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飛び立ったクリスを見送り、本来の目的の方による。
「旦那様、結構怒ってるね。」
「そう、見えるか?」
「うん。今までの旦那様なら気にもしてないだろうに。奥様の影響?」
そうビィに問われて気付いた。
そうだ、そうだよな。
今までの俺なら、気にもしていなかっただろうな。
いや、いないことも気づかなかったかもしれない。
それぐらい、周囲に興味が無かった。
でも、ミミと出会い、そしてミミを愛してから、よく周りも見えるようになった。
「それこそ前は私が女ってことも知らなかったぐらいだもんね。」
「うっ、そっそれは。」
「そんだけ自分でいっぱいいっぱいだった旦那様が、今は本当によく屋敷のこと見てるよね。それって奥様がとっても周りの人を見て、そしてとても愛してくれてるからだよね?」
「そうだな。ミミは屋敷の皆をとても愛している。そんなミミを愛おしいと思うし、なによりミミが愛しているものを俺も愛したいと思う。」
「ふふ、いいね。とっても。昔の旦那様は私、嫌いだったけど、今の旦那様は好きだよ。勿論、奥様、姉さんの次の次の次の次ぐらいだけど。」
「そりゃ、ありがとうな。」
「だから、そんな旦那様だから今は信頼してるし、ちゃんと、してくれるよね?」
「嗚呼、勿論。うちの奥様を悲しませた罪はじっくりと償ってもらおう。」
「はっは。楽しみだ。」
なんて顔で笑うんだ、ビィ。
一応、女の子なんだぞ?
お前。
そんな顔を見たら、ミミが悲しむぞ。
いや、でも俺もそんな顔なんだろうな。
「やぁ、こんにちは。いや、もう、こんばんはの時間かな?」
「一体、お前たちは!?」
「それはこちらの台詞だよ。一体、君たちはどこの誰で、何故、うちの大事な侍女を攫ってくれたのかな?詳しく教えて貰わないとな。」
にっこりと優しく笑ってやってるのに、何故、そんなに震えるかな?
ひと仕事終えて、ミミの元に帰れば、未だにエレナのやつ抱きついてやがる。
「旦那様。」
「離れろ、エレナ。」
「1番に言うことがそれとは。酷い旦那様ですね。」
「何を言う、お前のためにちゃんと話を聞いてきたというのに。」
「話?ですか?」
「嗚呼、エレナが本家から依頼されて必要とされていたのは、この情報だろう?」
今回の奴らは思った通り、ゴロツキの集まりで、特にあの国と直接関わりがあるもの達ではなかった。
金に困っていて、いい金儲けの話があると聞いて、集まったものたちだから、本当に末端の末端で、詳しいことも知らなかった。
「やっぱりそうですか。なんとなく、おかしいとは思ってました。あまりにも酷すぎる計画だったので。ただ、これが演技なのかもしれないという考えもあったので、まだそのままにしとく方がいいと思ってましたが。」
「一応の容姿だけを伝えられていたようだな。まだ大きく動くにはまだ確証が無かったから、末端を動かして様子を見ていた感じだな。」
「なるほど。なら、今回のこの動きは?伝わって?」
「いや、今回はまだ情報が行っていない。アイツらもコイツらを信頼してなかったようだな。だから、連絡を取る手段も与えていなかった。でも、今回コイツらを捕まえて分かったが、今、アイツらのような奴らが何グループも居るようだな。」
「そんな!」
「末端中の末端。トカゲの尻尾切りができるようになってる。そいつらを全部見つけて捕まえないと、今回みたいなことがまた起きるかもしれないな。いや、起きるだろう。」
「なっ、なら、止めないと!」
「嗚呼、だから今、殿下に連絡を取っている。この事はいち早く知らせているから、あちらで対策はとってくれているだろうな。それに、多分、エルビスがあちらの国にも伝えているだほうからな。あちらでも動きがあるんじゃないか?」
「叔父さんが!?」
「お前達と行動しなくなったのはその為だろう。」
「行動が早すぎる。」
「まぁ、今回のお前の誘拐の仕方を見て、直ぐに勘づいて動いたんだろう。慎重派なエレナとは違ってな。」
「はぁ。叔父さんにはまだまだ敵わないということか。」
「いや、これはエレナの性格だからな。仕方がないだろう。それに、今回のことに関しては、俺も色々と思うことがあるからな。とりあえずはエルビスをそのままにしているが、父上に話して、エルビスがそちらに向かったらそのままこっちに返してもらうようにしている。」
「えっ?」
「エレナも言いたいことがあるだろう?」
「えぇ、そうですね。言いたいことは沢山、ありますね。」
おぉ、笑顔が怖い怖い。
エルビス、お前の姪は相当ご立腹だぞ。
覚悟しておけ。




