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「クリス!!」


「急にどうしましたか?旦那様。」


「今日、朝から彼女が私との晩餐をやめろと言ってくると思うがそれを止めろ!!いいな!!」


「・・・はっ?」



クリスは無表情で俺を見る。

心底何を言っているか分からないという表情で。



「本当に急に何を?彼女とは、奥様の事ですよね?何故奥様が旦那様との晩餐を嫌がるのですか?いえ、嫌がるのは分かりますが、何故、それを旦那様が知って、そして何故その事を止めるのですか?旦那様は奥様を嫌ってらっしゃるのではないですか?」


「お前もかっ!何故、俺が彼女を嫌っているということになっているのだ!!俺は一切そんな事を言っていないぞっ!!」



そうだ。

俺は一切、彼女に嫌いだなんて言ってはいない。

なのに、何故、クリスもそして彼女も俺が嫌いだと思っているのか。

おかしいでは無いか!



「いや、今までの旦那様の態度を考えれば皆、そう思っても仕方がないと。」


「態度だと!?」


「お分かりではないと?」



クリスは大きくため息を付き、残念そうな表情で俺を見る。

嗚呼、久しぶりに見るクリスの顔だ。

最近はそんな顔を見せることなんてなかった。

いや、数年前までは見せていた。

でも、最近は俺がちゃんとクリスを見ていなかったんだ。

だから、今までもきっとクリスはこんな表情を浮かべていたのかもしれない。



「旦那様はほんとーに、こういう所では残念で仕方がありません。本当に。いいですか?旦那様。あなたは奥様と結婚してから数ヶ月、仕事があったとしてもそれでもほったらかしにして、会わず、そして次に会った時にはまともな会話をせず、また仕事を言い訳にしてまともに会わない。唯一のまともに会う時には晩餐だけなのに、なのに会話はやはりなし。そんな態度をとっている様子を見てたらどんな人でも嫌われてると思いますが?」


「うっ!」


「勿論、それをされていた奥様は嫌われてると思っていますよ。そして、あなたは出会った当初の奥様に契約を迫った、そんな旦那様に対して奥様はいい印象を持つことはあり得ると思いますか?」



無表情で俺を見るクリスに言葉が詰まる。

第三者の冷静な目線で見た事実を淡々と言われ、改めて酷いことはよく分かった。

いや、仕事場でも言われたのだ。

新婚のくせに居すぎだと、部下でもあり親友でもある副隊長に。

新婚でしかも運命的な出会いをしたとかなんとか言ってたくせにそれが、数ヶ月も奥さんをほったらかしにしているのはやばい。

これ以上、していれば他の奴らも気づくぞっと。

職場でさえ、そう思われていたのだ、彼女が過ごしている屋敷では確信を持っていてもおかしくは無い。

いや、でも、そこまで言わなくても。



「旦那様が想い人が居ることは奥様はよーくよーーく知っておりますし、ついこの間、旦那様の想い人の話もしましたので。」


「したのか!?彼女に!!」


「しましたよ。奥様が知りたがってましたし。それに社交界では有名すぎる話です。いつかは奥様も社交界に出ることもあるでしょう。そうなった時に必ず耳に入るはずです。その時に動揺などせずに居られるようお耳にいれとかなければならないのですよ。分かりましたか?」


「あっ、嗚呼。」



そりゃあ、もう社交界でも俺の話は飽き飽きするほどされているが。

それでも、勝手に彼女に話すなんて。

そうは思うが、それを俺が攻めることは出来ない。

そのまま放置ばかりしていた俺は。



「それで、なんでしたっけ?奥様が旦那様との晩餐を嫌がるという話でしたっけ?」


「嫌がるではない!彼女が俺を思ってやめようとするのを止めろと言ってるのだ!」


「旦那様を思って?ですか?」


「そうだ!」



そう頷けばクリスは何言ってんだこいつみたいな目線で俺を見る。

なんだろうか、最近クリスもだが、エレナや他のメイド達にもこんな目線で見られることが増えたような気がする。

いや、気がするだけだ。



「いや、いやいやいや!旦那様を奥様が思うですって?そんなこと有り得ません!おかしいでしょう!旦那様のことを嫌ってなら分かりますがっ!!」


「おいっ!クリス!」


「いや、だって、どこに旦那様を思う場面があるのですか!?今さっき言ったように一切ないでしょう!?」



クリスは、こんなやつだっただろうか?

常に冷静沈着な態度だったはずが。

しかし、すんごく失礼な事を言っている。

あのクリスが。

クリスがそんなに言うなんて。



「しかし、彼女が言ったのだ。」


「はぁ!?いつですか!?昨日だってまともな会話なんて一切なかったでしょう!!」


「そっ、それは。」



本当に彼女が言っていたのだが、何故聞いたのかと言われれば素直にはなかなか言えない。

まさか、狼の姿で彼女に会いに行っているなどと。

しかも深夜。

彼女の寝室の窓から侵入して。

いや、最初はたまたまだったのだ。

まさか、怪我をおい、疲れて意識が朦朧としていたからか自分の部屋についたと思い意識を飛ばしたのだが実は真反対の彼女の部屋の前に倒れていたなど。

そして優しく丁寧に怪我の手当をしてくれ、暖かい食事を作り与えてくれる彼女が気になるようになったなど。

獣人族と知っても優しく態度を、変えずに受け止めてくれる姿に興味を持ったのなど。

素直にいえるはずがない。

きっとクリスが知れば怒るだろうし、それにこの思い出を易々と誰かに話したいと思えないのだ。

何故か分からないが。

彼女とのこの思い出を。

なかなか話さない俺に苛立ったのかクリスは小さく舌打ちをしてぼそりとなにかを呟く。

本当に小さくだが。

狼である俺には聞こえてしまう。



「奥様が旦那様を思うわけが無い。奥様には想い人が他に居るのだから。」



聞こえてしまった。

聞こえてしまったのだ。

今、クリスはなんと言った?

奥様に想い人?

彼女に想い人が?

そんな。



「どういうことだ!?クリス!!」


「えっ!?」


「彼女に想い人がいるのか!?」

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