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私は今、何故か旦那様と共にお庭を散歩している。
本当に何故?
「・・・。」
さっきからずっと旦那様無言なのが本当に苦しいです。
本当に何故こんなことに?
いえ、分かってはいるのです。
こうなったのもクリスの言葉のせいです。
あの後、クリスが言ったのです。
「是非、奥様の日頃の様子を旦那様に見ていただきたいと私がお伝えしたのです。」
っと。
ええ、そうクリスが言ったのです。
にっこり笑顔を浮かべて。
でも、あの笑顔は知っているのです。
クリスが怒っている時の笑顔です。
きっと、今日朝エレナが怒ってたのと一緒で、鍵を閉めていなかったことを怒ってるのでしょう。
ただでさえクリスは私が色んな所でお仕事お手伝いしたり畑仕事したりすることを苦い顔をしているのは知っています。
特に、お菓子作りなどの怪我をするかもしれないことは本当に苦い顔をします。
最初は本当に簡単な物しかしてなかったのですが、段々私も楽しくなってきて、結構本格的な物を作ったりするので、普通に火を使うし、包丁も使うことが増え、それを知ったクリスは大層怒りました。
でも、この公爵家で食べるお菓子は本当に美味しいのだけども豪華すぎて、あの実家で食べていた質素なお菓子が食べたくなることがあるのです。
料理長達に頼むことをすればいいとクリスは言うけど、普段の仕事以上のことを私のわがままでしてもらうことは悪いし、それも質素なお菓子を作れなんて言えないので、私がすこーし材料を分けてもらって作ってるのですが、多分昨日もそれをしたので怒ったのでしょう。
きっと今日はクリスに監視されるかなっと思ったのですが、まさかの旦那様を向けさせるとは。
相当クリス怒っていますね。
いや、きっとたまたま旦那様が嘘がバレないようにとする時とクリスの怒りとが一致したのだと思いますが、うん、しばらくお菓子作りは控えた方がいいですね。
旦那様をまさか監視の代わりにつけようとするまでなのですから。
もう、こんな風になるなら、しばらくは大人しくしてます。
だから、本当に許して欲しいです。
クリス。
そう願ってもクリスは他の仕事があるとかでこの場にはいない。
エレナはそばに居るけども、クリスから何か言われているのか数歩後ろに居る。
うぅ、こんなに会話がないなんて。
チラチラと旦那様を見るけども、旦那様はしかめっ面で、クリス、これは失敗ではないのかしら?
旦那様を怒らせたのではないかしら?
うぅ。
半泣きになりながらも、散歩を続けていれば、綺麗に咲く花々が。
これは、確か。
「コスモス。」
「ん?」
「素敵なコスモス!なんでここにこんなに咲いているのかしら?」
「あっ、奥様ー。」
「ビィー!あなたがこの花を育てたのね!?」
目の前に広がるコスモス花壇。
コスモスは私の実家の家紋にも描かれている花で、毎年綺麗なコスモス畑が家の近くに咲くのだが。
今はまだ6月。
何故コスモスが咲いているかしら?
しかもとても沢山。
こんなに沢山咲くなんて。
「前、奥様が実家では沢山のコスモスが見れたって言ってんで、ちょいと知り合いに頼んで、夏咲きのコスモスの苗を分けてもらったんっス。」
「夏咲きのコスモス。」
「そーそー。コスモスが咲く時期は6月から11月なんっス。ちなみに今咲くコスモスは夏咲きのコスモスっス。」
「そうだったの。いつも実家では秋に咲くものだから、秋しか咲かないものかと思っていたわ。」
「きっと、奥様の実家では秋咲きのコスモスっスね。一般的にはそっちの方が有名っスから!」
にししと笑うビィーに、思わず私も笑みが出る。
コスモスを今の時期に、そしてまさかのこの屋敷で見れるとは思わなかったわ。
ビィーには感謝しないと。
お礼を言おうとすると、何故か旦那様が私の前に立っていた。
えっ、なんで?
そした何故かビィーを睨んでいる。
えっえっ、なんで?
「お前、馴れ馴れしいぞ!!」
「「はっ?」」
「何を言ってるんですか?旦那様!?」
「彼女は私の妻だぞ!男のお前がそんなに近い距離で!」
「「はっ?」」
いや、いやいやいや。
何を言っているのですか?旦那様。
私とビィーの距離が近いと?
いつもこの距離ですけども。
えっ、もしかして、人とこの距離で話すことは公爵夫人としては不適切だと言いたいのですか?
でも、クリスやエレナとだって、この距離だし、挨拶をする程度の距離だと思うんですが。
それに、ビィーは。
「あの、旦那様。」
「なんだ?」
「あのですね、ビィーはですね。」
「私、女っスけど。」
「えっ?」
えっ?旦那様、今の冗談ではなく本気で言ってたんですか?
えっえっ、ビィーはビィーチェはこの御屋敷でずっと仕事をしているのですが、もしかして本当に男性だと思っていたんですか?
冗談で言っているかと思いましたが。
「まぁ、こんな格好っスからね。よく男性に間違われることは多いっすけども、一応、私は女っス。」
「そうです!ビィーは素敵な庭師さんですよ!」
ビィーはムゥじいさんの孫娘で、この庭園を美しくしてくれている庭師さんです。
庭師なので、動きやすい格好をしているし、帽子も被って、帽子の中に長い髪を全ているのでぱっと見、男性に見えるかもしれないけども歴とした女性です。
いつも可愛らしいお花を見つけては私に見せてくれる優しい女性です。
まさか、そんな素敵な庭師さんを旦那様知らないとは。
「旦那様は御屋敷のことに関して全然興味がないのですね。」
「あっ。」
そう感じてはいました。
いつもいつもお城に出向いてお仕事してましたものね。
領主としてのお仕事はいつもクリスがしているとエレナから聞いてました。
しかし、まさか御屋敷の働いている者達のことさえ知らないとは。
「奥様。旦那様は外の仕事が忙しいっスからね。私がここに来たのは旦那様がもっとも仕事が忙しい時期でしたから、知らなくても仕方がないっす。」
「そうなのね。でも、働いて、もう3年はたってるって言ってたわよね?」
「そうっすね。まぁ、基本庭で居ますから。」
「旦那様、お屋敷のことに対して興味が無さすぎませんか?」
「うっ。」
私達の周りことをお仕事とはいえ一生懸命頑張ってくれている人達のことを知らないとはどうかと思います。
仕事が大変なことは分かりますが、せめても、御屋敷
働いている者達ぐらいは知らないと。
まぁ、お飾りでしかない私が言える立場ではないのですけどね。




