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「本当に末恐ろしいよ、姐さんは。」
「なんだいなんだい、人を化け物みたいに見て。」
「化け物みたいだよ、本当に。その先見の明は一体どこまで見えてるのさ。」
「先見の明などではないよ。ただ、経験と憶測を掛け合わして、導きだされたものからより良い未来になるようにと努力しただけじゃ。」
そう言って、笑う姐さんに、本当に寒気がおきるよ。
ただなんて可笑しすぎるんだよ。
特殊な能力なしで、ここまで見通せるのなんて。
怖すぎるんだよ。
「プージャは昔っからそういう風に見てくることがあるの。」
「まぁね。勿論、姐さんを尊敬してるし、それこそ神のように崇めることもできるし、愛しているよ。だけどね、その戦略を見せつけられると恐ろしいとさえ思うのさ。そして同時に美しいとさえね。」
「ほう?」
「今回だってそうだろう?」
あの忌々しい国が数十年の沈黙から静かに動き始めたことを、誰よりも先に感づき、動き始めた。
まず、協力できるであろう国々の王族達に声を掛け、表向きにはそんな動きがあるようには見せずに、協力体制を取らせた。
今回の結婚だって、結局はこの為にだ。
「まさか結婚まで、計算にいれるとはね。」
「別に計算に入れていたわけじゃない。ただ、アイツに話をもっていった時に、アイツが自分の子育てに悩んでいたからね。一人娘だからと甘やかしすぎたと。」
そうだ、そうだったね。
始まりは、あちらの国の陛下様の悩み相談だったね。
師匠である姐さんに弱音を吐いて、聞いてみれば、まぁお転婆娘で困った困った。
同じように生まれた兄は皇太子候補として順調に立派に育って言っているというのに、妹の方は何を間違ったか我儘娘になってしまった。
始まりは同じようにしていたが、男と女の違いで、弱音をすぐ吐く娘が可哀想に思えてすぐに教師を変えて、最後には優しいだけの者になってしまって、気付いた時には手遅れに。
それで、上手い嫁ぎ先も、なかなかなく、この歳まで婚約者がいないという現状に本人は何も気にしておらず、焦るのは親ばかりという現状。
一応一国の姫だ。
格下過ぎる爵位では、あの我儘娘の言われ放題で潰れてしまうかもしれない。
逆に高位になればなるほど、そんな高位な爵位の者の立場、仕事を支えられるほどの力がない娘を嫁に貰ってくれなど言えるはずもない。
寧ろそんな事すれば、国全体がおかしくなるかもしれない。
そう思い、悩み苦しんだ父は、かつての自分の師匠に泣きついた。
それが始まり。
「そういえばそうだった。それでウチに嫁ぐ事になったんだよね。」
「まぁ、アンタ所は特殊だからね。第1妃が無能であると困るけど順番が大きくなればなるほど、その能力は問われなくなるし、何よりアンタがいるからねぇ。」
「何時からうちの王族は、駆け込み寺のようになったのかねぇ。」
「まぁ、そう言うな。結局、お前に惚れて、力になりたいとメキメキと力をつけて、それこそ最強の王族へとなっているだろう?」
まぁ、それはそうだ。
弱小国であった我が国の王族は、それこそ今でも陛下はまだまだだ。
能力もそこまでなのだが、ここ数十年でメキメキと力をつけて来たのは、自国他国からの嫁達の力でだ。
「最初に嫁いだのはお前さんで、最強の猛者だろ?その後、策略家に、経営のスペシャリスト、ほんとにどこでそんなに引っ掛けてくるのかいねぇ。」
「姐さんに言われたくないよ。元々、うちの王族は何人でも嫁をとれるし、いつだって離婚しても良いから、ちょっと可哀想な女性達を保護する為にそうしたのが始まりな訳で。うちの主人は本当に獅子族とは思えないほどのお人好しだからね。ほいほいと返事をする。」
「そりゃあ、お前さんもだろ?連れてきてるのは大体お前さんだろ?」
「昔の自分を見ているようでほっとけないだけさ。別にその子のことを思ってしてる訳じゃない。」
「それでも助かったと思っている娘さん達は多いだろう?なにより、お前さんに惚れてるのが、多い。」
「別に、私は姐さん、アンタみたいになりたいけど、結局できなくてただ真似事をしてただけさ。私は姐さんに助けられたんだから。」
「本当に、アンタもなかなかしぶといねぇ。そんな恩義すぐに忘れろと言ってるだろう?私は、私のやりたいようにした結果でしか無いのだから。」
あっけらかんと言う姐さんの姿にだから、忘れられないのだと。
忘れる訳にはいけないと思うのだと。
そう思ってしまうが、姐さんはきっと本当に分かってないんだよね。
だから姐さんなのだけど。
「まぁ、今回の姫に関してはまさかのまさかだけどね。あれほどあの子を悩ませていた娘が、これほどの力と能力を持っていたとはね。」
「まぁ、あの子はあの環境があってなかっただけなのだろうね。」




