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「ねぇ、エレナ?」
「どうしました、奥様。」
いつも通りにエレナがテキパキと私の服の準備をしている。
うん、いつも通りの光景。
そう、いつも通りのはずなのに。
「今日も旦那様との朝食なのかしら?」
「はい、今日もです。」
「そう。」
やっぱり、今日もなのね。
可笑しいのよね。
最近の旦那様。
ここ、数週間。
お仕事に行く時間は遅くなっているし、逆に帰ってくる時間は早いし。
なのでご飯は、一緒に食べる日が続いているし。
それに、今までとは違って進んで会話をしようとするのよね。
今日はどうやって過ごしたか?とか、何が好きか?とか。
一体どうしたのでしょうか?
それに何故か毎日、お花を買ってきて下さるのよね。
高いものを贈られたら断れるのだけども、お花なので断りづらくて。
なので、私の部屋に飾ってるのですが。
派手な感じのお花じゃなく、私が好きな素朴で可愛らしいお花を2、3輪だけ買ってきてくれるので、それほど困りはしないのだけども。
それに、どうやらちゃんと領主としてのお仕事もしているようで忙しいとクリスから聞いている。
まぁ、領主としてのお仕事はまだお義父様が殆どしているようで少しずつしているそうですが。
「急にどうしたのかしら?旦那様?」
「はぁ。」
姫様に婚約者ができたことがショックなのはよく分かりますし、近くに今は居たくないから屋敷にいる時間が長いのは分かりますし、忙しくしてないと思い出してしまうからとかで領主としの仕事もし始めたというふうに考えられますが。
何故、私と過ごす時間を増やそうとするのかしら?
「あっ、1人で居たくないからね!」
そうよね。
一人でいると嫌なことを思い出してしまうものね!
「奥様、残念ながらそうではありません。」
「えっ?」
「旦那様がそばに居るのは奥様の傍に居たいからです。」
「私の傍に?」
一体何故?
旦那様からこの前、嫌いではないことをよくよーく話されたので嫌われてはないとは知ってますが。
しかし、何故お飾り妻の私と?
「仲良くなりたいそうですよ。」
「仲良く?」
「えぇ。だから奥様のことを知りたいそうです。」
「仲良く。」
私と仲良く?
えっと、なんで?
今まで通りでいいと思うのですが。
「これからずっと一緒に暮らしていくのですから、仲良くしたいそうですよ。」
「そうなの?」
「それにどうやらクリスさんが奥様に想い人がいるとのことを話してしまったそうで。」
「あら?そうなの?」
「はい、大変申し訳ございません。後からクリスさんからも謝罪しにいくと言っておりました。」
「あら、別にいいのよ。隠していた訳では無いし、旦那様だって、その話を聞いている方が安心するでしょう?」
そうよ、クリスが話してもおかしくは無いわ。
その話をすれば、もっと、旦那様は安心して姫様を想い続けるのだから。
嗚呼、そう!
そういうことね!
分かったわ!
なんで急に仲良くしたいなんて言うのか!
同じ想い人に想い通じぬ仲間だからね!
だから仲良くしたいと思ったのに違いない!
それに、想い人に想い通じぬでは私は先輩だもの。
どうやって乗り越えたのか聞きたいのかもしれないわ!
そうよ!そうよね!
私だって、あの時そんな人がそばに居たならすがり付いてしまいたかったもの!
私の場合はいなかったから耐え忍んだけども。
「そうね!そうよね!」
「奥様?」
「ならば、私がしっかりとお教えしないと!」
ふふふ、きっと、いまだに落ち混んでいらっしゃる旦那様は素直には聞けないから私から行かないと!
そうよ、それがいいわ!
「先輩だもの!」
「えっ?なんのですか?奥様??」
「失恋のよ!」
「なっ。」
まず、私の経験談を話していかないといけないわね。
でも、どうやって話せばいいかしら。
急に話し出したりしたらおかしいし。
そう思って悩んでいると、すぐさまその時はやってきた。
「ミッミシェル、そのだな、君の想い人のことなんだが。」
きた!!
この時だわ!
そう思ったので、しっかりと話しました。
私が金さんに出会ったことや、私の想い、そしてどうやってその想いを昇華したかをこと細くお教えしたのですが。
「奥様。」
「なぁに?エレナ?」
「いい気味なのですが、しかし、少し可哀想に思えるぐらい酷いです。」
「え?」
「旦那様、生きてるでしょうか?」
「まぁ、しぶとさだけは折紙付きだから。大丈夫でしょう。」
ジュジュまで。
一体何がかしら?




