいません。
しかし、スーニャ様は起業されて成功されている。
女性でもしっかりと1人で生きていける。
なんてカッコイイんでしょうか。
私も頭が良ければ、また違った道があったのでしょうが、私は嫁に行くということしか方法がなかった。
だからこそスーニャ様がちゃんと前を向いて女性1人でも美しく輝いている姿がとても素敵。