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「夜会?ですか?」
「あっ嗚呼。」
最近普通になった旦那様との夕御飯。
旦那様が失恋から抜け出すお手伝いが出来ればと話し始めて、他のこともだんだん話せるようになったのでこの晩餐も苦では無くなりました。
しかし、夜会とは。
結婚してからしばらく経ちましたが、今までお茶会や夜会など人様の前に出ることは1度も無かったのですよね。
お誘いがなかった訳では無いのですが、クリスやエレナ辺りが上手いことしてくれていたそうで。
私もそういうのはあまり得意ではないので、なので、良かったのですが。
「今回は昔から縁のある方からのお誘いでね、是非君もと言われて断れなくてね。」
「そうですか。」
夜会となると、ダンスや社交もありますよね?
あまり自信が無いのです。
今までそういったことを実家でもせずにきましたから。
ダンスはこの屋敷にきてから練習だけは詰んではいますがそれでも自信はありません。
「ダメかな?」
「いえ、ダメでは無いですよ。」
結婚した以上そういうのも参加しないととは思ってましたから。
お飾りはお飾りなりの役目がありますもの。
仕方がありません、腹を括りましょう。
「分かりました。ちゃんと公爵家の奥様として努められるか分かりませんが努力だけは致します。」
「ミシェル。」
そうと決まれば、エレナ達にしっかりと話を聞いておかなければ。
今の社交界の事情を。
気合いを入れている私は気付きませんでした。
嬉嬉として私の新しいドレスや宝石を作ろうとしている旦那様とエレナがいることを。
そしてそれを旦那様が全くの对にしようとするがそれを阻止しようとするエレナがいることを。
そして、それを見ていたクリスがなんとか止め、色だけで何とか収まったことを。
一切知らない私は当日、着てみてびっくり、旦那をみてびっくりしました。
「なんて美しい。」
「えっと、あの、旦那様?」
「いつもは愛らしいが今日のミシェルはなんとも美しい。花の妖精の様だ。」
ええっと、旦那様?
そのですね。
いや、今日は朝からエレナ達が気合いを入れましてね、それこそ、夜会なのに今から?!と思いましたけども。
それでも朝から準備をしてくれたお陰で、いつもの私ではないような、立派な公爵夫人に見た目だけはなったのです。
恐るべしエレナ達の技。
それに、きっと、このドレスもお高いことでしょう。
わざわざ特注にしたと聞き、しかも有名なデザイナーがわざわざ1から考えたと聞き。
それはそれは美しいデザインのドレスなのです。
エーラインのドレスなのですが、淡い翠色に散りばめられた花の刺繍。
キラキラと輝くのは本物の宝石だとは思いたくないのです。
そして、キラキラと輝くのはドレスだけではなく、ジュエリー達も相当のお値段でしょうね。
旦那様の瞳と同じの青色。
ブルーサファイアを使った可愛らしいネックレスやイヤリング。
えぇ、もうお値段考えたくはないのです。
そして、今目の前にいる旦那様も濃い緑なのですが、所々にあるデザイン、襟元の刺繍が同じ花の刺繍だったりと同じものが多数あって、どう見てもペアの様な作り。
それを見たエレナは一瞬目を釣り上げていたとかいないとか。
「さぁ、いこうか。」
「えっ、ええ。」
旦那様にエスコートされて馬車に乗るが、なんとも不思議な気分。
エレナ達に見送られ、出発するが、何故か旦那様は隣のままだし。
いえ、分かってますよ。
お飾りということは私達だけの秘密ですものね。
だから、外では仲良しな夫婦を演じなければならないということは。
ええ、ええ、社交界では大恋愛の末結ばれた夫婦となってますものね。
しかしまだ、この時はいいのでは?
そう思って旦那様を見るが、旦那様は窓の外を眺めている。
気にしていないのかしら?
まあ、ここ数日で旦那様との仲は良好になっているとは思うわ。
気兼ねなく話ができるようになっているし。
だからかしら?
今隣に座っているのは。
なら、私も気にしなくてもいいのかもしれないわ。
こんな些細なことだもの。
どこに座るかなんてそんなに重要なことでは無いものね。
「嗚呼、もうすぐ着くな。」
「そうですか。」
もし、もうすぐ着くということは。
気合いを入れないと。
私は公爵夫人ですもの。
公爵家に泥を塗るようなことをしてはいけません。
「その、あのだな。」
「どうしました?旦那様?」
「夜会の間なんだが、君を愛称で呼んでもいいかい?」
「愛称ですか?」
何故と思いましたがなるほど。
欺く為ですね!
「えぇ、どうぞ。」
「では、ミミと。」
「はい、旦那様。」
返事をすれば旦那様は笑顔を浮かべている。
旦那様に手を引かれ、会場へと向かう。
さて、お仕事、頑張りますよ!