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「エレナ、最近とっても忙しそうね。」
「えっ、あっ、そんな!そんな!奥様が気にする程ではないですよ!」
「えっ、そう?でも、エレナが今まで他の子達に私のことを任せることってほとんどなかったじゃない?でも、最近は他の子達に任せて、どこかに出かけることが増えたような気がするの。」
「うっ。」
「大丈夫?何か、大変なことでも?」
「いいえ、大変なことじゃないです!とっても誇り高い仕事を任せていただいてるんですっ!」
今まで、この屋敷にやって来て、ずっとエレナは私の傍で居てくれていたから、最近エレナが傍に居ないことが少し寂しいと感じてしまって出てしまった言葉だったけど、何かエレナがおかしい。
エレナはそれこそ完璧侍女だから、引っ張りだこなのはよく分かるし、今までずっと私のそばに居ることがおかしかったのだけども。
でも、この反応はおかしいわ。
何か隠してる?
「そのお仕事って、一体?」
「くっ詳しくは言えません!」
「誰からのお仕事なの?旦那様?」
「いいえ、あのポンコツ旦那様ではありません。ただ、叔父さんを通してある方からの依頼なので断ることも出来ず。いえ、大変名誉なことなんですがね。」
「そう。ごめんね、変なこと言って。」
「いいえ、何も奥様は悪くはありません!あの、あの子たち何か不手際でも?一応、厳しく鍛えた者たちなんですが。」
「いいえ、皆とってもいい子たちよ?」
よく働いてくれる子達ばかりで、逆にやりすぎちゃうこともあるけど、本当にいい子たち。
「良かった。皆、奥様のお世話をしたくてたまらない者たちばかりなので、もしやり過ぎていたら声をかけてください。」
「わっ分かったわ。」
「でも、良かったです。奥様のお役に立てているなら。でも
、なら他に何かありましたか?奥様がこんな風に言うなんて。」
「いえ、特に意味は無いのよ!ただ、ずっとエレナは一緒にいてくれたでしょ?でも、最近はなかなかだったから。ちょっと寂しいなって。あははっ、何言ってるのかしら。ごめんなさい、馬鹿なこと言って。忘れて!」
「わっ、わっ、忘れるわけありませんっ!!奥様に寂しいなんて思ってもらえるなんて!!嗚呼、嬉しすぎる!!」
「うわっ!」
「嗚呼、奥様にお仕えできて幸せですっ!お仕事も頑張れそうですっ!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、恥ずかしいけど、でも、こうなったのは私の言葉のせいでもあるので。
でも、エレナの言うお仕事って一体。
そういえば、クリスも最近居なくなっているわ。
エレナと同じ時に。
「ねぇ、エレナ。もしかして、クリスと一緒にお仕事してるのかしら?」
「はいっ、クリスさんと一緒にですね。今は、旦那様も騎士の仕事ばかりではなく、屋敷での仕事もしてくれてるので、なんとかクリスさんも時間が作れるようになったので。なので、クリスさんの時間と合わせてなので、なかなか奥様にご不便をお掛けしてしまっています。」
「いいえ、そんなことはないわよ。でも、クリスもなんて。」
クリスだって、この屋敷の主要の執事長。
執事長と侍女長、2人ともが出かける仕事って一体。
ヴィ達も今、この屋敷を離れているから、なんだかとっても寂しい感じだし、何か胸騒ぎがするのよね。
いえ、私の勘違いよね、きっと。
ヴィ達も後数日で帰ってくるって旦那様も言っていたし。
ヴィ達が帰ってきたら、お出迎えして、それでお疲れ様会をして。
ふふふ、楽しくなってきた!
そう、この胸騒ぎもヴィ達が帰ってきたら落ち着くはず。
そう思っていた。
「ごめん!姉さん!!」
「えっ、ヴィ!?」
「エレナさんが!エレナさんが!!」
「エレナがどうしたの!?」
「誘拐された!!」
「えっ!?」
突如現れた少し懐かしさを感じる声に、喜びを感じる前に驚きと恐怖。
ヴィ達が何事もなく帰ってきたって言うのに。
「なっ、なん、で、エレナが?」
「姉さん。」
「そんな、そんな、嘘よ。嘘よね、だって今朝だって、会って。笑顔で私の髪を結ってくれて。」
「落ち着いて、姉さん。落ち着いて!!」
「そんな、そんな!!どうして、なんで!!なんでなの、ヴィ!!」




