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「旦那様!あれ!」
「嗚呼、そうだな、きっとあれだな。ビィ!」
「うん、そうだね、母さんが近くにいる。」
「ビィ!来たのね。」
「母さん!」
まだ遠くにだけど、怪しげな小屋を見つけた。
その傍の木の影から現れたのはジウさん。
闇から浮き出てくるようで、ビィが声をかけなければ分からないぐらい溶け込んでいた。
「なっ、何故、奥様がここに?」
「姉さんが自分で助けだすって。」
「まぁ、なんてことを。奥様に何かあればと考えなかったの!?」
「ビィを怒らないで。ジウさん。私が無理矢理来たの。ビィはとめてくれたんだけど、私がエレナを助け出したかったから。」
「はぁ、仕方がないですね。旦那様、ちゃんと奥様を守ってくださいね。」
「当たり前だ。それで、今はどういう状態なんだ。」
「今は、ここで休憩中のようですね。」
ジウさんからの説明で、この誘拐が計画的ではないことがよく分かった。
ジウさんが、後を追っていて感じたことは準備不足。
誘拐するのには行き当たりばったりすぎているとしか思えないほどの装備不足に、準備不足。
たまたま誘拐しましたとしか思えないほど。
「私達は元々情報収集の為に、例の国に潜んで情報を集め、奥様に関しての情報はあまり掴んでいないことは知っていました。でも、今回、何故かエレナが誘拐された。曖昧な情報しかないのに、それっぽい人がいれば捕まえて誘拐なんて、正直言って、上手くまとまっていないことがよく分かります。どうやら、例の国に協力していると思われる国もどこまで協力しているのやらという感じです。」
「そうなのか。」
「はい。本当に協力しているのか。それが疑問に思えるほどです。あの国が協力しているのならば、ある程度の情報収集できる者たちもいれば、情報伝達ができる状態もできると思います。でも、今の感じでは個々が勝手に動いているような気がしてなりません。多分、今回の誘拐も単独での考えで動いているのではないかと思います。なので。」
「今、ここで潰しても、大丈夫だと?」
「はい。これまで観察していて感じましたが、トップまでこの誘拐の情報は行っていないような感じです。とりあえずそれっぽい者を捕まえて、後でお金を得ようとしている、それこそ盗賊のような感じなのです。国から訓練された兵とかでは無さそうです。勿論、情報としてはなんらかは得て、その情報から動かしているのは間違いないですが、それがちゃんと指揮の取られているチームでは無いのです。」
つまり、今、エレナを誘拐している者は、金に目が眩んだならず者の集まりということ?
それってつまり。
「訓練も受けていない者たちなので、つつけば直ぐに崩れるかと。」
「なるほど。ならば。」
「旦那様、1つ私に考えがあります。」
「ミミ?」
訓練されていない人達なら。
以前、お祖母様からお話頂いたあの戦術が使えるのでは?
「分かった。それで、ミミが納得できるのなら。」
「はい、できるだけ大事にはせずにしたいので。」
「分かった。ビィ、ジウと念話しながら、動けるな。」
「うん、いけるよ。」
「なら、2チームに別れて、今のミミの作戦でいくぞ。」
「「「はい。」」」
旦那様は私からの話を聞いてすぐに動いてくださった。
良かった。
旦那様にも納得していただけて。
作戦はとても簡単。
まずは、1つ目のチームが、動いて。
「ここに、うちの大事な娘がいるのはわかっている!出てこいっ!」
「なっ!」
大袈裟なぐらいに圧をかけて、相手を引きずり出す。
小屋から出てきたのは、20人程度。
なるほど、これは少ない。
まだ中に居るのかしら?
いえ、あれで全員ね。
だって、誘拐したエレナを連れて出てるもの。
あれはエレナを人質にしているつもり?
「うちのエレナを人質なんて。」
「ミミ。」
「許しません!!」
グッと力を込めて弓を引く。
大丈夫、作戦通りに動いている。
何人かは、先のチームが動いて捕まえてくれてるが、何人かは逃れている。
やっぱり、逃げるのを優先するわよね。
「でも、誰1人として逃がしません。」
さあ、久しぶりだけどいけるでしょうか。
いいえ、いかなくちゃいけない。
「はっ!!」
1度に飛ぶ矢は、3つ。
まずは練習がてらに、3人を木にぬい止める。
「後、5人。」
1人はエレナを人質にしてるから絶対に失敗できない。
「大丈夫、ミミならできる。」
「旦那様。はい、いきますよ!」
さあって、気を引き締めて。
「はぁっ!!」
5本同時に飛んだ矢は見事に命中。




