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「奥様ぁああ!!」
「えっ!?」
「ぶはっ!!!」
旦那様が急に現れ、泣かれ、抱きしめられたと思ったら飛んだ。
何を言っているか私にもさっぱりだが、旦那様が飛んだのだ。
横にグォンっと。
そして何故か今目の前に居るのはエレナ。
えっと?
状況からして、エレナが旦那様に猫の身体能力を活かした飛び蹴りを入れて、旦那様が飛んだと?
「ちょっ!?えっエレナ!?だっ旦那様が!!」
「あーあ、旦那様だったんですね。旦那様がご帰宅したとの知らせが無かったもので、なにやら不審人物が奥様を抱きしめているかと思い、思わず戦闘防衛に入ってしまいましたわ。」
「えっ、あっ、そうなの?」
「はい。きっと旦那様は許してくださることだと思います。優しい旦那様ですし、それに今まで1度も奥様を抱きしめるなんて行為を1度も見たことが無かったものでまさか、まさか、旦那様が奥様を抱きしめているとは思いもしなかったので。ええ、ええ、1度もね。」
そう言われればそうか。
そうよね、旦那様が帰ったことも知らず、私が誰かに抱きしめられていたらびっくりするものね。
そう言えばセッカの時だって大層びっくりしてたもの。
しかも、私の不注意のせいでエレナ達は不審人物には大層気を使っているものね。
でも、旦那様に謝らないといけないわ。
「旦那様。」
振り返ればいつの間にかクリスが居て、旦那様を介抱してくれていた。
旦那様はフラフラとだが、立ち上がっており、私はエレナを連れ、旦那様の前へと行く。
かなり吹き飛ばされていたようで、結構距離があった。
そんなにエレナしなくても。
「旦那様、申し訳ございません。エレナは私が不審人物に襲われていると勘違いしたようです。」
「すみません、旦那様。何故不審人物に思えたか今一度お話致しましょうか?」
「いや、いい。」
「そうですか?聞こえてなかったでしょう?聞こえていないと何故私が旦那様をこれほど力を入れて蹴ってしまったかが分からないでしょうですので、今一度お話した方が良いかと。」
「いや、聞こえてたからいい!本当にいい!!」
「そうですか?」
あんなに遠くだったのに聞こえていたんですか?
旦那様、とても耳がいいんですね。
「しかし。」
「いい!いい!許すからもう言うな!」
「そうですか?」
どうやらエレナは許されたようです。
良かった良かった。
それにしてもエレナも、クリスもいつの間にここに来たのでしょう?
旦那様もですけども。
ここは畑と違う、私の土いじりスペースなんですよね。
好きな花を好きにしてもいいって、ビィーが作ってくれて。
私の部屋から見える小さな花壇なんですが、特にビィー以外は知らないはずなんですが。
「奥様がここにいることはビィーから聞いてますので。」
「そうです。また奥様が隠れて日に当たることがないようにってビィーに頼んで作ってもらいましたから。」
あらあら、そうだったのね。
ここ日陰な時間が長いと思ったらそういう事だったのね。
まぁ、お花も日光をそんなに浴びなくても成長するものを選んでたから、花たちはすくすくと育ってはいたので気にしてはいなかったのですが。
まさかのエレナの策略だったとは。
畑に行く時は必ずエレナを連れないといけないのですが、そう毎日毎日エレナを連れ出す訳にもいかず、でも土いじりは、したいという私の欲をよく知っていますね。
本当にエレナは優れた侍女である。
ふむふむと感心しているとどうやら戻ってきた旦那様に対してクリスは、用事があるようで有無を言わせず旦那様を連れ立って行った。
いや、本当に嵐のようでした。
「改めまして、奥様、大丈夫でしたか?」
「えっと?何がかしら?」
「急に旦那様に抱きしめられてです!今まで1度もそんなことなくて、奥様もびっくりされたのでは?」
「ええ、それはそうだけども。」
うーん、ビックリはしたけど、それだけなのよね。
正直ボロボロと泣きながらすがり付いてくる旦那様の姿はうちの弟のようで。
だからか、思わず撫でてしまったり、説教的はことを行ったりしてしまったのよね。
「そういえば、旦那様。姫様に婚約者が出来たとか。」
「そうらしいですね。隣国の獣人族の王子だそうで。」
「隣国。」
そうか。
旦那様の想い人は遠くに行ってしまわれるのですね。
それは大層辛いことでしょう。
私だって、出会って数日の金さんと別れたあとは暫く辛くて仕方がなかったもの。
旦那様はそれよりも長く思ってらしたものね。
「暫く旦那様は落ち込むでしょうね。」
「えっ?あーっ、んー、どうでしょう。」
「だって、数年思い続けた方が隣国に行かれるのよ?落ち込むでしょう?」
「んー。」
エレナは何か言いたそうに笑うが何も言わない。
何なのかしら。
気になるけど、しかし旦那様も気になります。
大丈夫でしょうか?