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「それよりも、ビィー、こんなに素敵なコスモスを育ててくれてありがとう。」
「どういたしまして、奥様。奥様が少しでも楽しんでくれると嬉しいっすから!後で、エレナさんに頼んで部屋に飾ってもらうっス!」
「まあ!本当に?嬉しいわ。」
「花は愛でられてこそっスからね!」
ニコニコ笑うビィーを思わず撫でてしまう。
ビィーはまだ12歳。
妹達とそう変わらない歳なのよね。
なのに、こんなにしっかりと働いているなんて。
妹達も畑仕事を手伝ったり、家事を手伝ったりしているけどもまだまだ甘えたざかりで、私が実家にいた時にはすぐさま抱きついてきたわ。
懐かしい。
「へへっ。奥様に撫でられるの気持ちいいっス。」
「ふふふ。私もビィーを撫でるととても幸せになるわ。」
「そうっすか!?ならもっともーっと!撫でて欲しいっス!!」
「あらあら。ふふふ。」
ビィーは犬の獣人さんだそうで、頭を撫でられることが好きって前に言ってくれていたものね。
ビィーが以前モフモフのお耳を付けていたのはとっても可愛くて、激しく撫でてしまったのよね。
あれはちょっと度が過ぎたと思って反省して、嗚呼ならないようには気をつけているんだけども、ビィーがグリグリと私の手のひらに頭を押し付けてくると愛おしいさが溢れて撫でる手が止まらなくなるのよね。
いつもなら、エレナが止めてくれるんだけども、今日は自分で止めないと。
いやでも、あともう少し。
「えっ?」
「んっ?」
急に撫でられていた手が止められたから、ビィーは顔を上げる。
そして、私も顔を上げる。
だって、あともう少しだけって思っていたら、誰かに手を握られてビィーの頭からはなれてしまったから。
そう、誰かに、まぁ、誰かにって言ってもそばに居たのは、ビィーと私以外ではたった1人。
「旦那様?」
私の手を持って、でも、そっぽを向いている旦那様。
一体なんでしょう?
あまりにもこの場にとどまりすぎたかしら。
でも、散歩ってゆっくりするものだけども。
まぁ、いつも忙しい旦那様にとっては無駄と思える時間で早く終わらせたかったのかもしれない。
そうよね、ビィーとの会話はまた今度にしましょう。
ビィーも仕事があるようだし。
ビィーにまた今度ねっと言って別れたのですが。
ちらりと目線を下げれば、まだ握られている手。
「あの、旦那様。」
「・・・なんだ?」
「いえ、あの、手を離してくれませんか?」
「えっ?あっ。」
えっ、まさか気づいてなかったのですか?
パッと離された手。
そして、旦那様顔を真っ赤に染めている。
ううん、嫌いな私の手を無意識に握っていたことによる怒りですかね?
でも、これに関しては私は何も悪い所はないと思うので、気にせず散歩を続けます。
しばらく立ち止まっていた旦那様は気持ちが落ち着いたのかいつの間にやら私の隣にいました。
別にいなくてもいいのに。
そろそろクリスだって許してくれるだろうし。
そう思っていると、エレナが旦那様に声を掛けた。
どうやらお仕事のことで何やらあったらしい。
旦那様は一瞬こちらを見たが、私がにっこりと微笑むと気まずそうにしながらも仕事支度をして、出かけられた。
ふー、ようやく落ち着けます!
「お疲れ様でした。奥様。」
「もう、エレナもクリスも意地悪ね。」
「そうでしょうか?優しい方だと思いますが?なにより、これが効いたのならこれからはちゃーんと危険なことをしないでくださいね。」
「はーい、分かりました。」
数時間とは言え、旦那様と一緒にいるのがこんなにも大変だなんて。
旦那様にはこれからもお仕事を頑張っていただかないと。
でも、もう少し御屋敷のことを気にしてもいただきたいと思います。
まぁ、でも、きっと旦那様の恋が終わるまで無理なのかもしれませんが。
「だいぶ先ですね、きっと。」
「奥様?」
「いいえ、なんでもないわ。」
そう思っていたのですが。
あの、まさか。
「だっ旦那様?」
「・・・。」
「えっと、あの、その。」
先だと思っていたことがすぐさま来るとは思いませんでした。
ボロボロと泣く旦那様を目の前に、私が途方に暮れるなど。
「どうされたのですか?旦那様。」
「ひっ姫に、姫に、婚約者が正式に決まった。」
「えっ。」
姫って、旦那様の想い人では?
私と契約結婚してでも思い続けたかった人。
その人に婚約者。
「しかも、それが、獣人族だっ!!!そんな!そんな!!なんで!?どうして!?ならば!ならば!!何故、何故あんなっ!」
思わず動いてしまうことも。
そして。
「ダメです、旦那様!獣人族を悪く言っては!絶対にダメです!!」
身の程知らずにも旦那様をお説教するだなんて。
そんなこと、今の私は全く考えていませんでした。
「そう言えば、奥様、新作のスイーツを作ったのでって、言ってましたよ?」
「ふふふ、そうなのね!それは是非食べに行かないとっ!」